悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸

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一難去ったらまた一難……?1

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 ……よくもまぁ、君はこんな目にばかりあってくれるな。

 俺の心配も配慮もすべて無に返すような行動の数々に段々と苛立ちすら感じてくる。
  
 ベットで眠っているその両手は真っ赤に染まり、原型を留めるために、包帯でぐるぐる巻きにされていた。

「……サディアス様、あまり感情を乱さないでくださいませんか、私の体が持ちません」

 クレアの治療をしているヴィンスは、少し息を荒くしながら俺を見る。
 そんな事はわかっているが、少しは苦しめばいい。今回のクレアの大怪我はほぼ、いや、すべてヴィンスのせいだ。

「……善処しよう」
「お願い致します」
 
 中心が緑に染まったクレアの魔法玉とヴィンスの魔法玉を握り直し、少し魔力を弱める。

 俺たち以降の模擬戦は、正直、ほぼ試合にならなかった。
 理由は、クレアが拷問でも受けているような声で叫んでいたからだ。魔法使いを目指している身として、学生といえど、戦いというものにそれなりに耐性はある。
 ただ、それゆえ、生徒は皆、痛みを知っている。弱いものをいたぶるという行為は何よりも忌避される。武器を奪った時点で、コーディ様とクレアの対決の結果は出ていた。

 その上でのあの行為。クレアの悲痛な喉を引き絞るような叫び声。

 チェルシーとシンシアは酷く狼狽え、コーディ様の護衛達も自分の主の行いとはいえ、血飛沫が飛ぶ度に、顔を青ざめさせていた。
 その後の試合も、動きがぎこちない者や体調を崩す者が続出し、模擬戦としてはろくな成果が無かった。

 俺たちは、一応クレアのおかげで負ける事はなかったが、同時に、勝つ事も出来なかった。あれはそういう作戦だ。ただ本来であれば、これほどの惨事を引き起こす事は無かっただろう。

 ヴィンスは戦いの最中に、彼女と何やら話をして、血を流すままにし、死の危険が迫るまで、平然と話をしていた。

 最終的にどんな話になったのか分からないが、ヴィンスはこうして今、クレアのそばにいる。きっと、クラリス様からの協力の条件にたいする、回答は、決まったのだと思う。

 クラリス様と、ローレンス殿下のどちらにつくのか、それは、重要ではあるが、今はそれは置いておいて、ヴィンス自身のことだ。クレアはヴィンスがこんな人物だと想像していただろうか。

 腹が立って魔力を強く込めると、ヴィンスは目を瞑った。ほんの少し気分が高揚して、自分を叱咤する。クレアの固有魔法のせいで変な癖がついているような気がしてならない。

「サディアス様……」

 苦しげに俺の名前を呼ぶ彼に、妙に加虐心が煽られる。こいつには妙な愛嬌があって困る。どこからそう言う事を学んだのかまったく分からないが、とにかく俺ぐらいの歳の人間には、毒気が強すぎる気がする。シンシアとチェルシーがかどかわされないか心配だ。

「……君のそういう雰囲気は、元々なのか」
「何のことでしょうか?」
「その、女みたいな雰囲気の話だ。まるで情婦だな」

 つい自分でも、同級生に、それも同性に言う言葉ではなかったと思い、罰が悪くなる。こういうと気に何も言えないところも含めて、ヴィンスが何も抵抗できないのが嫌だとクレアは言って今回の騒動に発展したのだと思うが、まったく改善されている様子はない。

「……そのように感じられますか?」
「ああ、そうだな。君のそれをクレアは、殿下に縛られている故だと思っていると思うがな」
「左様でございますか。……ローレンス様が、私をクラリス様に下賜した時、ローレンス様は随分と荒れていらっしゃいましたから、戯れに、私を慰み者として、送ったのですよ」
  
 突然の告白に、目をむく。
 それではつまり、ローレンス殿下はクラリス様を愛さないし、妻として遇するようなこともないという事を示したということだろう。

 そして、それを幼い自分と同じ年頃のヴィンスに役目を背負わせた。単なる戯れだったとしても、彼は幼い時に、そういった仕事をする年頃の女性がされるような教育を受けたという可能性もある。

「私と距離を置かれますか?」
「…………いや、不躾な質問をした事を詫びよう」
「構いません、慣れていますので」

 ヴィンスは眉を下げて笑う。
 俺はクレアを見た。大粒の汗をかいて、青ざめた顔で呻く彼女。確かにヴィンスは不憫だ、けれどやっぱり俺は、クレアがここまで辛い思いをしなければならないとは思えない。

「本当に、綺麗に治るんだろうな」
「ええ、確実に。……信用できませんか」
「当たり前だ。そもそも、俺は君がクレアを助ける前提でこの作戦を飲んだんだぞ」

 そうだ。クレアはヴィンスに自由に選択をして欲しい、と言った。彼女なりの行動を伴った説得だったと思うし、あそこまでお膳立てされて、よくもまぁボロボロになるクレアを放っておいたと思う。

 けれどその後だ。
 基本的に魔法は他人を助けるということは出来ない。クレアが意識を失った以上、本人が目覚めて自己治癒する以外、彼女の腕や足を治す方法はなかった。

 ただ何事にも例外はある。ヴィンスは治せるから問題は無いといい、そして、実際にクレアを治癒させている。戦闘の後なので、魔力が枯渇しそうだったが、そこはろくに戦っていない俺の魔力をヴィンスの魔法玉に少しづつ込めることによって補っている。
 そして、クレアの固有魔法も強制的に利用し、ヴィンスは彼女を魔法で治癒することを可能にしていた。

「…………選んで良いと仰ったのはクレアです。自由に振る舞えと仰ったのも」
「だがな、君ならコーディ様を止められただろう」
「サディアス様、私は多分、相当に性格が悪いんです。だから、やっぱり、私は、私の望みを叶える方法を、相手を貶める以外で思いつかなかった」
「……君の望みって、なんだ」
「自由になってみても……まだ実感が湧きませんが…………多分」

 ヴィンスはそこで区切りを入れて、クレアを見る。彼女を覆う光の波が一層強くなったのを感じた。

「この人に、必要とされたかったんです」
「…………君な……それは、醜い愛情だぞ。相手の事をまったく思いやっていない、自己中な情だ」
「そうですよ。クレアはそれでも、私に、助けてと言いました。私はそれでは満足です」

 言ったのではなく、言わせたと言うんだそれは。

 あの状況で、彼女にそんなことを言わせていたのだと思うと、また腹が立って魔力を強めた。

「ッ……怒ってらっしゃいますか」
「当たり前だろ」
「申し訳ありません。サディアス様……でも、貴方様も……言えた話ではありませんでしょう?」
「どういう意味だ」
「サディアス様の愛情は優しい愛情だとでも仰るつもりですか」
「…………」

 俺を試すような言葉に、眉間に皺を寄せた。

 今までのまったく、自分の意見を言わないという、頑固な部分だけはクレアは取っ払うことに成功したのだなと思う。ただ、彼の本性は思ったより悪質だ。

「友情のつもりだが?何より、同じチームだ。彼女が使い物にならなくなったら困る」
「いいえ、貴方様は、分かっていらっしゃるはずです。クレアに依存的なまでに情を向けていますでしょう?」
「……」
「私、貴方様は私と同類だと思っていますよ」

 そんなわけが無いと思っているはずなのに、返す言葉が思い浮かばずに、視線を逸らす。俺は普通のはずだ。多少過敏に反応しすぎてしまう部分があるだけでいたって平凡であるはずだ。

 家族からも、シンシアやチェルシーからも常識があるという面では、信頼されていると思う。

「クレアは可愛そうですね。対してすべてのしがらみから逃げおおせたクラリス様は今ごろ高見の見物でしょうか……ふふ」
「……君な……クレアの前でそんなことを言うなよ」
「言いません。……醜い人間だと思われたくは、ないので」
「はぁ……」
「家族、らしいんです。私、クレアと」
「……そうか」
「ええ、ですから、少しは私の汚い感情も見せる時もありますが、基本的には……笑っていて欲しいですから」
「君も……そんなまともな事を言うんだな」
「ずっとまともな事しか言ってないつもりなんですが」
「まともな人間は、助ける力がある時、相手が窮地に陥っていたら、必要としてくれるかなんて聞かない」
「聞きますよ。きっとサディアス様も同じような状況になった時、思わず自分の望みを言ってしまうものです」
「君と話していると気分が滅入る」
「左様でございますか、大変失礼致しました」




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