65 / 75
66
お店に入ると、この前に座ったのと同じカウンターの席にリクはいて、こちらに向かって手を振る。
彼の前には、これまた前回と同じバーテンダーの……確かフジナミさんという人が「いらっしゃいませ。乎雪さん」と声をかけてくる。軽く会釈をして、リクの隣に座るとお水やおしぼりが出された。
「遅かったじゃん」
「……悪い。セージが、寂しそうにしてたから」
ボクがまた遊びに行ってくると伝えると、彼はまた流しっぱなしにしている地上波のテレビを見ているふりをしながら、とにかく気をつけてという趣旨の事を沢山言ってきたので、時間を食ってしまったのだ。
ミノルに絵を納品するときには、大体彼は仕事に行っていて居ないので、困っていなかったのだかが、今度からは、セージがいる時間に家を出るときには、時間に余裕をもって支度をしなければならないだろう。
「へぇ~?なんだ、随分化けの皮がはがれてきてんじゃん」
リクは得意げに、酒を飲みながらそう言う。
「乎雪さんドリンクはいかがなさいますか?」
「あ、……カルーアミルクで」
「かしこまりました」
フジナミさんは手早くボクのカクテルを作りにかかる。今日はボクら以外にはお客はいなくて、こうして閑散としていることもあるのだなと思う。
「そういえば君、前回の人は好みじゃなかったの?よく考えたら、清司と今のままうまくやるより、さっさと乗り換えた方が楽だよ~」
「……乗り換えるなぁ」
「そうそう。ね、君モテるんだしそうしなよ」
リクは、ボクの方を見ているようなふりをしながら、ボクよりすこし奥側でカクテルを作っているフジナミさんの方を流し目で見ながらいう。
多分、ボクとの会話はカモフラージュというか、あんまり真剣に言っているわけではないのだと思う。そう思うと、そんなことできるかと過剰に反応するのも馬鹿らしい気がしてこちらも適当に「でも、ボク、セージが好きだしな。無理だ」と言ってみる。
前回、同じテーブルで、好きな人がいるという話をしていたのだが、リクもアプローチを受けていたので、聞いていなかったのだろう。
「ふ~ん…………え?今なんて言った?」
「だから、ボクはセージが好きだって、出来るなら恋人になりたい」
「え、え?……ええ?なんで?」
「良い男だろ、あいつ」
「い、いつから」
「リクと会う前から」
そう言うとリクは、目を見開いて黙る。それから、頭を抱えるようにしてカウンターで小さくなった。
……まあ、ペットだって言ったあたりから勘違いされているのだろうとは思っていたけどな。
そんなに驚くことだろうか。
そんなところにフジナミさんがボクの酒をもって、戻ってくる。そして、硬直してしまったリクに目線をやって、ボクに柔和な笑みを浮かべながら問いかける。
「どうかされたんですか?」
「ん?……いや、ボクが好きな人いるって話したらこうなって」
「ああ、そうだったんですね。お相手はどんな方なんですか」
「……こいつの元彼」
「へえ、それはまた、面白い関係ですね。以前いらしたときには、フリーでしたよね何か素敵な出会いでもあったんですか?」
前回来た時も、セージの事は好きだったのだが、そこを訂正しても仕方がない。しかし、出会いの話なんて、たいして面白くもないだろうと思うのだが、ここでボクが黙ってしまってはフジナミさんも退屈してしまうだろう。
ボクがセージに惚れた過程など特にドラマもないのだが、一応簡潔に行ってみる。
「宿無しだったボクをそいつが拾ってくれてな。そこから、なし崩し的に関係もって、セフレみたいな、ヒモみたいな関係になって、そんな状況でもずっと優しいから、出来ればそいつの恋人になりたいんだけど……今のままでも悪くはないっていうか……うまく言えね」
自分の心情も状況もわかりやすく説明したかったのだが、どうにもうまく言えない。けれど本当にそんな感じなのだ。今が嫌ということもない、けれどもごく稀にボクらの関係について、疑問に思うことがある。
これでは、ミノルに言われた通り寄生しているのと何もかわらない。正しい関係ではないのだ。それが喉の奥に引っかかっている。
あなたにおすすめの小説
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
隣に住む先輩の愛が重いです。
陽七 葵
BL
主人公である桐原 智(きりはら さとし)十八歳は、平凡でありながらも大学生活を謳歌しようと意気込んでいた。
しかし、入学して間もなく、智が住んでいるアパートの部屋が雨漏りで水浸しに……。修繕工事に約一ヶ月。その間は、部屋を使えないときた。
途方に暮れていた智に声をかけてきたのは、隣に住む大学の先輩。三笠 琥太郎(みかさ こたろう)二十歳だ。容姿端麗な琥太郎は、大学ではアイドル的存在。特技は料理。それはもう抜群に美味い。しかし、そんな琥太郎には欠点が!
まさかの片付け苦手男子だった。誘われた部屋の中はゴミ屋敷。部屋を提供する代わりに片付けを頼まれる。智は嫌々ながらも、貧乏大学生には他に選択肢はない。致し方なく了承することになった。
しかし、琥太郎の真の目的は“片付け”ではなかった。
そんなことも知らない智は、琥太郎の言動や行動に翻弄される日々を過ごすことに——。
隣人から始まる恋物語。どうぞ宜しくお願いします!!
地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛
中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。
誰の心にも触れたくない。
無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。
その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。
明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、
偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。
無機質な顔の奥に隠れていたのは、
誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。
気づいてしまったから、もう目を逸らせない。
知りたくなったから、もう引き返せない。
すれ違いと無関心、
優しさと孤独、
微かな笑顔と、隠された心。
これは、
触れれば壊れそうな彼に、
それでも手を伸ばしてしまった、
不器用な男たちの恋のはなし。
【完結】ネクラ実況者、人気配信者に狙われる
ちょんす
BL
自分の居場所がほしくて始めたゲーム実況。けれど、現実は甘くない。再生数は伸びず、コメントもほとんどつかない。いつしか実況は、夢を叶える手段ではなく、自分の無価値さを突きつける“鏡”のようになっていた。
そんなある日、届いた一通のDM。送信者の名前は、俺が心から尊敬している大人気実況者「桐山キリト」。まさかと思いながらも、なりすましだと決めつけて無視しようとした。……でも、その相手は、本物だった。
「一緒にコラボ配信、しない?」
顔も知らない。会ったこともない。でも、画面の向こうから届いた言葉が、少しずつ、俺の心を変えていく。
これは、ネクラ実況者と人気配信者の、すれ違いとまっすぐな好意が交差する、ネット発ラブストーリー。
※プロットや構成をAIに相談しながら制作しています。執筆・仕上げはすべて自分で行っています。
入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?
monteri
BL
CM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。
そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。
主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。
※今回の表紙はAI生成です
※小説家になろうにも公開してます
どうせ全部、知ってるくせに。
楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】
親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。
飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。
※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。