お前のこと、猫ちゃんて呼んだろか!!

ぽんぽこ狸

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手仕事の授業 その3

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 既存のハンカチに刺繍をするだけなので、出来たらあとは渡すだけだ。
 図案はいくつか用意していて、私がクローバーをおすすめすると皆それになった。幸運というイメージの強いモチーフなので、手仕事にピッタリなのである。
 
「みんな出来ましたね。それじゃあ、相手に渡してみましょうか、最後に魔法を使いますよ。ミラ、前に来てください」
 
 視線を送ると、彼女は首を傾げて、私の方へ来てくれる後ろの人が見やすいように、私はミラを持ち上げて、教卓の上に座らせた。
 
「あ、あわっ」
「大丈夫、動かないで」
 
 安心させるように笑うと、皆に見られている事が恥ずかしいのか頬を染めた。
 
 わざわざ手袋をするのも面倒だったし、クルスが居なければ、そもそもつける必要が無いので素手で魔法をかける。
 
 ミラの手を取って刺繍に触れるように乗せて、上から手を重ねて包み込んだ。
 
「私の魔法が、ミラの助けになりますように」
 
 瞬間、聖痕が燃え上がるように、カッと熱くなり痛みを感じる暇もなく熱は引く、その代わりに、辺りに銀色の粉が飛び交って、ミラに染みこむように消えていく。
 
 聖痕の影響か、獣人相手に渡した時にしか出なかった光が出た。
 ミラは、驚いた表情のまま、ふるふると小さく肩を震わせている。
 
 あ、まずいと気がついたが、既に真似するように子供たちは、自分の手仕事の品を、相手に私と同じ文言で、魔力を馴染ませる。
 
 もちろん人間同士であれは、なんの問題もない、光は飛ばないし、心地よいぐらいで済むが……。
 
 カイリが、ディーテに少し気恥ずかしそうに魔法をかけた。
 
「私の魔法が貴方様の助けになりますように」
 
 すると、私の時と同様に光が飛び交う。
 ディーテは、毛をぶわわっと逆立てて、途端に獣の姿になる。
 たぬきの姿で椅子に座っているのが困難だったらしく、バランスが崩れて、ガタンと椅子から転げ落ちる。
 そのまま「キュンキュン」と子狸のような鳴き声を出しカイリに擦り寄った。それを見て、カイリは一瞬、戸惑ったが、ディーテの頬に優しく手を添えた。
 
 ……大丈夫だったみたい。リノとマティの状態から、手仕事の品を渡されると、興奮状態になるものだと思っていたが、存外、大人しく喜びを表してくれている。
 
 他の子供達も、たまに獣人が混ざっているからか、光が上がったりするが、どの子も暴れ出すような事はない。
 
 どうやら無事に、手仕事を教える事は出来たようだ。

 刺繍の手仕事の手順は、他の手仕事にも応用できる。道具に魔力を込めること、相手に対する好意をもって制作する事、渡す時に、魔力を馴染ませること。

 これが出来ていれば、大体、なんの手仕事でも出来るはずだ。あとは練習と勉強次第!
 マナンルークから、手仕事の指南書なんかを仕入れて、ここに置いても良いだろう。孤児院に寄贈出来るタイミングがあれば、やってみよう。
 
「……」
 
 教卓の前で、皆が楽しそうにハンカチを渡しているのを見渡して居ると、ミラが自分のハンカチを手に取って、じっと私を見た。
 
 ……!そうだ、私に送ってくれるという話だった。
 ミラは、刺繍の部分を上にして、ハンカチを差し出す。私は、安心して欲しくて、少し微笑んで軽く手を添えた。
 
「私の魔法が……ロイネ姫様のお役に立ちますように」
 
 囁くような小さな声がして、添えた手が暖炉にかざした時のように、柔らかく温まる。
 優しく灯るような魔力は、私が今まで感じてきた手仕事の力とは、まるで違った。
 
「ミラの魔法は優しいですね……」
 
 なければ、悲しくて仕方が無くなるような中毒性のある、魔法じゃない。
 あったら嬉しいと思う、柔らかく暖かい思いの結晶だ。
 
「ありがうミラ……ミラが望んでくれれば、私は貴方を引き取りたいと思います。考えておいてください」
「あ、ぅ、はいっ!わたっ、私っ、はいっ」
 
 何かを言おうとして、言葉が追いつかないのか、またひたすらに、頷いた。可愛らしいその仕草に、よしよしと頭を撫でた。
 
 さて、これで今日の大仕事は終わった、あとは……エクトルに…………。
 
 ふっと血の気が引いて、膝の力が抜ける。
 咄嗟に教卓に手を付いて、体勢を保った、ミラを何とか教卓から下ろして、汗を拭う。

 顔が熱い、また情けないことに熱が出たらしい……そういえば、ここの子達はそういう弊害は無かったのだっけ、良かった、子供が熱を出したら大変だもの。
 
 締めの挨拶ぐらいして、お水をもらおう、それから薬を飲んで……マティとリノに迎えに来てもらわないと帰れないかな。
 
 それまで……がまん!情けないところは、見せられない、仮にも、王族、だから笑顔を絶やしてはならない。
 
 そう思い、表情を作って顔をあげると、不服そうなルカが目の前に立っていた。
 また、熱を測るように首に触れる。


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