お前のこと、猫ちゃんて呼んだろか!!

ぽんぽこ狸

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人間の貴族  その1

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 酷く寒いある日のことだった。
 毎日、目まぐるしくパーティが開かれ、国中の貴族全員と面識を持ったのではないか、と思うぐらい社交に忙殺される日々を送っていた。
 
 アンジュはとても良く私に仕えてくれていた。彼女は国の政治や貴族の知識が深く、私が至らない部分もサラリとこなしカバーしてくれる。
 初対面の人であっても、アンジュがそばで私に仕えてくれていると言うだけで、好意的に見られることが多い。

 多少、エクトルと過激に喧嘩する事があったり、ミラにものすごい贈り物をしたり、と奇行が目立つ時もあるがそれを差し引いても、自慢の側近である。
 マティとリノとの関係も良好で、忙しいけれど、充実している。
 
 ただ、トラブルと言うものは突然やってくるもので、私は、目の前に出された手紙に、目を見開いた。
 
「これは……まさかあちらから、招待状とは」
「えぇ、ロイネ様との顔繋ぎもない貴族令嬢です。身分的にもマナー違反でしょう」
 
 カミーユは、いつもと変わらない表情で言ったが、言葉に少し苛立ちと焦りを感じる。
 
「……わざわざ、こうしてこの場を設けたという事は、それだけでは無いのよね?」
「仰る通りです」
 
 カミーユとは、夜会やお茶会で、何度も顔を合わせているのだが、内密に相談したいことがあると言われて、空き時間にこうして、二人でお茶をする時間を作った。
 
 二人と言っても、アンジュも一緒である。それ以外の使用人は一人もいない。よほど聞かせたくない事だとは思うが、まだ事の重大さが分からない。
 
「人間の貴族がいると言うお話はご存知でしょうか」
「はい、理由も知っています。養子でこちらに来た方達なんでしょ。いつか関わる日が来るとは思ってましたけど……今かぁ」
 
 私があからさまに面倒くさそうな顔をすると、カミーユも困ったようにクスッと笑った。
 相変わらず、なんの動物だか分からないお耳をしているが、ノーラとの関係は良好だろうか。

 今度、また、遊猟会のメンバーでゆっくりとお茶会でもしたいものだ。
 
「ロイネ様は、出身国の同じ貴族になるのですが、特別連絡を取り合ったりしていないのですよね?」
「うん、私、マナンルークでも、特殊な立ち位置にいたから、正直、あまり関わりがないのよ。タリスビアでもまだ立場が安定してないから……しばらくコンタクトを取るつもりは無かったんだけど」
 
 あちら側から、まさかカミーユを通して、渡りを付けてくるとは大したものである。きっと正式に書状が送られて来ていたら、私の所まで話が回ってくることはなかったのでは無いかと思う。
 
 ルカ辺りが、勝手に処分するかもしれないし、内容によっては、お義父さまとお義母さますら通さない可能性がある。
 
「このようなお話を持ち込んでしまい、大変申し訳ございません。ですが、私一人ではどうにも出来ず……」
「いえ、私の方こそ、手間をかけさせてしまってごめんなさい。読んで構いませんか?」
「はい」
 
 手紙を開いて背後で控えていたアンジュと共に、文字をおっていく。
 
 突然の手紙を謝罪する言葉もなく、顔繋ぎのお願いでもなく、そこには目を疑う内容が記載されていた。
 
 要約するとそれは脅し文句だった。

 この招待に応じない場合には、自分たちのマナンルークの実家に私の非道な行いを告発し、二度と公的な場に出ることができないようにしてやる……と。
 
「この人間、姫様を侮辱するなど死罪にあたいしますわ」
「ア、アンジュ、抑えて」
 
 背後からビシビシと殺意のようなものを感じて、私は慌ててティーカップをからにした。
 すると、手馴れた仕草で、継ぎ足してくれる。そのまま彼女の手を引いて隣に座ってもらう。
 今は、カミーユだけなので、不都合もないだろう。
 
「それで、カミーユは……真偽を確認しに来てくれたと思っていいのかな」
「はい……私は、姫様が同族に非道を……というか、法に触れるような事を人にする人だとは思えませんが、万が一があっては、私の幼なじみと、っ、……新たな友人を失うことになる、ので」
 
 カミーユは耳を伏せて、頬をポリポリとかいた。絵に書いたような恥ずかしがり方である。
 
 と、友達……友人!
 明るい雰囲気では無いのに、私はその言葉に敏感に反応してばっと顔を上げる。
 
「私も友人だと思っています!カミーユ!」
「う、」
 
 突然の行動にカミーユは困ったように笑って、大人びた表情を崩した。カミーユ!いい人だ!カミーユとお友達なのだとしたら、アンジュやノーラとはもう親友である。
 
 カミーユにハグするわけには行かないので、隣にいたアンジュをぎゅっと抱きしめた。
 
「アンジュ!友人が初めてできました!今日は祝杯ですっ」
「あうっ、ロイネ、姫様……わ、わたくしは」
「アンジュは親友枠ですよ!」
「はうぅ」
 
 私の言葉にアンジュは、ピーンとしっぽを立てて、人間の姿のままゴロゴロと咽喉を鳴らした。
 しばらく、わさわさとアンジュと撫で回し興奮を抑えると、話の続きをしなければならない。
 私はとりあえず疑問に思ったことを口に出す。
 
「……あの、カミーユと、この伯爵令嬢……イーリスとは、どういう繋がりなんですか」
「仕事で関わりのある貴族なんです。ジーベル伯爵家は、私達と同じく港付近に領地を持っている貴族ですので、家族間での付き合いもあります」
「はい」
「イーリス本人には会ったことはありませんが、ジーベル伯爵を経由して、私に内密にロイネ様に届けるようにと、受けましたが、もちろん、そのような怪しい密通の手伝いするつもりはありません。内容を改めさせて頂きました」
「そして、私を心配して、こうして先に言いに来てくれたのですね」
「はい、余計な事かもしれないと思ったのですが……」
「いいえ、ありがとう」
 
 ……。
 後ろめたいことなど何も無い。私はここに来てからも、ここに来る前も、告発されて困ることはしていないでも……。
 
「……招待の期日まで時間がありますね……少し考えて私が対処します。その手紙、貰っていいですか」
「はい……ジーベル伯爵は……いえ。どうかお気をつけてください」
「えぇ、大丈夫」
 
 しばらく三人で他愛のない話をして、私は自室に戻った。
 
 
 



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