お前のこと、猫ちゃんて呼んだろか!!

ぽんぽこ狸

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幸福を願う その1

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「なるほどな」
「つ、伝わった?色々と順序バラバラに喋ったけれど……」
「あぁ、腑に落ちる部分も多かった。大丈夫だ」
 
 クルスは、魔力結晶を加工しながら答える。

 私も、手を止めることも無く会話の内容を思い返す。

 クリスティナ様と言う方がクルスの想い人である事。その人が私の姉である事。彼女の手仕事の影響で聖痕が無かったこと。手違いでタリスビアへと来たらしいこと。

 そんなことを作業をしながらポツポツと話をした。
 
 クリスティナ様に関することは、クルスに話すことを避けていたので、一から説明するとなると順序が難しかった。
 それも、眠たくなってきている上に、手仕事をしながらだったので伝わるか心配だったのだが、ちゃんと理解してくれたらしい。
 
「姉妹だと言うのなら、お前が彼女に似ている事も納得が行く」
「そうね、全然顔が似てなければ、こんなややこしくならなかったんだろうけど……ちゃんと私にも血の繋がった人が居いて、嬉しく思うから複雑だよ」
 
 似ていなければ、クリスティナ様とは完全に他人として、社交も出来て居たかもしれないし、もう少しマナンルークでの行動は、自由であったかもしれない。
 でも、何かが違っていたら、きっとタリスビアに来ることは出来なかったと思うので、これで良かった。
 
 それだけで報われる。
 ここに来て、沢山の人と出会って話して、選択をして私は、自分と言うものを手に入れた。人に決められるだけの生活はもう無い。
 
「しかし、ロイネ。お前の姉上は、少々強引なのだな」
「……うん?」
「家族とも呼ばせず、愛情も与えず、逃げる余地もいっさい与えない。……ただ、お前の言葉の端々からはクリスティナに対する、情を感じる」
「そう?」
「あぁ、クリスティナの愛情をお前は、妙だとか、歪んでいると言うが、お前も大概、変わり者なのかもな」
「あはは……かもね」
 
 確かにそうかもしれない。
 どんなに冷遇されようとも、その裏で、護ってくれていた事を洗脳されていた時も、今も、わかっている。
 親よりもずっと深い愛情だったのだと。
 
「あいつを選ぶほどだからな。……相当物好きだぞ」
「ルカの事?」
「それ以外に誰がいるんだ」
「居ないね」
 
 一つ目の刺繍が完成したので、糸を切って、次の図案を考える。右手が痛いのでパタパタと手を振って紛らわせつつ、オレンジ色の刺繍糸を手に取った。
 
「それはあいつに渡すのか」
 
 ふと、クルスが私を見る。

 今作っている、ハンカチの事だろう。
 先程、クルスに頼んで裁縫箱を持ってきて貰ったのだ、もちろん他人が触れないように普段は、箱自体を大きなカバンに入れているので、それごと持ってきてもらった。
 
 この部屋は薄暗くて、手元が見えづらいが仕方ない。
 
「……ふふ、嫉妬?」
「そうだ、悪いか」
 
 私が冗談交じりに言うと、迷わず言われて思わず面食らう。
 こう、直球に言われると、どうにも気恥ずかしい。
 
「俺の部屋で、俺を振った女が、他の男のために時間をかけていれば、誰だって同じ事を言うと思うがな」
「……」
 
 そうなのだ。ここはクルスの部屋の一部。お義父さまのお部屋の隣に研究室があるように、クルスにも、プライベートの部屋があるのだ。
 簡易的な月光浴室らしい。滅多に人を入れることは無いと聞いた。
 
 ……よく考えると私凄いことしてるよね。襲われても文句言えない状況だ。
 まぁ、でも、許して欲しい。今作っているこれは、ルカへの贈り物じゃない。
 
「クルスに、だよ」
「……嘘を言う必要はない」
「本当だって」
 
 針に糸を通す、魔力を込めて、今度はカランコエという花を縫い始める。この花も、良い意味の花言葉が多い、小さな花の図案なので少々手間だが、時間をかけた分、強い魔法が掛けられるので都合がいいのだ。
 
「お義父さま達は、クルスを想い人の元に婿に出すって言っていた事、話したでしょ」
「そうだな」
「それでね、私の姉様は、多分、警戒するし、気難しい人だから、初めから上手くは行かないと思う」
 
 いつの間にか、手を止めて私を眺めているクルスに、私も顔をあげて目を合わせた。不満そうな表情に笑いかける。
 
「でも、私の大切な人だってわかるように、沢山魔力を込めた手仕事の品を持ってればさ、悪い人じゃないってわかってもらえるでしょう」
「分かるものなのか、誰が作った物なのか」
「んー、多分、分かるよ、クリスティナ様の事だしね」
「……そうか」
「それに……牽制、だよ。クルス。私の大事な人に、私にしたような事したら許さないっていう私からの牽制!」
 
 きっとクリスティナ様を目の前にしたら、そんな事は言えはしないが、本人が居ないので、好きにやらせてもらう。

 小心者の私は、このぐらいが限界だ。
 言葉で言えなくとも、思いで示す。タリスビアに来てクルスに数えられないほど救われた、クルスが、私と同じように、異国に行くのなら、精一杯幸せになって貰うために祈って贈るしかないのだ。
 
「貴方の事が好きだよ。きっと、幸せになって欲しい」
「……」
「誰であっても、クルスを害する事は許さないし、何があっても、生きていて欲しい」
 
 手仕事にかける思いを言葉にしていく、心で思っているよりも、言葉にすると、それはより強く、魔法として刻み込まれていく。





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