お前のこと、猫ちゃんて呼んだろか!!

ぽんぽこ狸

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クルスの望み その2

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 どう暴れるのが正解かわからなくて、クルスの腹を蹴りあげたが、少し顔を顰める程度で、攻撃にはなっていない。
 
「何も感じないわけじゃないんだぞ、ロイネ」
「っ、じゃ、じゃあ一旦どいてよ!」
「……お前には分からないんだろうな」
「なっ、何をよ!」
「やっと確証をえたと思えば、他の男と抱き合い、酷い傷まで背負っていた時の俺の気持ちだ」
「だから、違うんだって!クルス!」
 
 私がジタバタと暴れて、声をあげると、苛立たしげに乱暴な仕草で、私の顔を頬を包むように両手でガシッと掴んだ。
 
「つっ!」
 
 至近距離で、睨まれて、声をあげるのを辞める。鼻と鼻をがふれあいそうな距離感に、呼吸も出来ずに、肩を縮こませた。
 
「お前が何と言おうと聞かないぞ、嘘を付いていたのは事実だろう」
「……」
 
 嘘をついていたとしても、混乱させるから黙っていただけであって、聖痕があるだけでは、クルスの想い人だと言う証拠にはならない。
 それは、クルスだってわかっているだろう。だから、こうして、私と喋っている。
 
「でも……私じゃないのよ」
 
 それでも、私が否定すると、クルスも、少し悲しそうな顔をして、目線を落とす。
 
 冷静さを欠いているわけじゃない、のか?
 耳が伏せっていて、表情は苦しそうだ。
 
「……」
 
 クルスは何も言わずに、そのまま私を抱きしめた。
 硬い胸板が顔に当たる。体格差が大きいので、私は彼にすっぽり隠されるように抱きしめられた。
 
 ……わかってくれたのかな。
 
「なぜ、そうだと言わない」
「違うもの」
「お前が、俺の想い人だと、そう言えばいい」
「……どうしてよ」
 
 腕の中に収まったまま抵抗せずにいると、意味の分からない事を言われる。
 
 違うとわかったのなら、それでおしまいだと思っていた私は、首を傾げた。
 
「分からないのか……?」
「え……うん」
 
 触れられているけれど、先程とは違い、それほど恐怖も感じない。強引になにかされるというような心配は無さそうだと思った。
 
「……違うことぐらいは……さっきの反応でわかった。だが」
 
 腕を解かれて、私が離れると、クルスは目を合わせず、私の乱れた服装を戻して、両肩に手を置いた。
 
 自分でやったくせに、恥ずかしがっているらしい、そんな反応をされると、私の方だって羞恥心が芽生えるのでやめて欲しい。
 
「それでも良いと言ったら、お前は軽蔑するか」
「……違っても、いいって事?」
「あぁ」
「で、でも、想い人だった方がいいって思うでしょ?」
「思わない……と言ったら嘘になるが、お前が想い人だと言ってくれればいい話だ」
「良くないでしょ。……どうしたの?クルス、なんか変だ」
 
 純粋に疑問に思い,口に出した、私が聞くとクルスは、苦虫を噛み潰したような顔をして、私の手首に視線を落とした。
 
 私もつられて視線を追うと、クルスから貰ったマジックアイテムがあった。
 
「今更だと言ってくれていい。優柔不断な男だと笑っても構わない」
「……うん?」
「お前を放って置けなくなった。……ルカにも渡したくない」
「急……だね」
 
 クルスは私の腕からマジックアイテムを丁寧に外して、球体のロケット部分をパチッと開く。
 正方形の宝石が入っていたはずだが、そこには光を失ったガラスの破片が入っていた。
 
「命に危険が迫った時、一度だけ、全てから護る。それが、この魔力結晶に込めた魔法だ」
 
 ……規格外である。そんなものマナンルークで付けていたら、それを狙われて命が危ない可能性すらある。
 
「ほんの冗談のつもりだった」
 
 待って、常識が違いすぎて、どこが冗談なのか分からない。
 
「本当に、発動する時が来るとは思ってなかった。それに……お前が、ルカを選ぶとも……考えていなかった」
 
 マジックアイテムの残骸を床に放って、クルスは私の手を取る。
 そのまま聖痕に口付けをした。
 
「これがお前の手にあった事、ルカと抱きしめあっていた事、マジックアイテムが発動したであろう事。すべてひっくるめて、何か、俺の中で整理しきれない感情があって、あのような乱暴を働いた。すまない」
 
 ペタンと耳が下がって、しおらしく眉を下げた。
 それはいい、クルスのマジックアイテムが無ければ死んでいたという事だろう。すぐに、その事に気が付かなかったのが、おかしいぐらいだ。
 
「うん、許すよ……っていうか、ありがとう。命を助けてくれて」
「……不完全だっただろう。本当に護るのなら、もっと何重にも魔法をかけていた」
「ちょっと傷はできたけど、……生きてるもの、大丈夫!」
「そうか……なぁ、ロイネ」
 
 目覚めた時とは違って、優しい声だった。
 
「俺を選んでくれないか」
 
 真剣な瞳……これを言われるのが、一ヶ月でも早かったら私は、それに従っていただろう。でも、それは、もしもの話だ。
 
「出来ない。……クルスは、きっと私をちゃんと好きになってくれたんだと思う。でも、きっと、クルスの想い人には、敵わないよ、……ちゃんと素敵な人だって私は、知っているから」
 
 少々、愛し方が特殊だけど、とっても魅力的で、美しく、素敵な人だと知っている。

 それに、クルスの私を好きという感情は、優しい親愛だと思う。

 ちゃんと話をしてくれて、心配をしてくれる。なんというか居たことないけれど、兄のようなイメージ。……あ、というか、私と結婚をしなかったら、クリスティナ様と結婚するのだろう。そしたら関係上も兄になるじゃないか!
 
「お兄さんだと思っておくことにするね!」
「……っ、はっ、はは!振った相手に、妙な事言うな」
「ご、ごめん」
「いや……いいさ。さて、お前は俺の想い人、知ってるらしいしな。じっくり話をして貰おうじゃないか」
 
 ……あ、しまった。
 でも、ここまで来て話さない事は出来ないだろう。お義父さまとお義母さまには、後でクルスにも一緒に謝ってもらおう。
 
 私がどこをどう話そうかと、思考を巡らせていると、少し寂しげなクルスが私の頭を撫でた。
 すぐに切り替えたように笑ったが、何を考えていたのか、聞くことはしなかった。
 
 



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