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しおりを挟むお店に入ると、この前に座ったのと同じカウンターの席にリクはいて、こちらに向かって手を振る。
彼の前には、これまた前回と同じバーテンダーの……確かフジナミさんという人が「いらっしゃいませ。乎雪さん」と声をかけてくる。軽く会釈をして、リクの隣に座るとお水やおしぼりが出された。
「遅かったじゃん」
「……悪い。セージが、寂しそうにしてたから」
ボクがまた遊びに行ってくると伝えると、彼はまた流しっぱなしにしている地上波のテレビを見ているふりをしながら、とにかく気をつけてという趣旨の事を沢山言ってきたので、時間を食ってしまったのだ。
ミノルに絵を納品するときには、大体彼は仕事に行っていて居ないので、困っていなかったのだかが、今度からは、セージがいる時間に家を出るときには、時間に余裕をもって支度をしなければならないだろう。
「へぇ~?なんだ、随分化けの皮がはがれてきてんじゃん」
リクは得意げに、酒を飲みながらそう言う。
「乎雪さんドリンクはいかがなさいますか?」
「あ、……カルーアミルクで」
「かしこまりました」
フジナミさんは手早くボクのカクテルを作りにかかる。今日はボクら以外にはお客はいなくて、こうして閑散としていることもあるのだなと思う。
「そういえば君、前回の人は好みじゃなかったの?よく考えたら、清司と今のままうまくやるより、さっさと乗り換えた方が楽だよ~」
「……乗り換えるなぁ」
「そうそう。ね、君モテるんだしそうしなよ」
リクは、ボクの方を見ているようなふりをしながら、ボクよりすこし奥側でカクテルを作っているフジナミさんの方を流し目で見ながらいう。
多分、ボクとの会話はカモフラージュというか、あんまり真剣に言っているわけではないのだと思う。そう思うと、そんなことできるかと過剰に反応するのも馬鹿らしい気がしてこちらも適当に「でも、ボク、セージが好きだしな。無理だ」と言ってみる。
前回、同じテーブルで、好きな人がいるという話をしていたのだが、リクもアプローチを受けていたので、聞いていなかったのだろう。
「ふ~ん…………え?今なんて言った?」
「だから、ボクはセージが好きだって、出来るなら恋人になりたい」
「え、え?……ええ?なんで?」
「良い男だろ、あいつ」
「い、いつから」
「リクと会う前から」
そう言うとリクは、目を見開いて黙る。それから、頭を抱えるようにしてカウンターで小さくなった。
……まあ、ペットだって言ったあたりから勘違いされているのだろうとは思っていたけどな。
そんなに驚くことだろうか。
そんなところにフジナミさんがボクの酒をもって、戻ってくる。そして、硬直してしまったリクに目線をやって、ボクに柔和な笑みを浮かべながら問いかける。
「どうかされたんですか?」
「ん?……いや、ボクが好きな人いるって話したらこうなって」
「ああ、そうだったんですね。お相手はどんな方なんですか」
「……こいつの元彼」
「へえ、それはまた、面白い関係ですね。以前いらしたときには、フリーでしたよね何か素敵な出会いでもあったんですか?」
前回来た時も、セージの事は好きだったのだが、そこを訂正しても仕方がない。しかし、出会いの話なんて、たいして面白くもないだろうと思うのだが、ここでボクが黙ってしまってはフジナミさんも退屈してしまうだろう。
ボクがセージに惚れた過程など特にドラマもないのだが、一応簡潔に行ってみる。
「宿無しだったボクをそいつが拾ってくれてな。そこから、なし崩し的に関係もって、セフレみたいな、ヒモみたいな関係になって、そんな状況でもずっと優しいから、出来ればそいつの恋人になりたいんだけど……今のままでも悪くはないっていうか……うまく言えね」
自分の心情も状況もわかりやすく説明したかったのだが、どうにもうまく言えない。けれど本当にそんな感じなのだ。今が嫌ということもない、けれどもごく稀にボクらの関係について、疑問に思うことがある。
これでは、ミノルに言われた通り寄生しているのと何もかわらない。正しい関係ではないのだ。それが喉の奥に引っかかっている。
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