大人になったオフェーリア。

ぽんぽこ狸

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5 プレゼント

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 作戦その一、プレゼント!

 最終的にはヴァレントの方からオフェーリアのことを望んでもらう必要があるが、それは最終段階として、そもそもの友好的な関係の構築も大切なことだろう。

 ということで、オフェーリアは先日会ったばかりの彼のことを考えて、どんなものをプレゼントをもらって喜ぶのかと思考を巡らせてみる。

 すでに調べをつけるために使用人たちに指示を出し、父や母にはそれはもう深い深い恋に落ちたのだとヴァレントのことを伝えてある。

 これで本腰を入れて彼との交流をすることができる。

 ……それにしてもプレゼントとは古典的な手法ではあるけれど、距離を縮めるためにはもってこいですのよ。

 それに突然価値があるものを送られると、何かを返さなければならないという衝動に多くの人間は駆られるものですわ。

 つまり、わたくしのお願いを聞きたいという気持ちになるも同然。
 
 もちろんそこで、プレゼントよりも価値のあるものを要求するのはナンセンス、しかし例えば、そこでデートに誘うのなんてどうだろうか。

 彼とともに過ごす時間を如何にもオフェーリアが価値に感じていて、純粋無垢な愛情を持っていると思われること間違いなしだ。

 しかしそれを要求するにはまず、彼が価値があると思うような代物を贈る必要があるだろう。

 貰ったものに価値を感じなければ、お返しをしたいという気持ちにさせることは難しい。

 ……だからこそ、自分の望む反応の為にもプレゼント選びというのはセンスを問われるんですの……。

 ここは、手堅く稀少性の高い食べ物や宝石にしておくべきか……将又、彼の好みに合わせてわたくしがどれほどヴァレントに想いを抱いているかを示すか……。

 オフェーリアは難しい顔をして必死に悩んだ。

 その様子にオフェーリアの侍女たちは、彼女がやっと本調子にもどったと少し微笑ましく思いながらもニコニコしながら支えたのだった。




「これは……煙草だな」
「はいっ、煙草ですの」
「それにしてもまたどうしてこれを、俺に?」

 彼は首をかしげてそう問いかけてくる。前回のお見合いの時同様に今日も彼の邸宅にお邪魔し、今回はガゼボでお茶をしていた。

 ああして突然告白したオフェーリアに、ヴァレントは特に拒絶することはなく、こうして次の面会の機会を得られた。

 しかし、今こうして婚活をしていて、良い雰囲気になっている女はオフェーリアだけではないだろう、ならばとオフェーリアは考えた。

 彼のことを誰よりも好きだと思ってもらえるような踏み込んだ贈り物にしてほかの女性に差をつけるべきだ。

 そこで考えたのが煙草だ。

 前回会った時に、随分と大人な人だと思ったのは、香水の香りに混じって少々、煙草の匂いがしたからだ。

 それに上級貴族たちはこういう嗜好品を好んでたしなんでいるものだ。

 贈り物としても一般的であるが、成人男性にお菓子なんかを渡すよりはずっと彼のことを考えていることが伝わる贈り物のはずだろう。

「前回、お会いした時に、微かに煙草の香りがしたので、ヴァレント様やその近しい方にお好きな方がいらしゃるのかと思ったのですわ」

 もちろん本人が吸わない場合でも問題はない。

 お見合いの前にあっている人間など、家族以外にいるはずがない、彼の両親に気に入られたらおのずと彼も気を許してくれるはずだ。

「その方に渡していただいてもよろしいですし、何よりこの煙草はもっとも栽培に適していると言われている南方の地で作られ、特殊な技法で巻かれている一級品です。市場には出回らず、一部の貴族しか買うことができない優れモノですからぜひ一度試していただきたいのです」

 ……まぁ、そんな代物をすぐに持参で来たのは父の愛用だからなのですけれど。

 そんなことは口にせずにあたかも今日の為に頑張って手に入れたというような顔をする。

 もちろんこんなものぐらい余裕で手に入れられることができるのだと示して、オフェーリアを手に入れたいと望んでくれるのならそれでいいが、そう簡単なアピールだけでうまくはいかないだろう。

 なににせよ、彼がどういう反応をするかによって、方向性を変えようとその反応を違和感がない程度に見つめる。

 すると彼は、一つ手に取ってそれから、しばらく見つめた後に少し気まずそうにこちらを見た。

 ……あれ、何か間違えたんでしょうか。

「……実はあの時、急用があって一度、騎士団の詰め所の方へと行っていたんだ。その時に匂いがついたんだろう、俺は基本的に煙草は吸わない」

 言いつつ、箱に戻してどうしたものかと視線を彷徨わせる。

 ヴァレントのその様子を見ると、家族にもそういう人間がいないのだと推察できる。

 その予想外の事実に、オフェーリアは一瞬固まって、背後にピシャンと雷が落ちたような衝撃を受けていた。



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