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タイムリミットが迫ってる……らしい。8

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 魔法を使わない約束だったのに、素早い斬撃が飛んで来る。意識を集中していなかったからか、真正面から受けてしまい、じんと手が痛む。

「どうした?……真剣での練習中に考え事か、余裕だな」
「っ、はっ、そんなわけっ、つっ」
「無いなら集中しろ、怪我をするぞ」

 次から次に攻撃を与えられて、対応する手がどんどんと追いつかなくなっていく。腕が重く痛くても、剣だけは離さずに何とか握る。

「っ、ふっ、はっ……ぐっ」
「動きが鈍いな、そろそろ限界か?」

 大きく振りかぶったサディアスの大剣を後ろに飛び退いて避けつつ、何とか距離を取れた、と考えた時には、彼はもう既にすぐそばまで来ている。

「っ、」

 迫る真剣の怖さから、必死に呼吸をして酸素を体に回す、歯を食いしばって、このままでは駄目だと、サディアスの懐に飛び込む。

 浅くても攻撃をしようと考えての行動だったのだが、私のそんな安直な考えは、読まれていたようで、私に合わせるように彼は後ろへ数歩下がって、それに驚いた私に蹴りを食らわせ、鈍い痛みに、思い切り空気を吐いて崩れ落ちる。

 ……これだからサディアスとの手合わせは嫌なんだよ!

「っ、げほっ、はぁっ、はっ、っ、うっ」

 もう動いていないと言うのに、呼吸の苦しさが戻らない、というか無理にでも動いていた時よりも苦しいぐらいだ。

「反撃するのなら、好機を待つべきだな。闇雲に打ち込んでも痛い目を見る」
「っ、う、うん。わかってる、けど、はぁっ」
「追い詰められて後がなかったんだろ? 俺が言っているのは、もう少し早い段階で、反撃しろというのがまずは大前提だ。君は、隙を見つけたと思ったらすぐにでも行動に移した方がいい。ただでさえ体力が無いんだ、防御に徹したら勝ち目がない事はわかってるだろ」
「は、はい。わかったっ、……わかったから!」
「いいや、分かってないな。そもそも、集中していなかっただろう、君。でなければ、怪我をさせることもしなかったが、どうやら気が散っているようだから、少し灸を据えただけだ」

 言われることは全部その通りで、まったくぐうの音も出ないのだが、本当にお腹が痛い。

 そして疲れからか手がプルプルと震えてきて、四つん這いの体勢も保てそうになかった。

「それに君、最後に剣を手放しただろ、どんな時でもこれを手放せば終わりだ。たとえ攻撃を食らおうとも、放り出すような事はするべきじゃない常識だろう?」

 繰り出される正論に、とうとう私は、地面に突っ伏すような形で、転がり、冷たい芝生に体を預けた。ここが練習場でなくて良かった。土だと制服が汚れてしまうが、練習場となりの広場の芝生なので冷たいだけだ。

 ……サディアス~、わかったよ。わかっているから、確かに集中できなかった私も悪いけどもうやめて!

 それにあんな事があったら誰でも、考え込むぐらいはすると思うのだ。

 先日、測定の日にもあったことと似たようなものなのだが、今日はコーディと授業中に目があっただけで、彼は泣き出し発狂し、いつもみたいにもう嫌だ、貴方のせいだと言い始めたのだ。

 慣れたコーディのチームメイト達は、彼を手際よく気絶させて、去っていったのだが、今月に入ってもう三回目だ。こうなってくると、いつ狙われるかと正直、気が気じゃない。でも、団体戦も近い、練習を頑張らないといけないのはわかっている。
 
 自分の中の相反する気持ちがせめぎあい、荒い呼吸を繰り返す。

「だらしないな。地面で寝るな。今度は魔法ありでの試合をやるからさっさと━━━━
「サディアス!ダメですよ!クレアは頑張りました!今日はもうおしまいですっ!」
「……チェルシー、俺は別にクレアを虐めてるわけじゃないんだぞ」
「いいえ、サディアス、貴方がいじめだと思っていなくとも、クレアがそう思っていたら虐めです。ダメ出しはあとでもできます。今は回復させてあげなければ、クレア、魔法を使いましょう?」

 そう言って、シンシアは私の前に魔法玉を差し出してくれる。助かったという気持ちで彼女の魔法玉に私のを触れ合わせて魔力を吸い取る。

「あ、ありがとぉ」

 私はもう、サディアスのスパルタっぷりに泣き出しそうだったのだが、シンシアとチェルシーの優しさに別の意味で泣きそうだった。

 いつもは、私の相手をするのはシンシアかヴィンスなのだが、たまにこうしてサディアスと試合をすると、だいたいこうだ。

 ずっしり痛むお腹を抑えつつ、魔力を込めて回復する。

 ……確かにサディアスは強いし、アドバイスも的確なんだが、心にくることをグサグサ言うし、全力を出さないとこうして痛い目に遭わされるんだ。

 シンシアとヴィンスは、私のペースを見て稽古をつけてくれるのだが、サディアスにはそれも無い。多分、分からないというわけでは無く敢えて無視されていると思う。

「シンシアまで……あのな、もう団体戦が近いんだ、根をつめていかないと困るのは━━━━
「クレアだと言うんでしょ! サディアス! それでも頑張るのと無理をするのは別物です! ヴィンスも、黙って見ていては駄目ですよ! 私は貴方にも怒っているんですから!」
「はい、申し訳ありません」

 ヴィンスは絶対に申し訳なく思っていないニコニコとした表情のまま、謝罪をする。ヴィンスは私のSOSを聞くのが好きなので次からも、私が助けてと言うまでは、助けてくれないだろう。

「クレアは安静にしていてくださいね。私達は武器を片付けて来ますから、ヴィンス、一緒に来てくださいますか?」
「ええ、構いません。シンシア様」
「では行ってきます」
「ご、ごめんねぇ」
「ふふっ、大丈夫ですよ」

 シンシアはヴィンスと剣をまとめて、練習場の方へと歩いていく。昔はヴィンスのまったく主体性がない行動に怒っていたシンシアだが、今では体よく使うし、なんならヴィンスは大体のことを断らないのだ、それに気がついてからは上手くやっていると思う。

 ……それに比べて私は……。

 入学当初から、サディアスには勝てもしないし、攻撃のひとつだって当てられない。そして今は地面に転がっている。実に無様だった。

「クレア、大丈夫ですかっ?」
「ん、平気」
「大事ないようでよかったです! サディアスもきちんと手加減したんですね」
「うん、それは……そうね」

 多分本気で蹴られていたら、嘔吐していたと思うし、サディアスは本当に焦ってこういう態度をとっているのではなく、とろうしてやっているのだから、冷静なことには冷静なのだ。

 回復してきたところで起き上がる。するとサディアスは少しだけばつが悪そうに、自分の剣を見るような仕草で私から目を逸らした。

「サディアス、明日は私の相手をしてくださいね! 貴方のアドバイスはいつも的確でためになりますからっ」

 チェルシーも同じく彼の心情には気がついているようで、先程とは打って変わってサディアスへ笑顔を向けた。そうするとサディアスは、眉を困らせたまま同じく笑顔を浮かべた。

「わかった、明日な」
「ええ!」
「……クレア、そろそろ起きれるか?」

 そばに来たサディアスに手を差し伸べられて、お礼を言ってその手をとる。冬の日は短く、もう既に日が落ちかけていた。

 ……放課後の練習時間もどんどん短くなるね。……集中できないような事があっても、頑張らなくちゃ。

 目に染みる夕焼けを眺めつつ、私は他にもある、たくさんのやらなければならない事に思考を巡らせて、昼間の出来事への不安をかき消した。




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