お前のこと、猫ちゃんて呼んだろか!!

ぽんぽこ狸

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アンジュの決断

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 よく分からない胸の高鳴りを抑えるのに、三十分程時間が必要だったが、安静にして、目を閉じていれば、辛いということもなかった。
 
 いつの間にかボロボロのエクトルが、私に誠心誠意、謝罪をして、それから、傷一つ無いアンジュが私と向かい合って座っていた。
 ルカとエクトルは、居ると話がややこしくなるので医務室の修理に向かっていった。
 
「ロイネ姫様?」
「……うん、聞いてる」
 
 アンジュにも場所をわきまえず、暴れたこと、危険な目に合わせたことを膝をついて謝罪されて「きにしてない」を繰り返しやっと、普通に話し始めたところだ。
 
「一応、仕えてくれるって事で、良いんだよね」
「はいっ、今回は失敗してしまいましたが、わたくし、ロイネ姫様のサポートが出来るよう、励んで参ります!」
 
 うん、良かった。やっと話がまとまって、私はため息をついて大きく項垂れる。
 気を抜いても良いだろうか、アンジュとエクトルの大喧嘩も確かに心臓に悪かったけれど、なんでだかその後にルカと話した事の方が、どっと疲れた。
 
「姫様?!」
「……サポート……ねぇ、アンジュ、私が死ななければ取っ組み合いの喧嘩したいって思う?」
「??え、えぇと、わたくし」
 
 私の意味不明な質問にアンジュは、混乱して、ピンとお耳を立てる。
 ぬぐうと難しい顔をして考えて、ハッと気がついたような顔をしてから、また首を傾げる。
 
 なんだか可愛い。
 
「ごめん、ちょっと悩み事で」
「左様ですか……わたくしには分からないですけれど、いつでも喧嘩のお相手は致しますわっ」
 
 ふふん!と自慢げにアンジュは鼻を鳴らす。
 
 そういう問題じゃないと思うのだけど、まぁ、……今はそれでいいか。
 
「相手って……そうだね、お願いしようかな。アンジュと喧嘩してたら強くなれそうだし」
「ええ!わたくし体術は得意ですのよ!指導しますわ」
 
 そんな程度で、私がルカと真っ向勝負出来るとは思わないが、気持ちの持ちようだ。聞いてしまったのだからやってみればいい。
 
 なにか違うと、自分でわかっていつつも、グッと顔をあげる。悩んでいても始まらない、ルカだって気にしてなさそうだった!軽く考えていこう。
 
「ありがと!よし、強くなるよ!私」
「さすがですわっ」
「って……あ、そうだ。なんかスッキリしたら聞かなきゃ行けない事、沢山あったの思い出した」
 
 無理やり頭を切り替えて、本腰入れてアンジュと向かい合う。
 
「アンジュは誰かに呼ばれてここに来たの?」
「!いいえ、わたくし、ノーラに言われて、家族を問い詰めたのです、そしたら、エクトルお兄様が、絡んでいる事がわかりましたわ」
「うん」
「ですから、もう直撃するしか無いと、わたくし思ったんですの!孤児院にロイネ姫様が来るのをずっと待っていましたわ」
「それで突然現れたと」
「ええ!」
 
 アンジュの行動力には感服だ。
 そして、私といざ対面できると思ったらエクトルと話をしていて……喧嘩に発展という事か。
 
「エクトルとは、話がついた?彼は納得してくれたの?」
「……その、エクトルお兄様は、ああですから、本当は私の主が誰であっても、嫌だと主張してました。納得はして貰えませんでしたけれど、ちゃんと邪魔をしないと約束してくれましたわ」
 
 誰でも嫌って……子供じゃないんだから、仕事とプライベートは分けて考えて欲しいな、まったく。
 
 まぁ、二人の間で、話がついたのなら私は何も言うまい。
 
「わかった。あと、人間と獣人の種族間の最初の問題も、アンジュの中で片付いたの?」
「はい、わたくし……ロイネ姫様がこれからどんな人間を引き立てようと、召抱える事になっても、誰よりも有能であろうと努力するのみです」
「そっか、ありがとう……」
 
 吹っ切れた答えだ。私もそれだけのことをして貰えるような、立派な人間にならなければと思う。

 付き人は、いわば相談役のようなものだ、ルカとエクトルのように、護衛のような関係性の場合もあるが一般的には、公的な場での付き添い、公務での相談事や手伝いをしてくれる。
 
 王族の付き人は身分が近しい者しかなれないので、同じ目線で話が出来る。友人のような仕事仲間のような関係性なのだ。
 
 だから正直、本当ならアンジュの心配は無用だ。

 アンジュには、アンジュしかできない仕事がある。私がいくら、人間の従者を雇おうとも、アンジュとは違い、仕事のサポートではなく生活のサポートになる。
 もちろん、私が付き人と従者を混同して、対応する事も考えられなくも無いけれど、それをやるつもりは無い。
 
「アンジュ、とりあえず、一人、この孤児院から引き取ろうと考えて居るのですけど、整理が付いたなら、問題無いかな」
「ええ!ドンと来いですわ!……ただし、その子のお顔だけでも拝んでおきましょうか、わたくし絶対に負けませんもの」
 
 ミラの事を予め言っておこうと思ったのだが、どうやら、完全には整理が着いたわけではないようだ。
 ミラの従者入りは、まだまだ先の事なので、追い抜かされる事は無いと思う。
 
「あはは、ミラって子なんだけど、アンジュより十歳は年下だから、ライバルより、妹分にしてあげて欲しいかな?」
「……妹分……妹」
 
 私がそういうと、アンジュが何故か妹という言葉に反応して繰り返す、それから耳をパタタ、と動かして、しっぽをゆると揺らした。
 
 それから恋する乙女のように、ほうっと頬を染める。その表情は、アンジュのことを語っているエクトルに似ているような気がした。
 
「わたくし……立派な姉貴分になりますわっ!」
「……家族だなぁ」
 
 この調子なら、従者間いじめが起こる心配をしなくて良さそうだ。
 なにか逆に、怖さを感じるが、気の所為であると思いたい。アンジュの新しい扉を開けてしまったようで不安だ。しかし、こうなったら今更、仲悪くしろとは言えないだろう。
 
「うん、まずは、私の獣人のメイドと上手くやってくれると助かる……かな」
「はいっ、お任せ下さい!」
 
 
 それから城に戻り、私がお義母さまに話を通して正式にアンジュを雇用するという約束をして、その日はお開きになった。
 
 
 
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