お前のこと、猫ちゃんて呼んだろか!!

ぽんぽこ狸

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傷 その3

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「クルスの想い人って言うのは、結局君じゃなかったんだね」
「その話、ルカも知ってたの」
「一応。でも、誰かは知らない」
「そっか……まだ、言えないけど、私ルカを選ぶって決めたから、多分大丈夫」
 
 クリスティナ様だと伝えるだけでいい、後でお義父さまとお義母さまに確認を取って言おう。
 やっとクルスにも心苦しい言い訳をしないで済む。
 
 開いた扉は一旦閉まりそうになって、けれど、私たちに用があったのか、人が中に入ってくる。
 
「あれ……クルスだ」
 
 私が声に出して言うと、ルカはふと振り返り、私を離した。この屋敷にいると言うことは、クルスにも心配をかけてしまっただろう、少し怒られるぐらいの覚悟はして置かないと行けないだろうな。
 
「ロイネ、君、クルスに何かした?」
「ん、え、なにも」
 
 ルカが硬い声でそういったので、不思議に思いながら、手を引かれて、ルカと共に立ち上がった。
 
 乱暴に扉が開かれる。ルカは、私を庇うように少し前に出た。
 
 クルスは見たこともないぐらい気迫があり、私の前に立つルカを気にもせずに、私に近づいた。
 
「来い」
「クルス?」
 
 強引に私の手を取って引く。彼らしからぬ行動に私は、咄嗟に身を引いた。
 
 怒っているという事はわかるけれど、気迫が尋常じゃない、有無を言わせない圧力がある。
 
「クルス!それ以上は……やめてあげて欲しい、怪我したばかりだから」
 
 もしかして本当に、圧力を出しているのだろうか。ルカはクルスの肩を掴んで、それでも好意的に笑っている。
 
 私は急な事に、体が動かず、二人のやり取りを見る。
 すると、クルスは音を立ててルカの手を払い除けた。
 
「なぁ、ルカ、こいつは俺に譲ってくれ。……元々、こいつが俺を選んでいたんだ、随分、長い間反故にされていたが、やっと約束を果たせそうだ」
 
 何の事を言っているのか分からない。
 急にどうしたのだろう、先日までは普通だったのにいきなり……。
 
 そう思って、少し考えると、昨日までしっかりとしていた手袋を今は、していない事に気がつく。
 私は咄嗟に、クルスの手を振り払って聖痕を隠すように右手を握りしめた。
 
「待って!ちょっと落ち着いて、クルス!私!」
 
 声をあげると、ふとクルスがこちらを見て、ぐらりと足元が揺らぐ、立っていられずに、膝の力が抜けると、クルスが私を抱きとめた。
 
「俺でも、怒る時ぐらいあるんだ。少し黙っていてくれ」
「っ、ぅ~、っ」
 
 図書室で、やられたやつだろう。
 血の気が引いて、体がガタガタと痙攣するように震える。
 
 だめだ、これじゃあ、せっかく……。ひと段落するはずだったのに、何とかこの場で、訂正しなくては。そう思うのに、言葉にすることは出来ない、呼吸を繰り返すだけで、声にはならなかった。
 
「今更、約束を無かったことには出来ない事ぐらいわかるだろ?……ルカ、悪いな。お前には父上と母上から良い相手が提示されるはずだ。そちらから好きに選んでくれ」
「……待ってよ……待ってくれ」
「何をだ、お前はそもそも人間が嫌いだろう?特に嘘を付くような不義理な人間が嫌いだったな、こいつもそうだぞ、現に俺に気づかれないように今まで過ごしてた」
「……」
「俺は良いんだ、嘘つきだろうが何だろうが、ロイネが必要だ。お前は違うだろ」
 
 違う、違うよ、待ってよ。
 クルス辞めてくれ、ルカをいじめないで欲しい、ルカは悪くない、私が悪いのだ。上手く立ち回れなかった。せっかく家族になってくれると、言ってくれたのに。
 
 何とかルカを見上げると、彼は何も言い返せなくなって、ただ、俯いていて、目を合わせる事も出来なかった。
 
 っ~!!だめだ!
 
「、や、めて!!」
「話なら後で聞いてやるから、少し眠れ」
 
 力を振り絞って声をあげたが、無情にも意識が落ちる。それなのに、雨の音だけが耳に残って、ずっと頭の中で響いていた。
 
 
 



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