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クルスの望み その1

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 目を開くと、まったく見覚えのない部屋だった。

 壁際にある間接照明だけが、光源であり、部屋は薄暗い。眠ったりリラックスするのにはちょうどいいが、勉強や執務をするには、不便そうな部屋だった。
 
 まだ重たい瞼を擦り、起き上がると、大理石の床に敷かれたクッションで眠っていた事に気がつく。
 
 ガチャンと、扉が閉まったのだか、開いたのだか、分からない音がして、私はそちらを何となく見やった。
 
「起きたか」
 
 私と目が合うとクルスは、背後の扉の鍵を閉めた。
 手には、宝石箱を持っている。魔力結晶の入っている箱だ。マジックアイテムでも作るのだろうか。
 
 ……ここ、どこだろう。

 暖炉が無いのに暖かく、天井には、本来なら月の光を取り込むための大きな窓が付いていた。今は、雨戸のようなもので覆われている。
 
 背後を見ると、いくつものクッションが床に転がっている。
 
 月光浴室?しかし、見覚えのある場所とは、作りが違う。
 ううん、なんだろう頭がぼんやりしていて、しっかりと覚醒しない、起きているとクラクラするのだ。貧血のような症状だ……。
 
 クルスは、地べたにあぐらを書いて座った。
 
 ……。
 
 私は背後にある、クッションを一つ引っ掴んで目の前に座った彼に投げつけた。
 そのクッションはクルスに当たることはなく、何かに弾かれるように、変な方向へ飛んで行った。
 
 思い出した。貧血で、クラクラする頭を押さえて、立ち上がる。
 
「何処に行くつもりだ?」
「……ルカのとこ、誤解……とかないと」
「……」
 
 扉に向かって歩いていくと、もう少しでドアノブに手が届くギリギリで、私の体は中に浮いた。
 
「あいつを好いているから、俺との約束は果たせないということか?」
「うわっ」
 
 そのままともいた場所に勝手に移動させられて、クッションの上に下ろされる。
 
 そうだ、クルスにも、説明をしなければならないんだった。タイミングがタイミングだったので、自分は随分と焦っているらしい。
 でも、一度、時間も置いたし……クルスも冷静になってくれただろう。
 
 何をどう説明しようか、クルスの方を見やれば、彼はおもむろに距離を詰めた。
 手を取られて、それから肩紐をずらされる。
 
 あれ、こんな服来ていたっけ、あぁ、色々とボロボロだったから、綺麗に整えられたのだろう。
 私は柔らかいネグリジェを纏っており、開いている肩口に、クルスが口付けをした。
 
「ん、……ンん?クルス?」
「なんだ」
「は、離れてくれない?」
「嫌だが」
 
 私が抵抗しようとすると、両腕を強く掴まれて、動くことができなくなる。
 
 あれ?なんか、どうしよう?これって、どうなっているのだろう。

 彼と目が合う、いつもの優しい瞳が今日は暗く陰っている。
 怒っているというか、不機嫌というかそんな感じだ。

 そんなクルスと誰も自分を守ってくれる人がいないなか、私はこんな格好で、多分、密室で二人きり。
 
 だんだんと血の気が引いていく。
 
「は、はな、して。待って、ごめんなさい」
 
 彼の胸を押し返すがビクともしない、目を合わせるのが怖くなり、視線を逸らして、何とかこの状況から逃れる術を考える。
 
「わたし、違うの、私じゃない」
「そんなに怯えるな、可哀想になるだろ」
「ちょっと、ダメ!嘘でしょ、まって」
 
 可哀想だと思うのなら、どうかこの場から逃がして欲しい。

 今更リノとマティの忠告が頭をよぎる、男性なのだと言う事、確かに知っていた筈なのに、ちゃんと理解していなかった。
 
 まぁ、この状況は、避けられなかったように思うので、これからは教訓にしようと思う……けれども。
 




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