大人になったオフェーリア。

ぽんぽこ狸

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3 お見合い

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 一ヶ月を過ぎたが、オフェーリアは初めての挫折から立ち直ることはなく、両親はその様子を見て、今度はたくさんお見合いの予定をいれた。

 彼らにどういうつもりなのかと問いかけると、男でついた傷は男で癒すことが出来るらしい。

 彼らは、オフェーリアが婚約者が浮気をしていて、妊娠までさせたことについて傷ついていると思っているらしい。

 しかしそちらではないとは言いづらく、仕方がないのでお見合いをして日々を過ごす。

 何にせよ、父と母は、非常にワイルドである。

 おおざっぱというか豪胆というか、だからこそ、オフェーリアがやりたいことをやらせてくれるという良い点もあるがいかんせん、繊細さに欠ける。

 それにどの人も、あんなふうに別れる可能性があるのだったらオフェーリアはもう二度と婚約もしたくないし結婚もしたくない、そう思っていた矢先だった。

「ベアルツィット侯爵家のヴァレントだ。以前は、王族の護衛任務についていた」

 そう短く告げた彼は、とても気難しい顔をしていて凛々しく、まさに堅物というような言葉がよく似合う人だった。

 向かい合って椅子に腰かけているのに、座っている時点でも身長差がわかりやすくついていて、少し目線を上に向ける必要がある。

 それに何より、彼は多分一回りぐらいは年上だろう。こんなに年上の男性など何を考えているのかわからない。

「オフェーリアですのよ。自己紹介なんていらないのではなくて? どうせ知っているんでしょう」
「知っているとは、何の話だ」
「ですから、姫殿下のスキャンダルに巻き込まれて大損害を出した阿呆とはわたくしのことですの」

 短く問いかけてきたヴァレントに対して、オフェーリアは子供じみた声で適当に言う。

 一ヶ月もたてばベアトリーチェの妊娠とそれを取り巻く事項がどのように処理されたかは明るみに出た。

 ジラルドの婚約者であったオフェーリアは、こうしてお見合いをしていると何度も不憫な目に遭ったのだね、とたくさんの男に言われた。

 しかし、オフェーリアはそんなふうに慰めて欲しいわけではない。

 むしろそういうふうに慰めようという態度を取られると、プライドが傷ついて仕方がない。

 なので多くの場合、その話題を出されて苛立ち、ペラペラと自分がいかに怒っているのかをまくしたてたすると大抵相手の方から、お断りをされるのがいつもの流れだ。

「……ああ、そうか。なんだか申し訳ないような気になるな。……あの子は何というか自己中心的過ぎるんだ」

 ……あの子?

 けれどもいつもの様子とは違って、ヴァレントは少しバツが悪そうにオフェーリアから視線を外してベアトリーチェのことをそんなふうに形容した。
  
 それに申し訳ないだなんて言うのはおかしいだろう、彼はベアトリーチェと何の関係もないのだから。

 そう考えてから、彼が王族の護衛についていたという先ほどの言葉を想いだして、合点がいく。

「まさか、あなた……ベアトリーチェ姫殿下に仕えていたんですの?」
「……一応。まぁ、その騒動がある前に実家を継ぐために護衛任務から外れていたが、そう言うことになる」

 お見合いという状況だからか、すんなりと前職を明かしてくれる彼が急にキラキラと輝いて見える。

 興味がない時には、まったくもって彼の良い部分など見つけられなかったが、その大きな体も、持っているティーカップが小さく見える様な手のひらも、派手ではないがそれなりに整っている容姿も素晴らしいものだと思う。

 特に、お堅く気難しそうなその鋭い眼光は、何より誠実そうにも見える。

 そして彼を目の前にしてオフェーリアはここ最近怠けていた頭をぐるりと回転させて、一度小さく息を吸ってから、少し言葉を選んで慎重に、しかし気さくな笑みを浮かべて聞いた。

「それなら、よくベアトリーチェ姫殿下のことを知ってらっしゃるんでしょうね」
「それほどでもない。現に今回の懐妊からの降嫁される話にも驚いた。多くの人間に迷惑をかけて、仕方のないお人だ」
「ええ、わたくしもそう思っていますわ、でも……そうね」

 あまり強い言葉を使ってベアトリーチェのことを言い表さないヴァレントのことを考えると、彼は彼女に情があるのではないかと考えられる。

 それならば、敵視しているふうに口にして警戒されるのは得策ではないのかもしれないと思考を巡らせた。


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