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すれ違い その4
しおりを挟むなんで……ルカだって、本当はわかっているはずじゃないのか。
私の言葉に、ふとルカは黙って、それからまた笑みを浮かべる。
……なんでそんな風に笑うんだ。なんでそんな目で見るんだ。
人間は、なんて言わないで欲しい。私を見て欲しい。
「……ははっ、良いよわかった。そんなに言うなら証明して見せてよ」
「は、どう、いう意味……?」
私が首を傾げると、ルカは私の襟元に指を引っ掛けた。そのまま私の返答も待たずに、グッと引っ張り、ボタンをばちっと飛ばして胸元を開ける。
「ッ!」
反射的に服を戻そうとすると、その手を絡め取られるように握られて、振り払うことが出来ない。
「ほら、期待してたんでしょ。俺にもクルスにも抱かれれば満足?どうせその後、俺を捨てるんだろ」
「っ、ぁ、……いや、やだ」
「アハハ、ねぇ、クルスとなにも無かった、潔白だって言うならさ、抵抗しないでよ。君の事ボロボロにしてあげるから」
ルカはそう言ってゆっくりと手を離す。
頭の中が真っ白で、弁明の言葉も、ルカを攻める言葉も思い浮かんでこない。ただ、ルカが言った潔白なら、抵抗しなきゃ良いと言う言葉に、何の反論も浮かんでこない。
……抵抗しなかったら、信じてくれるのか。
私がルカを好きだって事。ちゃんとわかってくれるのか。
本当は怖くて、こんなのは嫌で、間違っていると思うのに、これ以外言葉で伝わらないのなら、もう、仕方がないじゃないかと思ってしまう。
そうだ。大丈夫、すぐ終わるよ。目を瞑っていたら、全部解決しているなんて事だって、あるかもしれない。
良いよ、そのぐらいで、ルカが信じてくれるなら、それで……。
「……わ、わかった」
私は顔を見られたくなくて、もうルカの顔も見たくなくて両手で目をおおった。
自分の声音は震えていて、酷く情けない。
服の間から手が滑り込んで、丁度、傷があった脇腹を撫でるように触れられる。
地肌に触られたのは初めてで、肌と肌が触れ合う感覚に、自分の尊厳を陵辱されているような気持ちになる。
誰にも、こんなふうに触られた事は無かった。
服越しに触れ合っても、こんな気持ちにならないのに……。
ルカの手が滑って私の腹を撫でる。
ただ怖い。こうして、自分を嫌いだ、なんだ、という相手に皮膚の薄い腹など見せて、急所を守る事も出来ない。爪でなぞられれば痛いし、強く触れられれば痣だって出来るのだ。
やっぱり嫌だ、こんなの望んでない。
……でも、体が動かない。拒否してしまったら、私はどうしたらいいのか分からなくなってしまう。今この状況だけでも、意味不明なのに、拒否して、それから?ルカを納得させる言葉が思いつくだろうか。
「ひっ…………っぅ」
項に吐息がかかって、それから、鎖骨に柔らかいものが触れる。
全身の肌が粟立って、反射的に食われるかと思った。世の中の女性はこんな事をしょっちゅうしているはずだと思うのだが、危機管理能力が欠如しているのでは無いだろうか。
それともルカが獣人で、私が人間だから、こんなに危機感を抱くのだろうか、よく分からない。ただでさえ分からないというのに、ルカの手が、首筋、項と
触れる度に、恐怖だか緊張だかに思考がショートして、既にパンク状態だ。
「……、本当に、抵抗……しないんだ」
「……」
ルカの呟きに答えたかった。そうなのだ、ここまで我慢したから、容赦して欲しいと伝えたかったが、思うように声が出ない。今口を開けたら、変な事を言うか変な声が出そうであった。
「……あーあ」
歯を食いしばって我慢していると、ルカがパッと手を離して身を引いた。
「もう良いよ、やっぱり君は、節操ない人間だってわかったから」
「ん、なっ」
思わず、声を出す、ルカを見上げると、やっぱり、ニコリと笑っていて、そのまま言葉を続ける。
「言葉で丸め込まれて、体を許しちゃうぐらいだもんね。もしクルスと関係が無かったとしても、誰に抱かれてるか、分からないし、やっぱり気持ち悪いね、君」
「っ、」
「そんなに欲求不満なら……エクトルでも貸してあげようか」
パチン。と、音が鳴って、ジンと手が痛む。
そんな事、言っちゃダメだ。
いくら私を貶したかったとしても、自分を大事にしてくれて、自分も大事に思っている相手を引き合いに、そんな事を言うものじゃない。
そのままルカは俯いて、数歩後ろに下がった。
私は、彼を叩きはしたものの、結局何を言ったらいいのかわからなくて、本当は、最低だとか、ふざけるなとか、今なら、そういう強い言葉も言えると思った。
「……ごめんなさい」
それでも、何故か謝罪だけ口にして、胸元を抑える。
それから、ルカの部屋を後にした。
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