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25 面談
しおりを挟むここ最近、なんだか社交界も騒がしく王族の動きも活発だ。
事の始まりは、アイヒベルガー公爵子息であるフェリクスが出版している流行りの恋愛小説らしいという事だった。
そして王族もすべてを語ることはないが、人探しをしているらしい。
その人というのが、恋愛小説を書いた作者のルーラだと言われているが事実は定かではない。
そんな人はヴァネッサも両親も知らないのだが、王族からの呼び出しがあり、ヴァネッサたちは呼ばれたからには正式な衣装をまとって王宮を訪れた。
まだ、アマランスの花によって出た損失を埋められていないこの状況での王族からの呼び出しに、父であるアルノルトは良い機会だと言わんばかりに、母と話し合い、どうにか出資してもらうことはできないかと策を練っていた。
しかし、ヴァネッサはそれほど楽観的にこの状況を見ることが出来なかった。
今年のディースブルク伯爵家の失態は、それなりに王族にもよくない印象を植え付けただろう。
そのお叱りである可能性もあるし、もしかしたらラウラが出ていった先で何かやらかした可能性もある。
そうであったとき父と母は果たしてどうするのか、彼女の事を我がごととして捕らえてきちんと謝罪をしてくれるのか。
そういう不安もあって相手が王族の中でも一番お優しい方である王太子妃ローゼマリー殿下だとしても、ヴァネッサの気持ちは落ち着かなかった。
応接室に通されて、彼女が入ってくるとヴァネッサたちは深く頭を下げて、ローゼマリーに敬意を示した。
そしてお互いに着席し、いざ用件を話し始めるという所で、気を急いだ父は欲望にらんらんと目を光らせて言葉を発した。
「いやぁ、ローゼマリー王太子妃殿下、本日もお美しい限りですな。こうして社交の場以外でお目にかかれたこと光栄です」
「……そうですか。ありがとうございます」
「それで用件とはなんでしょうか? ローゼマリー王太子妃殿下の命令でしたら私共、何を優先してでもお聞きしたいと思っています」
媚びまくる父は、ヴァネッサたち家族に見せる尊大な態度とは違って、下手に出て彼女に気に入られようと必死だ。
しかしその気に入られようという気持ちの下には、彼女から何とかお金を引っ張れないかと考えている下心が丸見えだ。
……いくら、普段の父とあまり面識のないローゼマリー王太子妃殿下でも、これほどまでに下心をむき出しではその気持ちに気が付くはずです。
気分を害さないといいですが……。
ヴァネッサはいつもよせている眉間の皺をさらに深くして、父とローゼマリーのやり取りを見ていた。
母は、父の行動にぎこちない笑みを浮かべながらも止めることはない。
きっと帰った時に因縁をつけられるのが怖いのだろう。
「お気持ちはありがたく受け取っておきますが、本日はあなた方の娘、ラウラ・ディースブルクについていくつかお聞きしたことがあるだけですので、さほど時間も取らせません」
「……娘の話……ですか、それは何か情報が入ったということですか?」
父は事務的なローゼマリーの言葉に虚を突かれた様子で、驚きつつもそう返した。
情報が入ったというのは、ラウラの行方不明届けについての情報という事だ。
ラウラが失踪して以来、貴族を管理している王族にラウラの失踪を告げ、身元不明の死体や、身元が分からない魔力持ちが見つかった時に照合してもらい発見できるようになっている。
しかし、ラウラはすでに成人もしてしまったし、自分の意志でいなくなった。そういう者については、情報として記録されるだけで捜索などは行われない事が一般的だ。
「いいえ、ラウラ・ディースブルクについての情報はありません。しかし、私たちは、ここ半年ほどの間に行方をくらませた貴族女性について調べています」
「それはまた、随分と限定的ですな。何か、その条件の女性が疑われるような事件でも起こりましたかな?」
「詳しくお話しすることはできませんが、人となりを確認する必要があり、家族から聴取を行っています。ご協力を」
探りを入れようとする父に、ローゼマリーはきっぱりと言って、とにかく答えるだけでいいと示した。
ローゼマリーたちは今、夫婦力を合わせてフェリクスの助言通りにルーラを保護するために情報収集を進めていた。
しかしルーラという名前に該当する人物はおらず捜索は難航。
そしてルーラという名前を偽名だと仮定し、近い名前、そして正体を隠すということは何か訳ありだろうということで、失踪した令嬢や、養子に出された令嬢、国外に嫁に行った女性などを当たって捜索していた。
けれどもヴァネッサはその言葉を聞いて、まさか飛び出していったラウラは、王族に何か害をなすようなことをしたのではないかと恐ろしくなって、あの地味な妹顔が思い浮かんだ。
ラウラは常識的で物静かだが、変わった子だった。何をしでかしてもおかしくない。
そして、その行動に出るような状況に置いておいたのはヴァネッサたちだ。
とてもラウラの事を詳しく王族の方に話をできる内容ではない。
……家族総出でいじめていたなんて言えません。ですが、それでも私たちは家族、何かしてしまったのならば、その罪を知る必要も背負う必要もあるんです。
ヴァネッサは苦い気持ちになりながらも、父もとてもラウラの事を聞かれても困るだろうと思ったが、そんなことはなく父はあっけらかんとした様子でラウラについて口を開いた。
「それほど必要な情報なのでしたら、構いませんが……あの娘の事ですか……」
そして、仮にも自分の娘であるラウラの事であるのに父はとたんに機嫌が悪くなり、苛立たし気にため息までついた。
「はい。まず、ラウラはどういった女性でしたか?」
「どういった? 地味な女です、それも出来が悪く君も悪い」
「……そういう事ではなく、どんな趣味があって、何が得意で、何が好きなのかそういう話をしています」
仮にも自分の娘の事を聞かれたはずの父は、他人の、それも知らない女性でも罵るかのようにラウラの事を言い表した。
その答えに、ローゼマリーはやや不快そうな顔をして、それから具体的に問いかけた。
「は? ……ああ、いえ。そうですな、特技といえばああそうだ、我がディースブルグ伯爵家のアマランスの花冠を常につけているかのような存在ですな」
「というと?」
「特出する点もなく常に影が薄く、いてもいなくてもかわない。無視されて当然のような女ということですぞ、ハハッ」
「……」
父はラウラを罵ってから、ここが笑いどころだとばかりに醜い笑みを浮かべた。
そんな父の隣で母はくすりと笑みを浮かべた。今までのヴァネッサであれば実家の中でのいつもの雰囲気を外に持ち出して、これが面白いと思っていただろう。
しかし、アマランスの花代の事があってからはラウラは決して無能でも、ごく潰しでも、特徴がない人ではなかったとわかる。
だからこそそんな彼女をこんな風にいうのは家族の押し付けでそしてそれこそがいじめだ。
ヴァネッサはどうにもいたたまれない気持ちになってソファーの隅で小さくなった。
「しかしいなくなっても変わらないかと言われたら語弊がありますな。なんせあの不気味な独り言を聞かずに済むんだから」
「……」
「あの娘は幼いころから性格が悪かったんです。我々の気を悪くすることばかり考えて、気を引く為にキチガイの真似で始めた、哀れな━━━━」
「話は結構です。ラウラ・ディースブルクが何故失踪したのか、よくわかりました」
続くラウラの悪口に、ローゼマリーは父の言葉にかぶせるようにいった。
それはさほど大きな声ではなかったのに、つい黙ってしまうような透き通った綺麗な声だった。
「きっと戻ってくることなどないのでしょうし、それにあなた方からラウラ・ディースブルクについて正しい情報を得られるとも思えません」
「はぁ? そういわれましても、私はただ聞かれた通りにあの娘の事を話しているだけで……」
「ですから、そのような話を聞きたいとは言っていないという事です……ふぅ、こうして失踪した令嬢の家族を当たってみるとこんなことばかりでいい加減、私も腹が立ってきました」
「なんのことだか、私は、きちんと要望に応えたではありませんか」
「……」
「ローゼマリー王太子妃殿下」
美しい彼女は視線を鋭くして父を睨み、隣にいる母にも視線を向けた。
父は本当に、自分の言っていることが当たり前で何も疑問に思っていない様子だった。
そんな様子の父に、ローゼマリーはまた、ため息をついてから、ピシッと背筋を伸ばしてとても冷たい声で言ったのだった。
「たしかに、私はラウラ・ディースブルクの特徴について聞きましたし、彼女の人となりを知りたいだけです。
しかし、特徴を聞かれて自分の娘を罵り辱めるようなことばかりを口にする親を見た時どういう感情が浮かんでくるかわかりますか?
答えは醜いという感情です。
ラウラ・ディースブルクがどういった子供だったかなど私は知りませんが、あなた方のような敵のような親に常に監視されるように過ごした子供時代はさぞ大変だったのでしょう。
あなた方の望みで生まれたはずの彼女は、愛されようと必死になったのではないですか? だからこそ気を引くのではないですか? 私にはまだ子供がいません。
しかし、今思うのは、あなた方のような子供を自分の思う通りではないからと言って無視して当然、彼女がおかしい、と否定するようなことをすればおのずと子供も親を見限るということです。
ラウラ・ディースブルクの今がどうか幸せであることを私は祈っています」
……ローゼマリー王太子妃殿下……。
ヴァネッサははっきりといった彼女に感嘆の息を漏らしていた。
たしかにその通りだ、そしてヴァネッサも父や母と同じだった。
しかしもう、今までと同じように居たくはない。ラウラは最後に、ヴァネッサに気がつかせてくれた。
ラウラを迫害していた屋敷の状況のおかしさも、リーゼのありえない増長っぷりも、だからこそ今、変わるべきなのだ。
「仰っていることの意味がよくわかりませんな」
しかし父は理解する気は端からないらしく、平然と返す。それにローゼマリーは「そうでしょう。愚者は総じて変化を恐れるものですから」と静かに言い放った。
そして面談は終わり、ヴァネッサたちは馬車に乗って帰路についた。
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