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幸福を願う その2
しおりを挟む私だって寂しいのだ。ほんの数ヶ月の付き合いだけど、色んな表情を見てきた。
本当は、ずっと選択を先延ばしにして、暖かく、優しいだけの日々を引き伸ばせたら良いと思う。
でも、出来ないのだから、どうかせめて。
「クルスの行く道に幸福がありますように。私の知らないところで、不幸になることがありませんように。クルスが私にくれただけの、幸せがきっと彼の元に戻ってきますように」
言っていて、重たい愛情だなと、はたと思った。
変わり者なのだ、私も。さすがクリスティナ様と姉妹なだけある。
魔力がぐんぐんと吸われていくが、セーブする事も無しにありったけをつぎ込む。
ひと段落縫い終わると、クルスが急に静かになっている事に気がついて、顔をあげた。
「見るな……お前が、恥ずかしい事を言うからだろう」
「……えへへ、クルス真っ赤だ」
口を開けて笑うと、彼はさらに赤くなって、目を逸らした。
しっぽだけは、忙しなく揺れている。
片手で顔を隠すようにしているけれど、感情が隠しきれていない。
可愛い……。
しばらく眺めていると、クルスは乱暴に、魔力結晶に手を伸ばす。
いくつかに掴み、拳を握った。
睨むように私を見て、歯を見せてにっと笑う。
「……俺も……牽制だ。二度と傷つくな」
そういった後、ゾワッと背中を駆け上がるような悪寒に、体がビクッと反応する。
寒くない筈なのに、肌が粟立って思わず自分の肩を抱く。
「な、なんかゾワッとした……」
「ん?あぁ、強い魔法を使ったからな、鈍いお前にも感知できたんだろ」
「な、何したの」
「持っていれば分かるさ」
私の疑問には答えずに、クルスはその魔力結晶を球体のロケットの中にしまう。
こ、怖いんだけどなぁ、きっと教えて貰っても、さらに持つのが怖くなるだけなんだろうな……。
まだ工程があるようで、宝石箱の中から名前の分からない工具が出てくる。
今度は私がクルスの作業を眺めていると、顔を上げずにクルスは言う。
「お前に何かあれば、俺はルカを許さない。これを持ってればそのぐらいあいつでもわかるだろ」
「……なんか、うん、うーん」
また、話がややこしくなりそうな予感がして、受け取り拒否しようかと私が悩むと、悪い笑顔でクルスはこちらを見た。
「やってる事は、お前と同じだ。受け取れないなんて言わせないからな」
「……はい」
観念して、私も手仕事を再開する。
しかしクルスが、そこまでいうものを私に贈るのなら、負けてられないだろう。こっちは、思いが反映されているのだ、簡素なものなど渡せまい。
ハンカチが刺繍でぎっしりになってしまうが、良いだろう、受けて立つ。男性には使いづらいし、持ちづらいかもしれないが、知らないもんね!
キビキビと手を動かす。
それから、私達は、他愛のない話をしながらお互いに送る物をせっせと作っていた。
その中で一つ、クルスが語った、思い出。彼がクリスティナ様と出会った時の事を聞いた。人の口から聞くクリスティナ様は、やはり私のイメージと違わず、かっこよく、強いひとだった。
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