わがおろか ~我がままな女、愚かなおっさんに苦悩する~

かみやなおあき

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俺は分かっていた (アカイ49)

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 俺の嫁が可愛すぎる件について、というスレッドを立ち上げたり動画で流したいと俺は思った。

 誰かに聞かせてあげたい教えてあげたいが、でも誰にも見せたくないというアンビヴァレンツな気持ちが心地が良い! 目が覚めるとそこにはシノブがいた。女忍者のくノ一説明するまでもなく美少女。

 さっきの上着バージョンのも最高だが、それを脱いだのも最高過ぎる。上着がなくてもガチガチに着付けはされているのがいい。期待通り。そのしっかりしているのが神聖にして不可侵な印象を与えてくれる。

 見えないところを見ようとして望遠鏡を眺め込むのが男の子なら、見せないところを見ようとして目を凝らすのが男だとも言えよう。本人は隙を作らず肌を見せずいやらしさを出さないように頑張っているところが、最強にいやらしい!

 男の目を意識しているのだろうがそんなんじゃまだまだ甘い。その微かな隙間に男は無限の可能性を見出す生き物だ。というか隙間なんて無くていい。無い方が実はいい。あっても無論良い。この場合はない方が良いだけの話。

 結局見えないのかという安堵もまたスパイスのひとつ。探すという過程にだって無限の可能性がある。旅みたいなものだ。宝物がなくてもそれはそれでいいものだ。もちろんあった方が良い。女自身が知らない何かを探ることに男は至福さを覚える。

 こんなくノ一が俺の嫁になるなんて、異世界最高過ぎるやろ! このまま一日中見つめ続けたいけど、なんでシノブはずっと黙っているのだろ? ところでなんで俺は縄で木に身体をぐるぐる巻きにされているのだろ? もしかして磔刑に処されているのかな?

 まぁそんなの些事でどうでもいいこと。それよりもシノブだ! ここは特等席だ。普段ならなに見てんの? と冷たい言葉を贈ってくるはずなのに、さっきからなにか考え事をしている。こちらはその邪魔にならないように視線を合わせないようにしてきたが、目を見ないというのもやはり味気ない。シノブは瞳も、いい。

 宝石のようであってその瞳の輝きは内面を映している。意思の強さに清楚さ。美の極致といっても過言ではないそれ。一日中眺めていたいがシノブは睨んでくるだろうから出来はしない。

 特別な関係であるのなら見ることはできるのだろうな。恋人とか、俺以外の良い男であるのなら。だがしかしそうなるのはこの俺なのだ。そうでなければならないのだ。そうでなかったら俺は何のためにこの世界で苦労していることやら。徒労とかやめてくれよ。

 それは前世でいくらでもしたし人生そのものだったし。まぁ約束はしていないが状況証拠的というか、これまでの経緯的に考えて俺とシノブは結ばれることが決定している。大丈夫大丈夫いろいろあるだろうが大丈夫。だいたいこんな終盤の山場でどんでん返しな展開なんてないよ。

 これでヒロインが新しい男に走ったりしてみろ。世間が黙っていない、そこの石だって非難の言葉を叫ぶし、なによりも俺が黙っていない。この俺が厳重に抗議してこの世界を崩壊させても構わない。だって俺は救世主だもの。多少は弁えないといけないが俺はそこそこに救世主だろう、うん、だから大丈夫。

「アカイ、私達別れましょ」


 シノブの若干早口な言葉が聞こえた。はっきりと聞こえた。俺はよくありがちな難聴系な主人公が昔から嫌いだったが、初めて彼になりたいと思うと同時に彼の気持ちも分かった。嫌悪が理解となって俺と同化した。

 世の中には聞かなくていい言葉がいくらだってある。聞かないのもまた相手にとっての気配りである。特に今の言葉はその最たるものだろう。あーあー聞こえない聞こえないとすればいいし、ワカメ食べましょと力技で言葉をねじ伏せて誤魔化してもいい。

 それぐらいこの時の衝撃は耐えがたいものなのである。ああなんという清らかで強い意思を伝えて来る瞳の光だろう。粛清の輝きと言って良きもの。さっきまで見つめ続けたいと思ったが、もう無理。

 だから俺は視線を逸らした。ほら見えなくなったぞ! もしかしたらこうやって視線をずらしていればさっきのが無くなるかもしれない。うやむやになって失われ嘘になるかもしれない。消失するやも。そうだったら俺はどこまでも目を合わせずに生きていく!

 まるで神様の顔を避けて逃げようととするかのようにね。

 しかし両側頭部にシノブの手が当てられ俺の視線は元に戻された。やばい鯨に呑み込まれちゃったようだ。瞬く回数も減っているように見えるシノブの瞼及び変わらぬ輝きの瞳。

「聞き取れなかったようだからもう一度言うね。私達別れましょ」

 聞こえてるよと答えたかった。二回言わなくていいと言いたかった。だが俺は口を閉ざした。血の味がする。いつもの血の味が、この屈辱の味を呑み込みだした。

「私一人で行く。あなたはもう付いてこなくていい」

 俺は口を閉ざしたまま首を振るとシノブの表情が曇り歪んだ。よく見せて来るその表情。でも最近を減ったような気がしないでもなかった。

「あなたは必要ないの。いまさっき気絶していたから見ていないし分からないでしょうが、私は一人で戦えるほどに回復した。呪いが解けたかのように以前のように動けるの。あなたは一度だって私のそんな姿を見たことが無いから想像できないでしょうけど、私はねアカイ。とても強いの。誰よりもね」

 また俺は首を振った。何に対しての否定か自分でもわからずに振った。シノブが睨んで来た。背筋に恐怖が走るがそれでも俺は頷かない。ただ横に振る。俺は君を肯定しない。あくまで言うことを、聞かない。

「なにそれ? 私が弱いとでも。一人ではできないとでも? 俺といないと何も出来ないって? やめてよねそんな勘違い。そうだよそれは既に勘違いになったの。力を取り戻した私にはあなたはもう必要ないの。ほらまた首を振った。まっそうだよねアカイには私が必要だよね。でもそんなのはもう知らない。だって私にはアカイは……」

 小馬鹿にし見下していた口調と表情のシノブが急に黙った。シノブの瞳が俺を目を覗き込んで来た。遠慮なくまるで中に入ってくるようにしてシノブが来た。光だけが見えた。シノブの瞳の中の光が。それしか見えないそれ以外はなにもない。

 逆にシノブは俺の目の中を何を見ているのだろうか? 光はないはずだ。闇のみなはず。俺はいま暗闇の中に落ちようとしている。いや落ちている、だが落ちきっていない。

 落ちたくないという願望がまだ自己認識を遅らせている。まだ指一本でここに残っているという儚い感覚。突然難聴になれば、手で耳が塞げれば、俺は落ちなくて済み、死ななくて済むのに。何も聞こえない! 俺は自分に言い聞かせる。何度も何度も心の中で叫び、息が切れても繰り返し叫ぶ。しかし声は耳から入っては来ず、シノブの瞳の光から声が言葉が心に直接響き、叩き込んで来た。

「必要ないんだもの」

 内臓が収縮し急激に冷える感覚に俺は襲われた。いつものことだ、慣れている。こんなことはいつものことだ。今回のは少しだけ、こうなるのが遅かっただけ。

「もう一度確認しようか。あなたの私への感情についてだけど」

 何の言葉がくるのか把握はしている。分かっている。身体が心が既に察している。刃が来る。女が男に向けるいつもの刃物。それを両下腹部に突き刺し捻り抉り内臓を掻き回しにかかってきた。

「私はそれをずっと利用してここまで来たの。気付かなかったでしょうが、騙していたのよ」

 何を言っているのか? 気付いていたに決まっている。俺は弁えているんだ。はじめからそうだ。騙されてなんかいない。俺はお前を信用などしていなかった。

「私は意味不明な体調変化によって弱くなってしまい困っているところにあなたが現れてくれたの。突然現れ何故か私に好意全開にしてくれるあなたがね。私は思ったわ。これこそ天が遣わせてくれた存在。なんという都合のよい男の人が現れたのかってね」

 それをいうならこっちもそうだ。絶体絶命のピンチになっているミステリアスな美少女を助けて旅の同行をする、完璧な導入。なんという都合のよい少女が現れたのかってな。

「私はあなたにずっと伝えてこなかったことがある。それがなんだかはあなたは絶対に知りえないこと。もしかしたら兄から聞いているかもしれないけど、多分というか絶対にあなたは信じないであろうことが、あるの」

 そんなことは知っている。何度も聞いたあれのことなはず。君が好きなのは愛しているのは王子という存在。

「私は王妃になる人なの。王妃候補受験に合格し王妃になる予定だったのに陰謀によって破棄されてしまい追放。嘘みたいな話だけど本当のことなの。そしてこれによって分かるでしょうけど、私は王子を……愛している」

 シノブの掌が一瞬震えるのを感じた。だけどこれはシノブのか自分のか、分からない。俺は震えたはずだ。だから俺のものであるのかもしれない。それとも共に?

「私は王子を愛しているの」

 知っている、と俺はまた心臓が痛みと共に痙攣するのを感じた。本人から聞くのは身体に堪えるなと思いながら。

「私は忍者として王子の警護を務めていたの。はじめは子供らしい感情だったけど、自分に機会がある存在だと気づいてからはもうそのまま。だからもう分かったでしょ? 王妃となる私は陰謀により力を封印され遠くに追放されたの。そこであなたと出会い私はこのことを隠して旅を始めた。はじめからそうだったの。思わせぶりなそんなことを一言も話さずにあなたの感情を利用してここまで連れてきた。当然あなたの願望なんて叶える気は万にひとつになく、拒絶するつもりだった」

 どうしてシノブはこちらが分かり切っていることを得意気にベラベラと喋るのだろう。まるでこの世界の秘密を語るかのように、まるでこちらが何も知らないと思い込んでいるような。勘違いし過ぎだ。頭が悪いのだろうかこの女は。

「私はこういう女ってことよ」

 そうだお前はそういう女だ。俺は初めからそれを見抜いていた。ずっと前から知っている。出会った時から今に至るまでずっとずっとだから俺はお前のことなどはじめから……
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