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人間と獣人 その3
しおりを挟むお部屋の真ん中に居たはずが、端っこの壁に体を預けていた。
視界が、薄らぼんやり赤みがかっている。
黒焦げた壁に、チラチラと炎をまとっているカーペット、窓ガラスは飛び散り、何が起こったのかを思い出させてくれる。
全身痛くて、視線だけ動かしてアンジュを探した、あの時、クリスティナ様を庇った人のように、爆散していたらどうしようかと。
しかし、目の前には、おおよそ人とは思えない、血まみれの片腕の無い化け物がつったていた。
その風貌に息を飲む。一生夢に出そうな姿だ。こんな事になるはずじゃなかった。
痛ましい傷だらけの口から耳障りの悪いざらついた声をだす。
「カトリーナ、から、ぎぃてたのにぃ。やっと助けがぁ、ぁあ゛ぁ、くるって、」
あれほど間近で、爆発を受けたのに、私の耳は無事だったようで、彼女の恨み言が聞こえた。
カトリーナは、私に罪をなすりつけた姫の名前だ。
血縁者か、伯爵令嬢という身分にまで落とされていたので、まさか、共にタリスビアから来た姫様たちの血縁がいるとは、予想していなかった。
まぁ、イーリスを見た瞬間に、繋がりはあると思っていたが……あの子の姉妹だったのか。
こんな関わり方、したくなかった。
「嘘つぎ……ひと、殺しぃ、お前ばかり、ぃぃ……しね……しねよぉ、しね」
イーリスの残っている右手には、うっすらと聖痕が確認できた。手を酷く火傷しているようで、赤紫の肌に、次から次に血が滲んでグロテスクだ。
遠くか、近くで、怒号のような低く響く声が聞こえた、アンジュだ。生きてる。怪我していないといいな。
目の前のイーリスは、フラフラと、揺れてそれから、ゴトリと横たわった。
それでも、私のほうに片手で這いずってよってきて、焼けただれた瞳から涙をこぼした。
手紙はただの救難信号じゃなかった、私が想像していたよりはるかに、重たいものだった。私の覚悟なんか容易に飛び越えた、悲惨な状況に、体が震えて涙が止まらない。
そして血も止まらない、ゆっくりと死んでいく、目の前のイーリスと自分。
服が自分の血で真っ赤に染まっていく。
どこから出血しているのだろう。打ち身のような痛みが酷くて、分からない。
馬鹿だ、私。救いようも無い馬鹿だ。
死ぬんだろうかと、縁起でもないような事を考えた時、人の足音と喧騒が近づいてきた。
視界にアンジュがうつって、それから何故か、ルカがいる。
それ以外にも大勢、人がなだれ込んできて、忙しない。
ルカはすぐに私の血を拭って、手当を始めようとするので、彼の手を掴んだ。
「……、っ~、、るか!」
喋れる。至近距離で爆発を受けたとは思えないほど体は簡単に動いた。痛みを伴うが声も出せる。
「イーリスをっ、治して!!」
たとえ、カトリーナが私に罪を擦り付けていようとも、イーリスが私を傷つけて居ようとも、彼女たちにはなんの罪もないと私は思う。
イーリスがこんな行動に出る程、追い詰められた状況にいることを知らなかった、知る機会だってあったのに放置していた。このままでは、嫌だ。
わがままを聞いて欲しい。
「っ!姫様っ、どうしてっ!……っ、ぅ、わたくしがイーリスを治癒しますわ、ルカ様はロイネ姫様を!!」
アンジュがそう言って、床でだくだくと血を流す彼女に手を触れる。イーリスはまだ息がある、酷い怪我だけれど、命だけでも救って欲しい。
……良かった。彼女が助かれば、あとはどうとでもなる。私の失態だ。私はこのまま死んだっていい。
怪我がなおったらイーリスはちゃんと母国に帰れるだろうか、こんな事件があった以上は、彼女は放置されないはずだ。
アンジュも無事にエクトルの元に帰れるし……。
とにかく、丸く治ってよかった。ただ、またルカに迷惑をかけて申し訳ない。
私は本当に、馬鹿でルカも呆れているだろう、後でしっかり謝罪をしなければ。
「あ、ふふ」
情けなく涙が出てしまいそうで声に出して笑った。これも割と悪癖だ。変な誤解をされそうで、辞めたいと思っているけれど、辞められない。
決して面白い事なんかないけれど、本当は血が止まらないのが、怖くて仕方ないのに自分の失敗なのだからと自嘲するしかない。
血を流しすぎたのか意識が途切れそうになり、眠気に抗っていると、首元に手が触れる。慣れてきた感覚に少しだけ感情が落ち着く。
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