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楽しいゲーム……? 2

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 夏休み中でなければ下階の人から苦情が来るような掃除の仕方をして、午前中で私は大掃除を終えることができた。

 天日干ししていた布団を取り込んでいる最中、ガラガラガラとトランクを引きずる音がして、ブロンズ寮の玄関へと続く道を見てみれば一人の生徒が随分と早い帰寮をしていた。

 まだ夏休みが終わるまでに、一週間ほどあるというのに、オスカーの次に早い帰寮だ。早めに戻ってきて、静かに宿題でもやろうという魂胆だろうか。

 ……それならば随分と計画的な人だね。

 そう考えながら、近づいて来ている人物を見てみれば、随分と見慣れた人だった。彼女はふと私に気が付き、ぱちぱちと瞳を瞬かせる。

 この時期に寮に人がいるなんて思っても見なかっただろう。私は、久しぶりに会った彼女に、おかえりという意味を込めてヒラヒラと手を振った。すると、途端に表情を歪めて、ふと視線を逸らしてさっさと寮の中に入ってしまう。

 ……あれ、ララだったよね?見間違いだったかな?

 少し髪が伸びたように思うが、あの桃色の強い眼差しはララで間違いないと思ったのだが……。

 クエスチョンマークを浮かべつつ、布団を取り込んで、バルコニーの窓を閉める。綺麗にベットを整えて、ついでに掃除用具もしまって、ピカピカになった自分の部屋に満足し、さて昼食でも食べるかと買っておいたサンドイッチに手を伸ばすと、バタンと大きな音がして扉が開いた。

「えっ」

 急に私の部屋の扉を開け放ったのはララだった。彼女は、またもや不服そうに、じとっと私を見つめている。

 意味も分からずに、私がサンドイッチ片手に固まっていると、彼女は、ぷくっと膨れて、ずんずん部屋の中に入ってくる。

「久しぶり!随分早く寮に戻っているのね」
「う、うん?……私家に帰ってないから、ずっと居たんだよ」
「あらそう!ま、私には関係ないけど」

 何が言いたいのか分からず、一応返事を返して、そして沈黙する彼女に私も沈黙で返す。

 しばらくの間、意味のわからない間があって、それからクゥと可愛らしいお腹の音が聞こえた。すごいタイミングだな、と思いつつ「食べる?」とサンドイッチを差し出しつつ聞くと、ララは少し顔を赤く染めて、お腹を抑えながらこくんと頷いた。

 私たちは綺麗になったお部屋で、もそもそとサンドイッチを食べ、結局お互い沈黙になった。私は割と現在の状況がわかっていない。ララとは正直それほど仲が良いという訳では無いし、彼女はいろいろと闇深いのだ。
 
 それに、リーダークラスでたまに話をする程度で、基本的に彼女はコンラットやローレンスと一緒にいるし、チームもクラスも違う。必然的に、イレギュラーな場合しか話をする機会もない。

 ご飯を食べ終わって、私は午後の考えていた予定が決行出来るかどうかを考える。チラとララを見ると彼女と目が合った。

「貴方このあと暇?訓練に付き合ってあげましょうか」
「ええと……ごめん、少し用事があって」
「そう、じゃあ私もその予定に付き合ってあげる」
「……」

 どうやら彼女は今日は私と一緒にいると決めてしまったらしく、部屋に戻る気配はない。私は別に誰が居てもいいかと思い直し、制服のジャケットを羽織る。

「街に降りるんだ、そのあと色々作業があるんだけど、それでいいなら、一緒に来て」
「うん……わかったわ」

 ララも席を立って私についてくる。

 ……大方、帰省先で何かあったのだろう。よく分からないが、どうせ彼女は自分が話をしたいと思わない限りは話をしないし、多分少し私に甘えているのだろうとも思う。

 今、ララも色々大変だって……一応知ってるしね。

 邪魔にならない限りは、側にいてもいいかなと思って私は部屋の外に出る。ララは少し後ろをついてきた。

 ララは私があれこれと材料を買っている時に、荷物持ちの手伝いをしてくれて、そして私の買い物に文句ひとつも言わずに付き合ってくれる。

 というか文句ひとつというよりも彼女は何も話をしない。ただ黙々と私の後ろをついてきて、休憩にお茶を飲み、また学園街をウロウロとした。

 その様子を見て、原作のララを思い出す。

 彼女は、割とおしゃべりで明るい方だ。そして我も強い。けれど、本気で参っている時の描写は一度だけあった。ララはあまり弱音を吐かない。そういうプライドというか自尊心が強いところは、何となくクラリスにも似ているような気がした。

 ……少しは話を聞いてあげたいけど。

 私にどうにかできる事では無いとわかっていつつも、話をするだけで整理できる事や、楽になる事は多くある。私はヴィンスに色々な事を話すし、彼も最近は話をしてくれる。それはとても精神衛生上良いもので私はその時間が好きだ。

「ララ……少し展望台の方に行きたいんだけど」
「……どうして?……あんな観光地行き飽きてるでしょ」
「まぁまぁ、何となく、いい?」
「いいけど……」

 乗り気では無い彼女の手を引く。
 展望台とは、ディックに案内された、学園側の展望広場とは違い、学園街の一番端にある、綺麗に整備された観光地となっている場所だ。話は聞いたことがあるが私はまだ行ったことがなかった。

 人混みを縫うように歩いていけば、大きな鐘のある、見晴らしの良い展望台へと到着する。

 謎にカップルが多く、甘ったるい雰囲気が流れる中、私は柵のすぐそばまで移動して、それから荷物を一旦下ろした。

「気持ちいいねぇ……」

 大渓谷から吹き上げる風が、それほど強くもなく、重い荷物を持って歩いた私の体を冷やしてくれる。

 学園側の展望広場と同じ広大な風景が広がっていて、遮るもののない太陽が少し眩しい。
 私が振り返ると、ララも側まで来て、柵に体を寄りかからせた。

「やっぱり、退屈よ……クラリス」
「……」
「つまらない事ばかりだわ」

 彼女は広大な風景に背を向けるようにして、柵に寄りかかりそして空を見上げる。声はどこか弱気で、悲しげだった。

「貴方、何か面白いことをしてよ。昔みたいに」

 そう言って懐かしむように、グッと目を細める。その表情は涙を堪えているように見えて、私はふと視線を逸らした。

 何となく泣き顔を見られるのは嫌いなタイプじゃないだろうかと思っての事だ。別にプライドを傷つけたいわけじゃない。

 彼女が言いたいことは、私に面白いことをして欲しいという要求ではなく、きっと夏休み中に起こったであろう“つまらない事”じゃないだろうか。

「何かあった?」
「何かって何よ。何にもないわ、本当につまらないことしか」
「そっか」

 いまだに言うつもりはないらしい。ぼんやりと風景を眺めながら、私はそれならそれで仕方ないかと思いつつ、遠くの空を飛んでいく鳥を眺める。

 空を遮るように、一直線に飛んでいく白い鳥に、なんだが幻想的だなという感想を覚えつつ、話す気がないのなら仕方ない、そろそろ寮に帰ろうかと思い、柵から身を離した。

「……私、コンラットの家の養子になるんだって」

 消え入りそうな声でそう言って、彼女は、相変わらず空を見ている。

「皆言うわ、当たり前の事だって、ローレンスと結ばれるのだから、仕方ないって」
「……」
「それに、私には実力がある、あとは育ちの良さを身につければ、国を支える……立派な王妃になれるそうよ」
 
 言いながらララの声は震えてきて、それは怒りからか、もしくは、悲しみからなのか分からない。

 そして恐らく事実だろうと思う。ララは相当な実力を持っている。何よりローレンスからの寵愛を受けているし、クラリスが捕まったことにより王妃の席は空席だ。

 私の知らない国家間の思惑や、風習なんかもあるのだろうが、ララを王妃にする事は、きっとできない事は無いのだろう。けれど、身分が平民のまま王妃になる事はさすがに出来ない。そこで、身分の高い家に養子に入ることにして、結婚させようということだろう。
 
「ララは王妃様になるんだね」
「いやよ、ならないわ」
「……でも、ローレンスと結ばれたいんでしょう?」
「それはそうよ。私、あの人が好きだわ」
「養子にもならない?」
「そんなの知らないわ。だって家族まで皆、すごく祝福してくるのよ。ローレンスは相変わらずニコニコしていて、不気味よ。私は……私は家族が好きなのよ、それをどうして、繋がりを排除して、王妃なんてものにならなきゃいけないのよ」

 彼女は筋の通らない主張をしつつ、私に視線を向ける。その目には魔力の光が灯っていて、相当に動揺している事がわかった。




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