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「そうだ、奴隷と言えば、先日はお心遣い下さりありがとうございました。おかけで良い出会いがあったのです」
「……そうか」
オーギュストはふと後ろを振り返る、背後には奴隷証をつけている、年端の行かない少年が、びくりと反応をして頭を下げる。付き人を任せられているらしく、俺と似たような格好をしていたが、少し服のサイズが合っていないように思う。普段は奴隷用のお着せを来ているのかもしれない。あまり特徴がないので亜人ではなく、人間だろう。
「やはり、亜人奴隷は、この御時世なかなかお目にかかれないようですな」
「仕方ないさ、彼らに破滅の呪いを背負わせたのは我々だろう、数の減少は初めから目に見えていた」
その通りだ。呪った本人どもが数が減った希少だとどの口が言うのだろう。
俺がヴァレールの言葉に満足していると、その言葉を待っていたとばかりに、今までヴァレールから一時も目を話さなかった、オーギュストがにんまりと笑って、パッと俺の方を見た。
「さすが!ヴァレール殿、その通りでございますな、私どものような浅慮なものとは違い、貴方様は既に、自分の望みのものを手に入れていらしたのですから!」
「…………望みのもの、とは何かな」
オーギュストの興奮した口調に、ヴァレールは一切乱されず、冷静に聞き返す。
ただ、オーギュストは既に彼の方を見ていない、問いかけられたというのに俺に向かって、少し前のめりになりながら答えた。
「その、亜人ですよ!その!!髪まで染めさせて、隠しているようですが、その目!!まさに」
まずい、と思ったが、それと同時に無礼があってはいけない、とも思い、この生活に馴染んだ体は、咄嗟に動くことは出来ない。
「ユクトの民!!いやぁ、お見逸れ致しました、まさか、貴方様が殺して回っている種族を飼っているなど誰が考えましょうか!!」
誰も答えはしないのに、オーギュストは嬉々として、汚く唾を飛ばしながら喋り、ガタンと立ち上がる。
「プライドが高く、頑丈で、奴隷にすればその夜目の効く体質で、どんな襲撃者も返り討ちにできる、野生動物と人間を掛け合わせたような種族!!」
体が動かない。動けない。
「戦闘力だけではなく、不思議な魅力のある深緑の瞳と髪、愛玩としても申し分のない靱やかで、小柄な出で立ち!!!」
ただただ目を見開いて、ぎゅっと服を握りしめた。
「しかし、驚愕なのは貴方様の精神力ですな!ヴァレール殿!!愛妻家、子煩悩と言う言葉がぴったりだった貴方様が、よもや、全てを奪ったユクトの民にご執心だったとは!!」
動け、逃げなければ。
オーギュストは、俺の顔を見てか、それとも、ヴァレールの顔を見てか、はたと言葉を止める。
それから、さも申し訳無さそうに、取り繕って紳士らしいような笑みを浮かべた。
「失敬……まさか、その奴隷に真実は伝えていなかったのですかな」
わざとらしい取り繕ったような言葉に吐き気をもよおす。
「申し訳ございません、言い値で買い取らせていただきます、ヴァレール殿」
オーギュストが声をかけるが、ヴァレールは答えない、ただ、ふとこちらを振り返ろうとして、俺はその彼の動きに反射するようにその場からかけ出す。
頭の中が真っ白になるとは、この事だと思った。
真っ白な頭で、扉を乱暴に蹴飛ばし、破壊して本館のだだっ広い廊下をかける。
普段の何倍もスピードが出て、バレたのだと自覚が出来た。瞬発的に発揮出来るこの妙な力は、命の危機だと自分が認知した時に出るものだと思っている。
多分間違っているが、火事場のばかじから、だと思う事にしている。
何せ、親も兄弟も、人間に殺されてユクトの民の特性など知る機会は無かったのだから仕方がない。
とにかく逃げなければ、どこかへ。
そう思って、本館から別館へと戻る。
こういう時、いつもどうして居たんだっけ、確かいつもなら手当り次第その場でまず体力が続く限り殺して……それから、殺しきれなかった俺がユクトの民だと知っている者をその夜中に殺してきた。
じゃあ何故、今俺は逃げている?
まだ、まったく誰にも手を出して居ないじゃないか。
逃げてる場合じゃない。
いや、一旦は逃げて、夜にでも襲えば、いいだろうけれど警戒されてしまっていれば難易度が高くなる。
今のうちに、俺が従順であったと言う記憶が新しいうちに殺さなければ。
そうは思うのに、わかっているはずなのに、足が止まるのは自室の前で、ここにいては一番にモーリスに見つかってしまうのに、もう、思考がまともに回らなくて、扉を開く。
殺さなきゃ、いけない。
じゃなきゃ、殺される。亜人の奴隷として生きたくない。
それ以前に、あいつが、俺の家族を、俺らの種族があいつの……。
立って居られないほどに、胸が苦しいような気がして、足が震える。
発作でも無いのに、それと同じぐらいかそれ以上に怖くて、体を引きずって部屋の隅まで行き膝を抱えた。
眠い。
今眠れば、もう目は覚めないかもしれない、ただ、眠れば目が覚めるかもしれない。
何か酷い夢でも見ていて、どうしようもない気分になっているだけで、実際起きれば、嘘のように、ただ、いつもの日常がある。
そうだといい。
でも、違う、足元の地面が壊れて、落ちていくように、こんな酷く怖いのはだから、現実だ。
俺、何してんだろ。
目を瞑った、眠っているんだか居ないんだか分からないような微睡みの中で、昔の記憶を思い出した。
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