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しおりを挟むマンションに戻り、部屋の鍵を開けて中に入ろうとすると、鍵が閉まっている。
……セージ、まだ起きてんのか?
いつもなら、もう眠っている時間のはずだ。鍵が閉まっている前提で、開けたのだが逆に閉めてしまったらしい。もう一度、鍵をさして回してから、玄関扉を開く。
靴を脱いで、リビングに入ると灯りはまだ点いていて、ボクが部屋を出た時同様に地上波のテレビが流れている。内容は深夜のディープな番組で、セージはそれを見もせずに、よく自室のデスクで弄っているノートパソコンをローテーブルに置いて姿勢を悪くしながら、何かを打ち込んでいた。
「……ただいま」
「!」
ボクが帰ってきた音に気が付いていなかったようで、声をかけると、すぐに体を起こして、ボクの方に振り替える。
耳にしていたイヤホンを外して、すぐに立ち上がりこちらに来る。
「おかえり、ユキ」
心底優しい声で言う。けれど、セージはすぐにボクから視線を逸らして「たまにはリビングで仕事をするのもいいと思ってね」なんて言い訳をしながら、ソファーの方に戻っていく。
ボクは別にここで仕事をしていることには文句もない。というか、セージの家なのだ、好きにしたらいいだろうと思うが、ボクからすぐに彼が視線をそらした理由はそれだけじゃないだろう。
きっと今、ボクの顔は赤いだろうし、それに、今更、気が付いたのだが、髪だって三つ編みから一つにくくり直した状態に変わっている。
気になって、けれども、聞かないように、セージはボクから視線を外した。何か後ろめたい事があるわけでもないのに、そんな、あからさまな不倫を見て見ぬふりをする人妻みたいな反応をされると、無性に寂しくなってくる。
……聞けよ。聞けばなんでも答える。リクに内緒だと言われているが知ったことか、セージよりも義理立てしなければならない間柄ではないのだ。
「今日は仕事が立て込んでてね。俺はしばらく仕事してるけど、ユキは気にしないでね」
穏やかな声音。けれども、壁がある。その事が、もどかしくて急に寂しくなって、ソファーに座っているセージのセットしてない柔らかい髪に触れる。
彼からはこの家で使われているボディーソープの香りがして、この匂いが今は一番落ち着くなんて思うのだ。
「……ユキ、どうかした?」
不用意にセージの髪に触れるボクに彼は怒らない。それどころか、ボクを酷く心配しているかのように、問いかけてくる。
その瞬間にボクは、やっぱりあの場所にはボクの居場所は無くていいと思った。
ボクの好きになる男は、セージだけでいい。アライだってカキハラだって、良い男だった。きっと抱かれるぐらいなら、支障はないだろう。けれども、彼らの付けている香水の匂いに落ち着いたりしない。
大人っぽくってかっこいいあの店の雰囲気に、高揚はしても自分の好きな場所には出来ない。
そして、やっぱり少し、怖かったのだ。知らない世界というのはあまりに、今までの自分とかけ離れすぎていて。
「んーん。なんでもない。……なぁ、セージ、酒のも、ボクが好きなのだして」
「……、…………あはは、いいよ。ユキのお願いだからね」
仕事が立て込んでいるといったのは、はたして本当だったのか嘘だったのか、それは別に重要じゃない。
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