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第一章 なぜ私であるのか
私の上着にお座りください
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昨日見た時よりも、というよりかは午前中にここを横切り見た時よりも庭が美しく見えるなとジーナには感じられた。
こんな陰気な曇り空の下であるのに木々は微かに輝きそよ風になびいている。もう晩秋だといっていいのにまるで新春のような雰囲気であり、このあまりにも不可解な自然現象のなかヘイムは言った。
「こう近くで見ると中々に良い。動機はともかくみんな頑張ってくれたようだな」
ヘイムも満足気にあたりを見渡しながら歩き出した。
「整地をして地面の凸凹を出来る限り均して歩きやすくなっております」
「妾のためにかありがたいことであるな。皆に感謝せねばなるまいて」
「……それはみなさんが喜ぶ言葉でしょうけれども」
「なにがいいたいのだ、うん?」
地面を杖で叩きヘイムが威嚇する。ここで黙るのも脅しに屈した態になりそうなのでジーナは敢えて歯向かうことにした。
「皆はヘイム様と私が歩くためにここを頑張って整地したのでは無くてですね」
「しつこいぞ。妾が喜んでいるのならちっとも問題なかろうに。だいたい妾が誰と歩こうがこっちの勝手だ。口出しは許さん」
「余計なことを口走るとこのように辛い目に会わされるわけですね」
「因果応報だ。そういう風にしているのだから辛いだろうに。どこが特に辛いのだ?」
「ですからあなたと一緒にいると辛くて苦しいですよ」
激怒され帰れと叫ばれたいとも思いつつ、これでも駄目なんだろうなとジーナはどこか諦めながら言うも、やはりそうだった。ヘイムは歪んだ笑みを向けてくるだけだった。
「妾だって嫌なんだから我慢せよ」
「だったらこんなことは」
「もうそういうのはいいから早う案内せい。いちいち済んだことをねちねちと蒸し返すから困るな。どこかのめんどくさい女か? そんな見た目で女々しいとか言われたくないだろうに」
逆だ逆。めんどくさいのはそっちだとジーナは言おうとするも予想されるあまりに無意味なやりとりが嫌なために返すのをやめ、憤懣を貯め込みながら歩き出した。
庭園には誰もいない、どうしてか二人だけの世界であった。
今ではもう何も言わずともだいたい歩調がそろうようになりゆっくりとだが、問題なく歩けるようになっていた。
「あれはなんであるか知っておるか? 知らぬだろうがあれはなミタンという木だ」
ヘイムは歩きながらいちいち草花の名の説明をしだしジーナは聞くも気が気で無かった。
こんなにのんびりと歩いて大丈夫なのか? 時間だとか人の目だとか、この人はどこまで気にしないのかと。本気で他人にこれを見せる気なのか?
「おい聞いておるのか?しっかりと覚えておくようにな」
「はい。覚えました」
覚える気もないジーナは生返事で返す。
「おおそうか感心だな。次回もう一度聞くからな」
その心境を見抜いたうえで返してきて驚き、もうひとつ驚く。次回とは……えっ次もあるの! と暗澹たる気分のままさっきの花の名をもう一度心の中で繰り返す。
ショックの大きさからか、それはすぐに覚えられた。可憐な暗黒の花の名としてジーナの心に哀れにも刻み込まれた。
庭の園道は凸凹であるどころか石すら落ちてなく却って不気味なぐらい整地されているなかで、そういえばそろそろ自分とハイネが整地していた箇所に入るなと思いそのことを口に出した。
「昨日私が整地した箇所がもう少しで入ります」
「おおそうか。それだと危険だな。用心して歩かなければな。山よりもでかい石が落ちているかもしれん」
「またそんなことを言って。そんなのあるわけがない。大丈夫ですよハイネさんがいましたし彼女がチェックをしていましたから」
そう言うとヘイムの歩調が急に緩みジーナだけが先に出た形となり、だからこう思った。
まぁそうか私が手に付けた箇所は信用できないのは……当然ではあるが。それでいい、正しい、と。でもあなたは間違えている。
「あの、大丈夫ですってハイネさんが」
「連呼せんでいい。あやつがやったことは知っておるわ」
じゃあなんでそんなに歩みを変える? まだ二人のあいだには距離ができたままであった。声も遠く、心も遠く。
「昨日は、楽しかったであろうな」
問われてジーナは思い出す。いや、苦しかった。ハイネさんはハイネさんで距離感が少しおかしかった気もする上に、忙しくて疲れたのでそれほどまでには楽しくは無かったがそれでは彼女に悪いのでジーナはそこは気を使った。
ヘイム以外には気を遣う、遣った気になる。
「まぁ楽しかったですよ」
「今日に比べたらさぞかし面白かろうて」
「比較する対象としては不適切ではないですか? だってこれはその罰ですし、楽しいとかよりも苦しいが先に来ますよ」
フフッとヘイムは鼻で笑う、が全く楽しくなさそうな笑い声だとジーナはどうしてか怯んだ。
だがそれは誰に対する笑いだったのだろう?私に対しての? それとも自分自身に対しての? 考えているとヘイムの歩みが元に戻った。
「ああ面白くはないであろうな」
どこか投げ遣りな言葉がヘイムから出て来るのを聞いたジーナはふと思った。
もしかしてこの人は、いやそうなのだろう、そうだ、そうに決まっている。
「あのお疲れでしょうか?」
それは意外な言葉なのかヘイムは驚き瞬きだけを向けてきた。違うのか? だがいいやとジーナは続ける。
「時間的にかなり歩きましたし今の歩調の乱れも疲れから来るものかと思いましたものでして」
数回の瞬きからヘイムの瞳は左右を泳ぎ、真ん中に戻ってきた。
「……おおそうだな。ああそうだ。二人三脚じみた歩行な上に途中で飛んだりもしたしのぉ。ああ、妾は疲れているぞ。休憩しようか」
では、とジーナはその付近にあるはずの、というかハイネと昨日休んだ場所……という余計なことは幸いにも口に出さずにジーナはヘイムを道の脇にある一角へ案内した。
そこには大きな岩と芝生があるがあの身体では地面に座るというわけにはいかないだろうと考え、岩へと向かいこれなら座れるだろうという平たい岩の前に近づき、少し失礼と手を離し上着を脱ぎ、岩の上に敷いた。
この間ヘイムの右眼は上着とジーナの上半身を絶え間なく動き一体こやつは何をしている? と考えているのか聞くことも理解できずに呆然としていた。
反応のないヘイムに対しジーナはああ分からないのかしょうがないなと思い敢えて説明をした。
「どうぞ、こちらに、お座りください」
「……上着の上に?なんだこれは」
「私の上着です」
こんな陰気な曇り空の下であるのに木々は微かに輝きそよ風になびいている。もう晩秋だといっていいのにまるで新春のような雰囲気であり、このあまりにも不可解な自然現象のなかヘイムは言った。
「こう近くで見ると中々に良い。動機はともかくみんな頑張ってくれたようだな」
ヘイムも満足気にあたりを見渡しながら歩き出した。
「整地をして地面の凸凹を出来る限り均して歩きやすくなっております」
「妾のためにかありがたいことであるな。皆に感謝せねばなるまいて」
「……それはみなさんが喜ぶ言葉でしょうけれども」
「なにがいいたいのだ、うん?」
地面を杖で叩きヘイムが威嚇する。ここで黙るのも脅しに屈した態になりそうなのでジーナは敢えて歯向かうことにした。
「皆はヘイム様と私が歩くためにここを頑張って整地したのでは無くてですね」
「しつこいぞ。妾が喜んでいるのならちっとも問題なかろうに。だいたい妾が誰と歩こうがこっちの勝手だ。口出しは許さん」
「余計なことを口走るとこのように辛い目に会わされるわけですね」
「因果応報だ。そういう風にしているのだから辛いだろうに。どこが特に辛いのだ?」
「ですからあなたと一緒にいると辛くて苦しいですよ」
激怒され帰れと叫ばれたいとも思いつつ、これでも駄目なんだろうなとジーナはどこか諦めながら言うも、やはりそうだった。ヘイムは歪んだ笑みを向けてくるだけだった。
「妾だって嫌なんだから我慢せよ」
「だったらこんなことは」
「もうそういうのはいいから早う案内せい。いちいち済んだことをねちねちと蒸し返すから困るな。どこかのめんどくさい女か? そんな見た目で女々しいとか言われたくないだろうに」
逆だ逆。めんどくさいのはそっちだとジーナは言おうとするも予想されるあまりに無意味なやりとりが嫌なために返すのをやめ、憤懣を貯め込みながら歩き出した。
庭園には誰もいない、どうしてか二人だけの世界であった。
今ではもう何も言わずともだいたい歩調がそろうようになりゆっくりとだが、問題なく歩けるようになっていた。
「あれはなんであるか知っておるか? 知らぬだろうがあれはなミタンという木だ」
ヘイムは歩きながらいちいち草花の名の説明をしだしジーナは聞くも気が気で無かった。
こんなにのんびりと歩いて大丈夫なのか? 時間だとか人の目だとか、この人はどこまで気にしないのかと。本気で他人にこれを見せる気なのか?
「おい聞いておるのか?しっかりと覚えておくようにな」
「はい。覚えました」
覚える気もないジーナは生返事で返す。
「おおそうか感心だな。次回もう一度聞くからな」
その心境を見抜いたうえで返してきて驚き、もうひとつ驚く。次回とは……えっ次もあるの! と暗澹たる気分のままさっきの花の名をもう一度心の中で繰り返す。
ショックの大きさからか、それはすぐに覚えられた。可憐な暗黒の花の名としてジーナの心に哀れにも刻み込まれた。
庭の園道は凸凹であるどころか石すら落ちてなく却って不気味なぐらい整地されているなかで、そういえばそろそろ自分とハイネが整地していた箇所に入るなと思いそのことを口に出した。
「昨日私が整地した箇所がもう少しで入ります」
「おおそうか。それだと危険だな。用心して歩かなければな。山よりもでかい石が落ちているかもしれん」
「またそんなことを言って。そんなのあるわけがない。大丈夫ですよハイネさんがいましたし彼女がチェックをしていましたから」
そう言うとヘイムの歩調が急に緩みジーナだけが先に出た形となり、だからこう思った。
まぁそうか私が手に付けた箇所は信用できないのは……当然ではあるが。それでいい、正しい、と。でもあなたは間違えている。
「あの、大丈夫ですってハイネさんが」
「連呼せんでいい。あやつがやったことは知っておるわ」
じゃあなんでそんなに歩みを変える? まだ二人のあいだには距離ができたままであった。声も遠く、心も遠く。
「昨日は、楽しかったであろうな」
問われてジーナは思い出す。いや、苦しかった。ハイネさんはハイネさんで距離感が少しおかしかった気もする上に、忙しくて疲れたのでそれほどまでには楽しくは無かったがそれでは彼女に悪いのでジーナはそこは気を使った。
ヘイム以外には気を遣う、遣った気になる。
「まぁ楽しかったですよ」
「今日に比べたらさぞかし面白かろうて」
「比較する対象としては不適切ではないですか? だってこれはその罰ですし、楽しいとかよりも苦しいが先に来ますよ」
フフッとヘイムは鼻で笑う、が全く楽しくなさそうな笑い声だとジーナはどうしてか怯んだ。
だがそれは誰に対する笑いだったのだろう?私に対しての? それとも自分自身に対しての? 考えているとヘイムの歩みが元に戻った。
「ああ面白くはないであろうな」
どこか投げ遣りな言葉がヘイムから出て来るのを聞いたジーナはふと思った。
もしかしてこの人は、いやそうなのだろう、そうだ、そうに決まっている。
「あのお疲れでしょうか?」
それは意外な言葉なのかヘイムは驚き瞬きだけを向けてきた。違うのか? だがいいやとジーナは続ける。
「時間的にかなり歩きましたし今の歩調の乱れも疲れから来るものかと思いましたものでして」
数回の瞬きからヘイムの瞳は左右を泳ぎ、真ん中に戻ってきた。
「……おおそうだな。ああそうだ。二人三脚じみた歩行な上に途中で飛んだりもしたしのぉ。ああ、妾は疲れているぞ。休憩しようか」
では、とジーナはその付近にあるはずの、というかハイネと昨日休んだ場所……という余計なことは幸いにも口に出さずにジーナはヘイムを道の脇にある一角へ案内した。
そこには大きな岩と芝生があるがあの身体では地面に座るというわけにはいかないだろうと考え、岩へと向かいこれなら座れるだろうという平たい岩の前に近づき、少し失礼と手を離し上着を脱ぎ、岩の上に敷いた。
この間ヘイムの右眼は上着とジーナの上半身を絶え間なく動き一体こやつは何をしている? と考えているのか聞くことも理解できずに呆然としていた。
反応のないヘイムに対しジーナはああ分からないのかしょうがないなと思い敢えて説明をした。
「どうぞ、こちらに、お座りください」
「……上着の上に?なんだこれは」
「私の上着です」
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