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すれ違い その2
しおりを挟む私は、話そうと思っていたことをちゃんと頭の中で整理して、できるだけ冷静に言葉にする。
「まず、クルスとはその、私は過去なんにも無くてね。相手もちゃんと判明したし、私だと思い込んでたのは、血縁だったからみたい」
「へぇ」
「クリスティナ様がね、昔、クルスと約束してたんだって……ロマンチックだよね。だから、気にしないで欲しくて」
いつもの事のはずなのに、反応の少ないルカに私は、妙に焦りを感じていた。だいたい、彼はいつもこんな感じだったと思うのだけど、どうしてだか、口が乾く。
「あ、気にしないで欲しいとか、無理だよね。ごめんなさい。全部話していなくて、私、色々、手一杯で、もちろんタリスビアに急に来たことを言い訳にするんじゃないんだけど」
「……」
「自分でも知らなかったことがいっぱいあって、整理して、これからの事考えているうちに、ちゃんと……ルカに全部、話す事、失念……してて」
ルカが私の顔を見ることは無くて、私は一人で空に向かって喋っているような心地だ。
話をしてるうちに、無意識に手振りまで加えて、どうにか反応して欲しくなって息が詰まる。
ルカは、私が話をしている事なんてどうでもいいように、気の抜けた相打ちしかしない。機嫌が悪いのかなと思うけど、この時間に来ることは知っていたはずなのに、なんで何も……言って……くれないの。
「っクルスがルカにいってた、貴方が人間嫌いだって事も私、全然、気にしてないっ。来たばっかりの事にルカが私に嫌な態度してたとしても、それと同じぐらい助けて貰ったし、だから!」
だから、好きになった。だから、家族になってくれるって言われて嬉しかった。
……喜んではくれなくても、良かったって、言ってくれると思っていた。……まだ、言葉が足りないのかもしれない、私が重大な何かを言い忘れているのかもしれない。
「……だから、私。っ、ルカが好きで……」
「……」
「ごたごたしちゃったけど……嬉しかったっていい……たくて」
好きだって、伝えてなかった。ちゃんと返事をしていなかったから、こんな事になっちゃったのかと思った。けれど、言葉にしても、返事はかえってこない。
「っ……」
なんだか惨めに思えて、次に喋る言葉も思い浮かばない。
ダメだ、何か。言わなきゃ。怒っているのだと思うし、今回の事は全面的に私が悪いのだ。
でも、一体、何を言えばいいの……。
「……」
私が黙ると、重たい沈黙が流れた。一人で弁明して、謝って、勝手に喋る自分が道化のように思えて、悲しいんだか、怖いんだか、よく分からなくなった。
「ねぇ」
ルカが、感情の分からない声で、ポツリと言う。
ふとこちらに視線を合わせて、ニコリと笑った。
「話は終わった?」
「……え」
彼の上っ面だけの笑顔を向けられたのが久しぶりすぎて、ビクッと体が震える。
ずっと、私には向けられていなかったルカの笑顔。ただ多分、彼にとってこれは、良い意味を持たない。と私は思っている。
一言で言うなら、敵意。だと思う。
「終わったなら出ていってくれる。俺、人間の顔見ると腹が立って仕方ないんだよね」
「……ぁ、……え……ルカ?」
私が呼ぶと、ルカのしっぽは大きくゆらりと揺れて、笑みが深くなる。
背筋が凍るほど、整った笑顔だった。
「……名前で呼ぶなよ。気持ち悪い」
驚きで声が出なかった。吐き捨てるような言葉に、理解が追いつかない。
「何、まだ帰らないつもり?君みたいな身持ちの悪い女が居ると殺してやりたくて堪らなくなるんだよ。あははっ、そうだった。人間は皆、馬鹿なメス犬ばっかりだったんだっけ」
「……な、なに」
「俺らの事、獣だって馬鹿にするくせに、万年発情期なのは君らだろってね」
何が言いたいのか分からない。……違うか、理解したくない。
私の呼び方が戻ったとか、今日の暴言はいつになくキレッキレだなとか、場違いな感想だけが頭に浮かんで、ボケっとしてしまう。
そういった事を私に言う意味を理解したくなかった。
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