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一難去ったらまた一難……? 2
しおりを挟む目が覚めるとそこはサディアスの部屋だった。
血まみれになったベットは、パキパキに乾燥し、そして起き上がるとヴィンスとサディアスの二人が、ベットに突っ伏すようにして、眠っていた。
手や足が、ひとつも痛くなくて、制服も綺麗に復元されている。しかし首元に、魔法玉が無く、どちらかが持っているのだと予想できる。
部屋は明るいが、窓の外は真っ暗だ。模擬戦からだいぶ時間が経ってしまっているだろう。
あんな事になるとは思っていなかったが、一体、コーディは何を考えていたんだろう。彼は私を殺したいと言っていたと思う。
……なんだろう……そう言う時期なのかな?こう、尖ったナイフのようになる……そう、思春期的な……。
まぁ、でも正直、彼のことはまったくの謎だ。
彼にはたしか双子兄弟がいる。そして彼は私の弟、けれど、私は姉であって、コーディとその兄弟と三つ子という関係ではないらしい。何がどうなってそうなっているのか、クラリスの出生については謎が深い。
あまり深入りしない方がいいと思い、考えるのをやめた。クラスでも普段から関わりがないのだ。これからも出来るだけ接点を持たないようにしよう。
……結構、怖かったしね。死を感じたよ割と間近に。
思い出しても背筋が凍る。傷つけられた両腕が無事なことを再度、確認する。
……これって、ヴィンスが治療してくれたんだよね?助けて欲しいって言ってくれと言っただけあって、ヴィンスには通常の魔法では治せない傷を治す算段があったのだろう。さすがだ。
結局、どうなったのだっけなと思いながら私のすぐそばにいる、ヴィンスの頭を撫でた。
肌が白くきめ細かい、頬は少し紅潮していてあどけない。本当に美人である。ローレンスは男性らしさがあり、優しげでもあり、イケメン王道と言った具合だが、ヴィンスは線が細く中性的だ、その点ではコーディと似ているような雰囲気ではあるのだが、まったく髪の色が違うので印象も違う。
コーディは冷たいイメージ、ヴィンスは……緑の髪を見るたび思うのだが、アニメや漫画の色物キャラっていつも髪色緑だよね。そう……つまり……ひょうきん?いやいやいや、ひょうきんではないだろ。
「っふふふ」
でも、とにかくだ、こうして頭を撫でられる程、近くに居るということが今は嬉しい。とにかく寂しかったし。
ついでにサディアスのつんつんした髪も同時に撫でる。サディアスは本当に男の子っぽい顔つきだよね。あ、ピアス空いてる。
ふと気になって触れると、ビクッと彼は反応して、ふと目を覚ました。
「……何してる」
「ピアス、可愛いなと思って」
「勝手に触らないでくれ」
「うん、耳触られるの苦手なの?」
彼は起き上がって、ふわわと欠伸をする。
私はせっかく珍しくサディアスをよしよしできると思ったのに離れてしまったのが残念で、少ししょんぼりだ。
「……得意なやつは、居ないだろ」
「確かにね」
分かっているが、ここ数日寂しかったせいだろうか。つい手がうごいてしまう。
ヴィンスの頭をうりうりと撫で回した。
「…………なぁ、クレア」
私がヴィンスの背中を犬を撫でるようによーしよーしと撫でていると、少し低い声でサディアスは言った。
私が彼に顔を向けると、すごく怒った顔で私を睨みつける。
「ベットが血まみれだな?」
「う、うん」
「君もさっきまで血まみれで虫の息だったな?」
「……」
「君は俺に、なんて説明した?わかってるよな、俺は心配もしているし、できる限り安全な道を選ぶべきだと言ったな」
お説教タイムに入ったらしい。
ピリピリとした彼の雰囲気が伝わってきて、ベットの上で正座した。
「大丈夫と言った言葉は嘘だったわけだが、俺は君を信用出来る気がしないんだが、君はどう思う?」
「うん……うーん」
「うーんじゃないだろう?血を流しすぎて頭が回らなくなったのか、痛い目見れば大抵の人間は間違いに気がつくな、でも君はどうかな」
徐にサディアスは立ち上がる。私はそれをじっと見上げる。そして私の魔法玉と自分の魔法玉を取り出した。
合わせて持って彼は、私の魔法玉に自分の魔力を押し込める。喉が詰まるような感覚に、体が固くなる。
「痛い目を見すぎて、そのまま死ぬのではないかと思ったぞ」
彼はイラつきを私にぶつけるみたいに、だくだくと魔力を押し込めてくるので体がついていかずに、腹の奥の方から異物感が生まれて、侵食してくる。
私の固有魔法の練習に付き合ってくれる時は、もうちょっと優しいというか、暖かいと言うか、ふわふわしているのに、今やローレンスを想像させるような魔力量である。
「ぅ……」
正座したまま、小さく呻くと、サディアスは私の頭に触れた。優しく頭を撫でられる。
「多少あらっぽいのは許してくれ。つい先程まで、君の治療をするヴィンスに魔力を注いでやっていたからな、こちらも疲れているんだ」
「ン、……ぅう……ご、めんて、サディ、アス。ちょっと、きつっ」
「なにがだ?俺は、君の魔法を補助するためにわざわざ魔力を注いでやっているんだが?ありがとうじゃないのか」
「ッ、う、あり、あと」
気持ち悪いゾワゾワする感覚にパニックになりつつ、私を撫でている人肌がなんとも心地よく。飴を与えられながら鞭を与えられると、色々パニックになるという事だけは分かる。
「…………ほら、全部入ったぞ、しばらく自己治癒に努めてろ」
「ン……うん」
生理的な涙を拭いながら熱の残量を確認する。半分程度まで回復している様子で、固有魔法を使っているから効率もいい、体の傷は塞がっているが、何だか頭がふわふわするので、血が足りていないだろうと予測する。
治れー、戻れー、とキラキラした魔法の光が血液になることを必死に想像する。
サディアスはもう動けないとばかりに、私のすぐ隣に座りこんだ。
「……なあ、痛い目にあっても、分からない人間は、どうすれば危険を犯さないようになると思う?」
「…………私の事?」
「それ以外に誰がいるんだ」
正座を崩して、足を伸ばし、枕をクッションにして腰掛けた。
「クレア、侍女が替えの布団を用意したそうです。……少し失礼しますね」
「うん……うん?」
いつの間にか起きていたヴィンスは、大きな布団を持っていて、血濡れの掛け布団を、侍女ちゃんが回収し、新しい布団がマットレスの上に敷かれる。
「もう消灯時間がすぎているようですから、本日はサディアス様のお部屋でお世話になりましょう」
「……俺はもうなんでもいい、ここで寝る」
「では、私もクレアの隣で寝ますね」
「……あ、うん」
部屋の灯りが消されて、いつの間にか暗くなる。
魔法玉だけがキラキラと光っている。
「……えっと……おやすみ?二人とも」
「おやすみなさいませ」
「おやすみ」
返事が返ってきて、私も魔法を使ったまま、真ん中で横になる。いくらサディアス貴族サイズの大きなベットだとしても、三人で横になるといかんせん狭い。こちらを向いて丸くなって目を瞑るサディアスと手が触れた。また冷えきっているので、片手で握る。魔法を使っているので暖かいだろう。
ヴィンスの手も同じように握ってみたら、彼は私を見て、ぱちぱちと瞬きをしたあと、ちゅっと手にキスをして眠った。
……あ、そういえば。
全身痛くて苦しくて、それでも目を覚ませない時、夢なのか現実なのか声が聞こえたんだ。
なんだがヴィンスはいつもより性格が歪んでいて、サディアスは何となく口が悪い。色々喋って、そしてそれから、ヴィンスは言った。
サディアスもヴィンスと同類だと。
そしてサディアスはそれに答えなかった。
……あれは一体どういう意味だろう。
それが謎だったのだが、夢なのか現実なのかも分からないのに二人にそんな話してた?と聞くのははばかれる。
横になれば否が応でも、睡魔はやってきて、意識が落ちて行く。
二人に握られた手が暖かくて、安心して眠れそうだった。
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