ゴミ捨て場で男に拾われた話。

ぽんぽこ狸

文字の大きさ
55 / 75

56

しおりを挟む





 マンションに戻り、部屋の鍵を開けて中に入ろうとすると、鍵が閉まっている。

 ……セージ、まだ起きてんのか?

 いつもなら、もう眠っている時間のはずだ。鍵が閉まっている前提で、開けたのだが逆に閉めてしまったらしい。もう一度、鍵をさして回してから、玄関扉を開く。

 靴を脱いで、リビングに入ると灯りはまだ点いていて、ボクが部屋を出た時同様に地上波のテレビが流れている。内容は深夜のディープな番組で、セージはそれを見もせずに、よく自室のデスクで弄っているノートパソコンをローテーブルに置いて姿勢を悪くしながら、何かを打ち込んでいた。

「……ただいま」
「!」

 ボクが帰ってきた音に気が付いていなかったようで、声をかけると、すぐに体を起こして、ボクの方に振り替える。

 耳にしていたイヤホンを外して、すぐに立ち上がりこちらに来る。

「おかえり、ユキ」

 心底優しい声で言う。けれど、セージはすぐにボクから視線を逸らして「たまにはリビングで仕事をするのもいいと思ってね」なんて言い訳をしながら、ソファーの方に戻っていく。

 ボクは別にここで仕事をしていることには文句もない。というか、セージの家なのだ、好きにしたらいいだろうと思うが、ボクからすぐに彼が視線をそらした理由はそれだけじゃないだろう。

 きっと今、ボクの顔は赤いだろうし、それに、今更、気が付いたのだが、髪だって三つ編みから一つにくくり直した状態に変わっている。

 気になって、けれども、聞かないように、セージはボクから視線を外した。何か後ろめたい事があるわけでもないのに、そんな、あからさまな不倫を見て見ぬふりをする人妻みたいな反応をされると、無性に寂しくなってくる。

 ……聞けよ。聞けばなんでも答える。リクに内緒だと言われているが知ったことか、セージよりも義理立てしなければならない間柄ではないのだ。

「今日は仕事が立て込んでてね。俺はしばらく仕事してるけど、ユキは気にしないでね」

 穏やかな声音。けれども、壁がある。その事が、もどかしくて急に寂しくなって、ソファーに座っているセージのセットしてない柔らかい髪に触れる。

 彼からはこの家で使われているボディーソープの香りがして、この匂いが今は一番落ち着くなんて思うのだ。

「……ユキ、どうかした?」

 不用意にセージの髪に触れるボクに彼は怒らない。それどころか、ボクを酷く心配しているかのように、問いかけてくる。

 その瞬間にボクは、やっぱりあの場所にはボクの居場所は無くていいと思った。

 ボクの好きになる男は、セージだけでいい。アライだってカキハラだって、良い男だった。きっと抱かれるぐらいなら、支障はないだろう。けれども、彼らの付けている香水の匂いに落ち着いたりしない。

 大人っぽくってかっこいいあの店の雰囲気に、高揚はしても自分の好きな場所には出来ない。

 そして、やっぱり少し、怖かったのだ。知らない世界というのはあまりに、今までの自分とかけ離れすぎていて。

「んーん。なんでもない。……なぁ、セージ、酒のも、ボクが好きなのだして」
「……、…………あはは、いいよ。ユキのお願いだからね」

 仕事が立て込んでいるといったのは、はたして本当だったのか嘘だったのか、それは別に重要じゃない。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やけ酒して友人のイケメンに食われたら、付き合うことになった

ふき
BL
やけ酒の勢いで友人に抱かれた榛名は、友人の隠された想いに気付いてしまう。 「お前、いつから俺のこと好きなの?」 一夜をなかったことにしようとする瑞生と、気付いたからには逃げない榛名。 二人の関係が、少しずつ変わっていく。 瑞生(ミズキ)×榛名(ハルナ)

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

契約満了につき

makase
BL
仮初めの恋人として契約を結んだ二人の、最後の夜。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

処理中です...