お前のこと、猫ちゃんて呼んだろか!!

ぽんぽこ狸

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クリスティナ その2

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 数日後、俺たちが国に帰る前日に、大きなパーティが催された。

 日中には、沢山の人間が挨拶に訪れ、母上はそれに気さくに返事をしていく。こういう場で俺は話をする必要はないので、会話の内容を頭に入れつつ、会場内を見渡していた。

 いや、見渡していたのでは無く、先日会ったクリスティナの動向を自然と目で追っていた。
 
 また今日も、騎士を連れて公爵と共に、社交に励んでいる。
 この後は夜会もある、成人前の俺たちのような子供は退室するので、その時間になったら声をかけようと決めていた。
 
 このままでは泣き寝入りのようで情けないし、何より、もう一度話をしてみたかった。
 そうして時間が経つのを待っていると、事件は起こった。それは、ほんの一瞬の出来事だった。
 
 母上に話を振られ、他愛のない答え返し、またクリスティナを観察しようとすると、先程まで居た場所から消えている。
 移動したのかと思い、周辺に視線を向けると慌てて会場から飛び出していく騎士の姿だけが見えた。
 
 俺は、思わず獣の姿になって走り出した。
 姿を変えると室内は、鼻の曲がりそうな程、強い香水や料理、人間の匂いで充満していたが、そんな事も気にせずに人の間を縫って全速力で駆け抜けた。
 
 魔法で扉を開け、廊下で、血の気の引いた顔をしている騎士に掴みかかる。
 
「どうした!何かあったのか?!」
「っ、あ、貴方は………!っ、いや、クリスティナが、急に」
「お前騎士だろ!なぜ追わない!」
「っ!!どこに行ったか分からないんだ!」
 
 その返答を聞いて、すぐに獣の姿に戻る。分からないわけない、残り香が、一直線に続いている。不自然に空いている窓から飛び出し、庭を抜ける。
 
 あいつの香水の香りは、一人だけ違っていた。女性が皆、花の香りを身につけているのに、彼女だけは、甘すぎる菓子のような香りだった。
 
 そばに寄ると強すぎて、嫌いだと思ったが、今こうして追うことが出来ている。
 
 獣の姿で駆ければ、すぐに彼女に追いついた。
 彼女というか、彼女を誘拐した、複数名の男たちにだが。
 
 彼らはフードを被っており、俺は深く考えずに、クリスティナを抱えている男の腕に噛みついた。
 
「っ、きゃっ」
「おいおい、なんだ?!聞いてねぇぞ!!」
「だっ!っ……痛ってぇ!クソ、クソっ」
 
 地面に転がったクリスティナを庇うように、男たちとの間に入る。
 全部で四人、うち一人は、俺が噛みつき腕を負傷して、少し後退した。
 
 ほか三人は、二人がナイフを抜き、一人は見慣れぬものを構える。
 
「あ、貴方!何してるの!」
「……お前こそ、この状況は何だ」
「見ればわかるでしょう、誘拐よ。誘拐殺人になるかもしれないけれど」
「ああ!良い、わかった。背後に走ってくれるか」
 
 悠長に話をしている暇は無かった、三人の男性は、こちらの隙を伺って、ジリジリと距離を詰めている。
 ただのゴロツキじゃない。当たり前だ、あれだけ大勢の貴族が集まるパーティで、難なくクリスティナをさらって見せた。
 どこかの貴族が依頼した、傭兵のようなものだろう。
 
 ……勝てそうに、ないな。
 魔力を練りながら、自分に出来る精一杯の威圧をする。
 
 王子として有るまじき行動だった、誰にも告げずに来てしまったうえに、相手の戦力を見誤った。
 最悪だな、母上に怒られるぐらいで済むだろうか。
 
 一人がナイフで切りかかってくる、魔力弾を打って、攻撃を避けるが、俺の攻撃も当たらない。
 獣の姿になるべきか……そうした方がまだ、死なずにこの状況を脱する事が出来そうだが。
 
 いつまで経っても、クリスティナは走り出さない。
 立ち上がりはしたが、後ろから動かない。
 
「何している」
「走れないのよ、足を捻ったみたい。代わりに……耳を塞いで!!」
 
 咄嗟に両手で抑えると、パンと破裂音が響き渡って、空高く光が打ち上げられる。
 救難信号のつもりだろう、ただし会場まで距離がある、誰かが気がつくとは思えない。……あるいは母上なら、俺の行動に、なにか気がついてくれていないだろうか。
 
「チッ、さっさとズラかるぞ」
「あぁ」
 
 焦ったのか、二人同時に切りかかってくる。
 避けるばかりで、獣の姿になる暇さえない、魔力弾は、一つも当たらず、腕や胴に切り傷が増えていく。
 
 本当に命をかけている戦いなのだと、痛みに実感して、体が思うように動かない。
 大胆に攻め込まなければ、いつか背後を取られて、終わりだと言うのに、攻撃ができない。
 
「ッ!っ、」
 
 一呼吸おいて、攻撃をしていた二人が、ふと後退する、今のうちに獣化をと考えた瞬間、ドンと魔力弾が、腹に打ち込まれる。
 背後に控えていた三人目は、魔法が使えるらしい。
 
 目の前の二人に集中しすぎて、周囲の確認ができていなかった。
 
 ぐらりと視界が歪み、その隙に、一方の男のナイフが胸元に届く、大きく腹まで切り裂いて、飛び退く。

 痛みが酷く、腹を押さえる手に生暖かいヌルッとしたものが付着する。気持ち悪さに顔を顰めた。
 
 死ぬのか、こんなところで?

 自分の迂闊な行動を叱ってやりたいが、今そんな事を考えても意味は無い。このままやられるわけにはいかないと、母上から貰っている、マジックアイテムに手を伸ばす。
 いざという時に使えと言われているものだ。
 
 腕から乱暴に外し、奴らに向かってほうり投げた。
 
 発動の条件は、俺が意図した相手に投げる事。
 
 到底相手には届かずに、地面にカシャンと音を立てて落ちたが、それは、ずわっと黒い闇を一瞬で広げて、闇に入った二人を溶かすように包み込み、全く何も無かったかのように、ナイフの男二人は消え去る。
 残ったのは、使用済みのマジックアイテムのみだった。
 


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