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ロイネの気持ち その2
しおりを挟む目がじんじんと痛む、泣きすぎたせいか、頭も少し痛い。
感情をせき止めずに涙を流すとこんなに、スッキリするものなのかと少し驚いた。
心の整理はつかないけれど、燻った負の感情は、涙になって流れ出て、事実だけが、その場に残る。
「……すん」
鼻すすると、気まずそうな男性陣が、ちらっと私を見てそれから、まだ泣いているのだと思い、二人で話をしているふうに、顔を見合わせる。
まぁ、もう充分、泣き声を聞かれていたので、今更だと思うが、二人なりの気遣いだろう。
私は顔を上げて、母に視線を送ると、お義母さまはよしよしと私の頭を撫でる。
……甘えすぎだよ、私……あぁ!恥ずかしい。
こんな事、実の家族であっても、そうそうしないだろうに、何をやっているのだ。
「もう、落ち着きましたか」
「はい……大丈夫です。お義母さま」
私の声に、男性二人がパッっとこちらへ向く、ソワソワと耳としっぽを動かして私と目を合わせた後、ほっと息をついた。
「んん゛っ、……して、ロイネ」
「……はい」
お義父さまは咳払いをして、いかにも神妙そうな表情を作る。
「話があると言ったであろう」
「はい」
「……其方に言って置かねばなるまいと、常々思ってはおったのだがな、何分、あやつの個人的な事情であるからして、容易には開示できぬ情報であったのだ」
「……はい」
「そのうえで、其方がその情報をどのように解釈するかと言う問題も考えねばなるまい。であれば我々は、誤解を生まぬよう、然るべき時に最良の方法で伝えるべきだと考える」
「は、はい?」
「この場合の最良とは何かという、問題になるが、其方が必要になった場合には、それを説明せずに、すれ違いを起こし───
「エグバート、もう良いので、クルスと共に大人しくなさってください」
「うむ、それが最前であろうな」
長々と前置きを話し続けるお義父さまに、お義母さまはスパッと言葉を遮った。お義父さまはあっさりと引いてまた難しい顔をして、クルスと視線を交わした。
うん……頑張ろうとしてくれたことだけは分かる……かな?
「ロイネ、ルカの話をお前にするべきか、わたくしは悩んでいます」
「……うん」
「……貴方が傷つけられたのだと言う事は一目瞭然です、決してこの話を言い訳にルカがお前を傷つけて良い事にはなりません」
「……」
「お前がもう、あの子のことを見限ったというのならば、わたくしは、もう一度、クルスの記憶を消し、お前との婚姻を認めましょう」
クルスの方を見やると、了承していたらしく、なんと言うこともない表情をしている。
「ただ、お前が望むのであれば、あの子の事をわたくし達が知る限りで教えます。そして、それを聞いて、どうするかもお前次第です」
「……」
「聞きますか」
……。
聞きたいと、やはり私は思ってしまう。
なんというか、深みの無い人間だと思うのだ。私は。
もう二度と、顔を合わせる理由など無いと、部屋から出た時に思った。
手が無いと、これ以上、私は無様になれないと、諦めた。振られたのに、アプローチして、嫌われても誤解をされても、好きなんだって言う度胸は、私にはない。
話を聞いた所で、ルカが私を好きだって言うかどうかは別の話で、私はまだ、嫌われたままだろう。
嫌いな人間にいくら、真っ当に尽くされようとも、それは、私を愛することに変わることは無い。
嫌いから、どうでも良いになるぐらいだ。
そんな無様な努力をするのなら、私は、諦めた方がいいって、それで自分も納得出来る。
そう思って、その方がいいと、わかってる……のに、なぁ。
「聞きます」
「……お前はルカのどこがいいのですか、ロイネ」
「え、えぇ、と」
そのまま、すんなりと話をし始めると思っていたので、お義母さまの返しに、首を傾げる。
「わたくしが教育した手前、言えた事ではありませんけれど、ルカは少々、幼い。成人もとっくにしていると言うのに、壁を作り、自身の世界に閉じこもっている」
「う、うーん」
「本当はお前が歩み寄ってやるのではなく、あの子が、克服しなければならないはずです。……それをお前は、……はぁ」
子供っぽい……のかな?どうなんだろう、悪い人では無いと……って、私、あんな事があった後なのに、なんかううん。難しい。
あぁ、そうだ。とにかく難しいのだ。やつは。
心無く私を罵ってみたり、私を治して見たり、虐めて見たり、やさしくしてみたり、家族になろうと言ってみたり。
常に私の意図しないところで、勝手に変わって、勝手に怒って、常に良く分からない。
でも、それが。
なんとなしに、愛おしいような気がするのだ。
一貫して、良い人ならその方が断然、好意を寄せるに値するはずなのに、私は、ルカのような人が好ましく思うらしい。
全く見えないその本心が、勝手に曲解するその捻れている心が、魅力的に見える。
つまり、なんだ。一言で言うと、歪んだ彼が好きなのだ。
「性格悪いところ、……ですかね」
「……お前も大概ですね」
当たり前に、綺麗な人格をしている人よりも、理解できないほど、曲がって揺らいでいる人のそばに寄りたい。
きっと、私がそうして欲しかったように。
少し歪んだ考えを持っている私を、そのまま愛して欲しかったように。
要は自己投影……なのかな。
愛されたいと、思ったから、愛したい。
やっぱり、ルカが好き、諦められないと言い換えても、相違ないだろう。
それでいいんだ。
お義母さまは話し始めた。淡々と事実を述べているようでいて、その言葉の端々には、同情が含まれていた。
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