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楽しいゲーム……? 1
しおりを挟むバルコニーのついている大きな窓を開け放って、空気を入れ替える。夏の終わり、秋を感じさせる心地よい空気が吹き込んで、私の髪をさらっていく。
洗濯を終えたシーツをバルコニーの柵にかけて、それから布団と枕を天日干しにする。カラッと晴れた空に、私はよしっと気合いを入れた。
「……頑張るぞー」
声に出してそう言って、三角巾を口元につける。
もうすぐ夏休みも終わる今日この頃、私はたまの休日に大掃除を決行していた。ちなみに今日はヴィンスは月一回のホリデーである。
彼の言い分としては、従者は三百六十五日お休みなど無く、常に主と生活をするものらしいのだが、私個人としてはヴィンスを雇っているような気分なので、社員には週二回お休みを取るべきだと言う考えがある。
そんなこんなで二人で話し合い結局、月一回、私のお世話をしない日を決めていたのだ。
もちろんプライベートで遊びに行こうと誘われれば行くし、お話もするが今日は、私の家事は全部私のものだ。
……こんな日にこそ、大掃除だよね!
なにせ私は家事が嫌いでは無い。それに夏休み中の連日の訓練の日々からも開放されるしとても良い気分転換になる。
ヴィンスはお休みの日はだいたい少しだけ機嫌が悪いが、今日は行きつけのティーショップへと出かけていった。結局それも私に出すお茶の買い出しと似たようなものなのだが、さすがにそこを否定すると彼が必要とされてないと勘違いし暴走を始めそうなので何も言わずにいる。
いそいそと腕まくりをして、部屋の隅に置いてあったバケツを持ってくる。手始めに床の拭き掃除だ。それから、テーブルやベットを移動して溜まったホコリを一網打尽にするのだ。
私は鼻息を荒くして、掃除を始めた。この部屋にも随分と慣れたものである。
しばらく掃除をしていると、部屋をコンコンとノックされる。執務机の移動に手間取っていた私は「どうぞー!」と大きく声をかけて、それから思い切り机を引っ張った。
「クレアー、今日はオスカーと街に降りるんだけど……って、模様替え?」
「いいえ!大掃除!」
「掃除だぁ?従者にやらせろ、そんなもん」
二人セットでひょこっと扉から顔を出して、私の様子を見て言った。
机がズズッと鈍い音を立てて、少し移動する。
……ダメだ、床が傷ついちゃうな……。
「ヴィンスは今日はホリデーだから、それに、私は掃除が好きなの!」
「酔狂だな。ヴィンスも仕事を取られて怒ってんじゃねぇか?」
「う、うん……まぁ、ちょっと機嫌が悪いね」
言いつつ、観念して二人の方へと歩み寄る。
三角巾を外して、二人に向き直ると、彼らは、リボンで髪を一纏めにしている私が珍しかったのかまじまじと私を見つつ、ディックが先程言いかけた事を言う。
「じゃあ、やらせといて、僕らと街に行こうよ。いい加減二人で回るのにも飽きてきたし」
「そうなんだよなぁ、入る店も一辺倒で決まってきてるし、お前も来いよ」
……なんだその熟年夫婦みたいな誘い方は、そして私は二人からしたら面白キャラみたいなものなんだろうか。
まぁ、普段ならそれでもまったくかまわないのだが、今日はやる事が山積みなのだ。
「ごめんね、今日は遠慮しとく。また今度誘って」
「んだよ。つまんねぇな」
「はぁ……わかったー。っていうかクレア、君、掃除って言うけど魔法も無いのにどっうやって重いもの動かすつもり?」
ディックの視線の先には、私が先程格闘していた机がある。
……言われて見れば確かに…………でも今日は本当に大掃除の気分なんだ。魔法が使えれば……。
じっとディックを見返してみる。彼は、自分で言ってから気がついたらしく、ずささっと後ずさりしていった。
「お願いディック……ちょっとだけでいいからさ」
「ッ、気持ち悪いお願いの仕方するなよ!!僕は嫌だって」
……気持ち悪いって、酷いなぁ。
ちょっと上目遣いしてみただけじゃないか。
「……なぁ、お前って固有魔法使う時ディックばっかり選んでねぇか?」
「…………」
オスカーは、少し訝しげにそう言った。
……自覚はあるんだけど、はっきり言われると恥ずかしいな。
「別に……オスカーでもいいよ」
……だって、ディックかオスカーだったら……ディックの方が、多少ましというか、まぁ魔力を貰っている手前そんな選り好みするなんて褒められた事では無いのはわかっているけれど……なんて言うのかな? ディックは柔らかいというか、多分サディアスの言っていた魔力の定義というものだと思うのだが、少し優しい気がするのだ。
きっと、ディックは魔力を何か柔らかいものだと捉えていると思う。オスカーはその逆、というかサディアスに近い、少し威圧的というか主張が強いというかそんな感じなのだ。
「でもいいよってなんだよ。俺にはお願いしてくれねぇのか?クレア」
私がたじろいでいたせいかオスカーは少し強気にそう言って魔法玉を出してくれる。
私も潔く魔法玉を出して少し目を逸らした。
「……お願い」
「誠意が足りねぇな」
彼は強気に笑ってそう言う。カチンときて、少し強めに彼を睨んだ。そんな私の心情を意に介さず彼は好青年らしくニコッと笑う。
「性格が悪いよ……オスカー。お願い、ってちゃんと言ったじゃない」
「わぁったよ、俺が注げばいいか?」
私が頷く前に、彼は魔力を押し付けてきて、私は受け入れるのに少し深呼吸をする。
注げばいいか?じゃなくて、注ぐけどいいな?じゃん。
……まぁ、お願いしたのは私だけどさっ、別に全然いいんだけどさっ!きっとそう言う性分なんだろう。きっと前世に生まれていたら彼はモラハラするタイプだ。
そんな文句を考えつつ、じわじわと注がれる魔力を受け止めて無事に魔法が発動する。
彼は不服な表情を浮かべる私の頭をポンポンと得意げに触り、それから「じゃあな、励めよ」と言ってディックと去っていく。
ディックは、まんまとオスカーの思惑通りにさせられた私に少し同情の表情を向けて彼と同じように、ポンポン私の頭をなでて「何かお土産買ってくる」と言って去っていく。
…………二人ともさぁ。私の頭はそんなに撫でやすい位置にあるかな。
なんだがさらに屈辱的な気分になって、ムカムカしつつ、机をガシッと掴んで、ポイッと退ける。
ズシンッ!と重たい音がして机は床に着地した。……そういえばこういう風に魔法を使う事はあまりない。私はムキムキマッチョになったような気分で、ベットも片手でひょいっと動かせる。
……!た、楽しい。
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