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頑張ったんだけどな……。3
しおりを挟む「君らは総じて、心変わりが激しい。君に関しては、初めから私というものを見てすらいない」
「……」
「私は君らが嫌いだよ、本当はね」
……困る、すごく困る。でも……今。彼の言葉全部、彼自身の言いたいことだ。
こんなにヒントがたくさんなのも珍しい、バルコニーから突き落とされそうになっても、彼の地雷原をスキップしながら歩ききっただけある。
今の彼の眼は喉が渇いてしょうがない人のような、そんな目だった。ローレンスの王子という身分は、もっともっと満たされて、自己愛を持っているのが当たり前だと思う。
寂しがりで自分を見て欲しい、何かを望んで欲しいという気持ちは、彼のその欲求はどこから来るのだろう。疑問を持った事はあった。そして常に、その欲求は満たされていないように私からは見えていた。
だから私にも、きっとクラリスにも誰彼構わず、手当り次第。
それはきっと。
「ローレンスは、望まれたいの?その“奴”っていう人と比べて、とにかく何かを望まれたいと言うこと?」
私の中に彼に思っている言葉は沢山あったが、それを次々言葉にしてしまったら、乱暴をされそうであったので一応会話をするつもりで、彼にわかるように言葉にした。
「違うよ」
「じゃあ、愛されたい?」
「それも違う」
「じゃあ、許されたい、とか、許容されたいとか」
「いまいちかな」
「?……信じられたい?憧れて欲しい?嫉妬されたい?」
「違うね」
私の言葉では全てピンと来るものがなかったらしい。首を捻って、人に向ける感情を探すがそれ以上は思いつかない。それに、ローレンスがまた嘘を言い始めたのかもしれない。
ローレンスの本音は、嘘に埋もれてて分かりずらい。
彼は落ち込むみたいに自分の顔を手のひらで覆う。
それから、子供みたいな声で、口にした。
「……全部だね」
……欲張りだな。でも、やっぱり、私は間違っていないんだ。欲しくてたまらないんだローレンスは、寂しいどころの騒ぎじゃない。きっと何かが欠落しているんだろう。
「君と話をしていると、まるで魔女にかどかわされているような心地がする」
それが自分の本音だと納得できていないのか、彼は私のせいにした。指の隙間から翡翠の瞳がこちらを覗く。
不安げで、様子を伺っているようだった。
「……いくら君の情報を聞いても、君の望んでいることが分からないわけだね。だって君、化け物なんだろう?」
「ああ、ヴィンスから聴いたのね」
「クラリスも、突飛な事になっていると聞いているよ。二人まとめて異端審問会にかけてしまおうかな」
「……やめてよ、本当に死んじゃう」
「君は死を引き合いにだしさえすれば、上手くコントロール出来ると思ったのだけれどね。別に怖くも無いのだろう?」
「……怖いよ、普通に」
テーブルに手を伸ばして、自分用の冷えきったジンジャーティーを飲む。ローレンスとは目が合わない。いつもこのぐらい分かりやすく話をしてくれればいいのにと思うけれど、本人はとてもしんどそうだ。
それに、素でも相当酷い人のようだし、共感力は薄そうだと思う。
話をして少し落ち着いて来たのか、ローレンスは考え事をするように口元に手を持っていった。そして、視線を外したまま言う。
「……君は私から逃れたいと考えているだろう」
「……べつに」
「そうで無ければ、ヴィンスを切り離す必要が無い。違うかな」
「違う。私は、本当にどちらでもいいし判断ができるほど、貴方の事を知らない。でも、ヴィンスがこのままではきっとダメな事だけはわかる。だから……それだけ」
「では、ヴィンスを返してもらおう。自由にはさせてあげるけれど、君が不審な動きをしたら、すぐに殺すよ」
それはヴィンスの自由意志があると言えるのだろうか。命を握られている状況では、今と変わる事は出来ない。
……やっぱり、ローレンスは私がどこかへ逃亡すること、それと、ヴィンスから聞いているだろうローレンスの思惑を阻止しようとする人たちの仲間になる事を警戒している。
固有魔法の授業の日の話を思い出す。
出来れば出したくない条件だったが、仕方がない。
……ヴィンスが、私はこの世界できっと一番大切だ。こちらに来てからずっとそばにいて、大事なのだ。
「ローレンス、提案があるの……──────
私の言葉をローレンスは目を見開いて聴いた。そして、提案を受け入れた。実施するときはローレンスが決める、ということを取り決めて、ローレンスはゆっくりとお茶を飲んでからしばらくしてから帰っていった。
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