お前のこと、猫ちゃんて呼んだろか!!

ぽんぽこ狸

文字の大きさ
118 / 139

すれ違い その4

しおりを挟む
 





 なんで……ルカだって、本当はわかっているはずじゃないのか。
 
 私の言葉に、ふとルカは黙って、それからまた笑みを浮かべる。
 
 ……なんでそんな風に笑うんだ。なんでそんな目で見るんだ。
 人間は、なんて言わないで欲しい。私を見て欲しい。
 
「……ははっ、良いよわかった。そんなに言うなら証明して見せてよ」
「は、どう、いう意味……?」
 
 私が首を傾げると、ルカは私の襟元に指を引っ掛けた。そのまま私の返答も待たずに、グッと引っ張り、ボタンをばちっと飛ばして胸元を開ける。
 
「ッ!」
 
 反射的に服を戻そうとすると、その手を絡め取られるように握られて、振り払うことが出来ない。
 
「ほら、期待してたんでしょ。俺にもクルスにも抱かれれば満足?どうせその後、俺を捨てるんだろ」
「っ、ぁ、……いや、やだ」
「アハハ、ねぇ、クルスとなにも無かった、潔白だって言うならさ、抵抗しないでよ。君の事ボロボロにしてあげるから」
 
 ルカはそう言ってゆっくりと手を離す。
 頭の中が真っ白で、弁明の言葉も、ルカを攻める言葉も思い浮かんでこない。ただ、ルカが言った潔白なら、抵抗しなきゃ良いと言う言葉に、何の反論も浮かんでこない。
 
 ……抵抗しなかったら、信じてくれるのか。
 私がルカを好きだって事。ちゃんとわかってくれるのか。
 
 本当は怖くて、こんなのは嫌で、間違っていると思うのに、これ以外言葉で伝わらないのなら、もう、仕方がないじゃないかと思ってしまう。
 
 そうだ。大丈夫、すぐ終わるよ。目を瞑っていたら、全部解決しているなんて事だって、あるかもしれない。
 
 良いよ、そのぐらいで、ルカが信じてくれるなら、それで……。
 
「……わ、わかった」
 
 私は顔を見られたくなくて、もうルカの顔も見たくなくて両手で目をおおった。
 自分の声音は震えていて、酷く情けない。
 
 服の間から手が滑り込んで、丁度、傷があった脇腹を撫でるように触れられる。
 
 地肌に触られたのは初めてで、肌と肌が触れ合う感覚に、自分の尊厳を陵辱されているような気持ちになる。

 誰にも、こんなふうに触られた事は無かった。
 服越しに触れ合っても、こんな気持ちにならないのに……。
 
 ルカの手が滑って私の腹を撫でる。
 
 ただ怖い。こうして、自分を嫌いだ、なんだ、という相手に皮膚の薄い腹など見せて、急所を守る事も出来ない。爪でなぞられれば痛いし、強く触れられれば痣だって出来るのだ。
 
 やっぱり嫌だ、こんなの望んでない。

 ……でも、体が動かない。拒否してしまったら、私はどうしたらいいのか分からなくなってしまう。今この状況だけでも、意味不明なのに、拒否して、それから?ルカを納得させる言葉が思いつくだろうか。
 
「ひっ…………っぅ」
 
 項に吐息がかかって、それから、鎖骨に柔らかいものが触れる。

 全身の肌が粟立って、反射的に食われるかと思った。世の中の女性はこんな事をしょっちゅうしているはずだと思うのだが、危機管理能力が欠如しているのでは無いだろうか。
 それともルカが獣人で、私が人間だから、こんなに危機感を抱くのだろうか、よく分からない。ただでさえ分からないというのに、ルカの手が、首筋、項と
 触れる度に、恐怖だか緊張だかに思考がショートして、既にパンク状態だ。
 
「……、本当に、抵抗……しないんだ」
「……」
 
 ルカの呟きに答えたかった。そうなのだ、ここまで我慢したから、容赦して欲しいと伝えたかったが、思うように声が出ない。今口を開けたら、変な事を言うか変な声が出そうであった。
 
「……あーあ」
 
 歯を食いしばって我慢していると、ルカがパッと手を離して身を引いた。
 
「もう良いよ、やっぱり君は、節操ない人間だってわかったから」
「ん、なっ」
 
 思わず、声を出す、ルカを見上げると、やっぱり、ニコリと笑っていて、そのまま言葉を続ける。
 
「言葉で丸め込まれて、体を許しちゃうぐらいだもんね。もしクルスと関係が無かったとしても、誰に抱かれてるか、分からないし、やっぱり気持ち悪いね、君」
「っ、」
「そんなに欲求不満なら……エクトルでも貸してあげようか」
 
 
 パチン。と、音が鳴って、ジンと手が痛む。
 
 そんな事、言っちゃダメだ。
 
 いくら私を貶したかったとしても、自分を大事にしてくれて、自分も大事に思っている相手を引き合いに、そんな事を言うものじゃない。
 
 そのままルカは俯いて、数歩後ろに下がった。

 私は、彼を叩きはしたものの、結局何を言ったらいいのかわからなくて、本当は、最低だとか、ふざけるなとか、今なら、そういう強い言葉も言えると思った。
 
「……ごめんなさい」
 
 それでも、何故か謝罪だけ口にして、胸元を抑える。
 それから、ルカの部屋を後にした。
 
 




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!

にのまえ
恋愛
 すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。  公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。  家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。  だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、  舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

契約結婚の相手が優しすぎて困ります

みみぢあん
恋愛
ペルサル伯爵の婚外子リアンナは、学園に通い淑女の教育を受けているが、帰宅すれば使用人のような生活をおくっていた。 学園の卒業が近くなったある日、リアンナは父親と変わらない年齢の男爵との婚約が決まる。 そんなリアンナにフラッドリー公爵家の後継者アルベールと契約結婚をしないかと持ちかけられた。

【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました

22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。 華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。 そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!? 「……なぜ私なんですか?」 「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」 ーーそんなこと言われても困ります! 目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。 しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!? 「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」 逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

処理中です...