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4 ひらめき
しおりを挟む敵視しているふうに口にして警戒されるのは得策ではないのかもしれないと考えてオフェーリアは言った。
「あの方は、わたくしにも真摯に話をして、自分の真実の愛をとても信じている様子だった。その純粋な気持ちだけは、素晴らしいものだと思ったんですのよ」
「…………なるほど」
純粋にあそこまでねじ曲がった理論で他人を批判できるいうこと、それはすごいことだ。何も嘘は言っていない。
しかしヴァレントは明らかに、さらにバツが悪そうな様子になって重苦しくオフェーリアの言葉を肯定した。
「あら、なんだかはっきりとしない返事ですわね。もしかして、わたくしの言ったことが何か間違えていました?」
「いや、君から見てそうだったのならば、それを否定するつもりはない」
「では、ヴァレント様は、そうではないと思うということですの? 彼女は好ましい人間ではない?」
「そうじゃない。それに今は降嫁されたといっても、王族を悪く言う言葉をそう簡単に口に出すべきじゃないだろう」
この応接室には二人しかおらず誰も聞いていないというのに、はぐらかしてはっきりとは言わないその様子は、如何にも何かを知っていそうで、オフェーリアはドキドキした。
もちろん、彼女のことを心の奥底では嫌っていて、あんなことをして降嫁されたことを腹立たしく思っているだけかもしれない。
けれども何かあるとオフェーリアは察知した。
情があるふうなのに、オフェーリアの誉め言葉には同意しない、煮え切らないような態度に、複雑な感情を覚えているからこういうふうなのではないかという考えを助長させる。
そう、例えば護衛に付いていた時に、ベアトリーチェの……民衆に知られていないスキャンダルを知ってしまっているとか。だからオフェーリアの言葉に同意も否定もできない……とか。
ただ高貴な身分の人間に仕えている使用人は、もちろん主の秘密をたくさん知る機会がある。
だからこそ仕事をやめたからと言って、それを簡単に口外するのは裏切りに値する行為だ、めったなことがなければ口にしないだろう。
「そうでしたわ……あなたのことを知りたいからと言って、あまりに性急に問いかけてしまいましたわ」
ならば、どうにかして口を割らせて、彼女に正当な復讐をするのはどうだろうか。
男を介して台無しにされたオフェーリアの復讐としてはピッタリではなかろうか。
このベアトリーチェのそばにいた男をオフェーリアが懐柔して情報を吐き出させて彼女を追い詰める。
……これでこそ、男でつけられた傷を男で癒すというもの!
「まずは趣味あたりからお聞きしたいですわ。ヴァレント様。たくさん、あなたのことを知って、わたくし、あなたに気に入られたい」
「……随分ダイレクトに、そういうことを言うんだな。最近の若い子はそう言うふうに積極的になるのが流行っているのか?」
「ええ! ええ! それはもう、気に入った人は逃さないように自らどんどん行きなさいと両親にも教えられました」
……結婚相手でも利用する相手でも、自分の望むことをかなえるためになんでもしていいと教えられましたの!
オフェーリアはたっぷりの笑みを浮かべて、ヴァレントに言う。
「ですから、ぜひわたくしと婚約してくださいませ。ヴァレント様、損だけはさせませんと誓いますわよ」
「…………なんだか君は、やり手の商人みたいだな」
「あら嬉しい、褒めてくださるだなんて」
彼は、鋭くオフェーリアの何かを察知した様子でそんなふうに言う。当たり前だろう、突然態度を変えたのだから。
だが多少警戒されたようだがそんなことはどうでもよかった。
自分に惚れてもらえばいいなんてそんなのは簡単なことだろう。
商談と同じだ。相手が求めていることを知って、自分がどういう形でそれを提供できるかを考える。
それからオフェーリアがそれを一番良い形で渡せることをプレゼンすればいい。そうすればおのずと人はついてくる。
だからこそオフェーリアには自信があった。
もちろん言った通り損なんてさせない、そんなへまはしない。騙すように利害関係を構築したとしても再現性がなければ意味がないのだ。
努力して手に入れるからには、長期的に見てたくさんの利益を生んでもらう方が都合がいい。
彼の場合も同じで、欲しいのは情報だとしても、それ以外にも価値あるものがあるはずだ。
だからこそ正攻法で手に入れて、愛し合って然るべき、そしてオフェーリアは復讐を果たすのだ。
……最高の案です。これが成せれば、後は今回のことで知った教訓を生かして次の計画に移ることができますわ。
次の計画は何をするかなど決まっていない、しかしオフェーリアは計画を立てるのが大好きで、そうして課題を出しては次から次に新しいことをやっていきたい。
一ヶ月の長い休暇は終わりを迎えて、今の対象にぎらついた瞳を向けて頭の中で次々に彼を落す案をいくつも考えたのだった。
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