お前のこと、猫ちゃんて呼んだろか!!

ぽんぽこ狸

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傷 その2

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 振り向けば、ルカは口を引き結んで、無言で涙をこぼしていた。
 金色のお月様のような瞳は、涙に潤んで光を反射する。大袈裟に声をあげているのでも無いのに、酷く悲しそうで、たった今、私が傷つけたのだと知った。
 
 目が合うと、ルカはおでこに当てていた手をずらして私の目元を隠して、見えないようにした。
 
「ごめん、ルカ。ごめん」
「なに、あぁ、……うん。いいよ、いいから」
 
 ルカの声は震えていて、時折、引きつったように喉を鳴らす。優しいのだと知っていた、私のために怒ってくれたりもするのだろうとも思っていた。だから、バツが悪くて、少しだけそっぽ向いた。
 
 それだけのつもりだったのに、泣くだなんて思ってなかった。そんなに感情を乱すほどに、私と仲良くなっていたなんて、私も知らなかった。
 
「……いいよ。知って、っ、たから、こういう人間、だって」
 
 ルカに目元を覆われていると、ぼんやりと赤かった視界が、ゆっくりと正常な色を取り戻して、それから段々と、自分の体の痛みを知覚して、意識がはっきりとしていく。
 
「俺ね……思うんだ。女王の洗脳が解けても、君のその病気は治らなかったんだって……少し痛むよ」
「……うん」
 
 脇腹に緩く触れられると、あきらかに痛みが酷い部分がある。それでもルカに数秒、触れられるだけで、粗方の痛みは消え去る。
 
 病気……なんの事だろう。ルカが言っている意味がよくわからずに、彼を見上げると、未だに瞳は潤んだままだ。
 
「自分より、……他人を優先、しちゃう、びょうき。リノとマティから……聞いてるよ」
「……?」
 
 そう言えば、彼は私が火傷をおった時に言っていた。私は病気だって、でも、だとしても、私の側近たちから何を聞くというのだろう。そしてこの話はなんの関係があるんだろうか。
 
「リノとマティは俺の側近だったから、君の事見てて貰ってたんだけど、お陰でわかったから」
「……、?」
「家族が居ればいいんでしょ」
 
 今の怪我と繋がりがかんじられずに、首をかしげた。確かに家族は欲しいけれど、簡単に出来るものでもない。
 
「家族が出来たら、君は自分を優先できるんでしょ」
「ど、どうだろ」
「多分、そうだって、二人も言ってたし、俺もそう思う、から君は早く家族を作った方がいい」
「うん……?あはは、……うーん、出来たらね」
 
 なんと言ったら良いのか分からなくて、曖昧に返事をした。早く身を固めて、無茶をしないようになれと言いたいのだとは分かるけど、はっきりとは返答はできない。
 
 私が、微笑むと、あまり真剣に捉えていない事がルカにもわからったらしく、私を膝から下ろして、バルコニーの柵に寄りかかるように座らせる。

 やっと私も体の痛みが引いて、辛く無くなってきた。
 こうして、当たり前のように治してくれるけれど、普通なら死んでいた、しっかりと感謝しなければならないだろう。
 
「俺が、選んだ。君の事は、俺がこの国に留めた。だから」
 
 もう話は終わったと思っていたのに、ルカは続ける。柵に手をついて、私を覗き込んだ。
 少し前に感じた事のある変な動悸が起きる。
 
 やめた方がいい、期待なんてしない方がいい、自分に言い聞かせて、私はルカを見つめ返す。
 
「俺がなるよ、君の意見なんて知らないけど、見てられないから、か、可哀想だから」
 
 いつもの余裕はない、耳を伏せて、彼の表情は少し情けなかった。でも心底嬉しくて、なんだか安心して、自分が傷つかないように見て見ぬふりをしていた感情がどっと溢れ出す。
 
「だからさ、……ねぇ、ロイネ。笑わないで泣いてくれたら、慰めるよ」
 
 この言葉は今回の事だけを言っているのでは無いように思った。

 でも、悲しくて泣いたりするのは、控えているのだ。出来るだけ泣かないように、使用人達に心配する振りをさせるのは可哀想だから。
 
 泣けと言われた事などなかった。
 
「…………、うん」
 
 本当にすぐに涙が出てきた。泣きたかったんだなとやっと自覚した。我慢してれば、消えてなくなると思っていたが、そんな事はなかったみたいだ。
 
「結婚……クルスを選べない理由があるんでしょ」
「……ある」
「なら、君は俺を選んで、早く自分を大事に出来るようになって……みんな、割と心配してる……から」
 
 言いながら覆い被さるように、私を抱きしめた。
 探るような、迷っているような仕草に、私からも出来る限りの力で抱き締め返した。
 
 手も暖かかったけれど、ルカはやっぱり体も暖かい。涙で彼の服が汚れてしまうと思ったけれど、血がべったりとついてしまっているので今更だ。
 
「うん、ありがと……」
「もっと早く、こうしておけば良かった」
 
 耳元でルカの声がする、こそばゆい感覚だけど、ただ泣いて、抱きしめ会っているよりも話をしていた方が羞恥が紛れる。
 
「ルカは、優しいね」
「君が言うほど俺は優しく無いんだけど……」
 
 視界の端で何かが動いた気がした、よく見てみれば、ガラスの扉の向こう側、私たちがいるバルコニーのある部屋の扉が開いた。
 
 



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