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第3部 私達でなければならない
女性寮の片隅で
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「私の故郷の話がそんなに面白いのか?」
と聞くとハイネは欠伸をしながら答えた。
「退屈な田舎話ですからそれほど。でもですねジーナ」
茶を飲みながらハイネは目を合わせてきた。
「語るあなたはとても楽しそうですよ。だから私は付き合ってあげているのです」
そう言う割にはずっと聞いているな、とジーナは納得できないものの問題なく語れる程度のことをハイネに話していた。
話せないことは沢山あり、話してはいけないことも沢山あり、話したくないことも沢山ある。
何か隠し事がありませんか? と聞かれる可能性にジーナは話す毎に身構え警戒するも、ハイネはどうしてかそのようなことは一度も口にしなかった。
むしろ無口にしっかりとした聞き手としてジーナの話に集中し続けているように見えた。
そうであってもジーナは思う。何故この話を聞きたがるのかと。
龍の儀式の準備についての大々的な打ち合わせが始まったせいなのかジーナは一時暇を出された。
これは排除の始まりでは? とジーナはすぐに気づく。それはそうだろう、あの呪龍とのやり取りはそのまま排斥と戦いへと繋がる。
いつ拘束の時が来てもおかしくなく、そうであるからいついかなる時であっても逃げ出す準備をしなくてはならない。
それがたとえこのような場所であったとしても。
「あのですねジーナ。あなたは男ですからこのような場所に興味がおありなのは重々承知しております。私はそこまで頭が暗い女ではありませんからね。ですけれども、そう堂々とあちこちを見られるとあなたをここに呼んでいる私の評判も悪くなってしまいます。どうか、大人しくしてくださいませんか?」
ここは中央の伝統ある女性軍事関係者及び女官のための施設でいわば女性寮であり、二人はその庭園の片隅で話をしていた。
あちらこちらから視線を感じる、この監視社会。
ハイネの注意でジーナは固まると、眼が三階の誰かに合い、それから手を振られたので手を振り返すと声が飛んできた。
「ジーナ! 何を振っているのですか」
「いや振られたので……」
「あなたってそういうことをする人なのですか? 誰にでも媚を売るのですか?」
不満声にジーナの頭に血が昇った。
「なんだその言い方は。こういうのが嫌ならじゃあなんでここにいれたんだ」
返すとハイネは顔をしかめながら小声で答えた。
「中央の寮の規則では庭の片隅の一角でなら男女二人で会うことを許可されており、またその二人への接近は厳重に禁じられています。するとご覧のようにここにいると頼んでもいないのに想像以上に多くの人が私達を監視するというわけです。ルール違反は無いかという正義の意識のもと堂々と多くの人が様々な角度から見ており、その周囲にもし第三者がいましたらすぐにバレてしまうということです。すると逆説的にですが誰からも見られているというこの周辺には人はいないということは確実なこととなります。どの小部屋やどのお店を使うよりもずっと機密性が高い話をできるというわけです」
「なにそれ怖い……」
道理で周囲が不気味なぐらい静かで物音がしないのかと思っていたらそんな理由が……
「待った。声が聞こえないのに楽しむっておかしくないか? 面白い動作とかとっていないが」
「これで十分なのですよ。声は聞こえなくても一緒に見ているルームメイトと想像を交えてやり取りするのが楽しいですよ」
「それって結局自分の想像を自分で楽しんでいるだけでは?」
「ですからそれが楽しいのですよ。あなたは分かっていませんね」
「分かるはずないだろ……」
意味不明な楽しみ方に困惑しながらジーナはここでやっとあることに気付いた。
「待ってくれ……するとここでこの話をする理由は他に漏らさないため?あっちょっと待ってくれ」
「はい、待っていますよ」
「そこまで落ち着かれるとかえって困るが、あのハイネ、これ尋問だったのか?」
ハイネは顔色を変えず瞼を瞬かせながら答えた。
「はい、そうですけどなにか? まさかジーナは私が個人的な興味からあなたと西の故郷の話を聞きたがっていたと思っていました?」
「思っているわけがないが……」
だが釈然としない。機密性を気にしての場所でする話でもないし、ここが女性寮だと気づいたのは入ってからしばらく経った後であるし……
「安心してくださいジーナ。ただの仕事ですよ。ですから根掘り葉掘りに聞いているわけで」
「その割にはメモを取ったりしないのだな」
「覚えればいいですもの。帰ったら書類に書きますからご安心を。最上層部を交えての龍の儀式の打ち合わせが始まりましてジーナもお役目が一時休暇となっていますし、この際に前々からいつまでも溜めておいた仕事をこの際にやっつけてしまおうと思いましてね」
そんなに淡々と打ち明ける尋問とは?
「こんなどうでもよさそうなことのために他の仕事の一切を停止させる必要はあるのか? いま上層部は龍の儀式の打ち合わせの最中でハイネもその中に加わるべきじゃないのか?」
「そこは別にあなたがそこを気にする必要はありませんよ。今日の分が終わったら向うに行きます。合間合間でこの仕事をするのです。ここでやるのならすぐに着替えられるし女性寮と中央への塔は繋がっていますからね。利便性と効率の良さを考えたらこうするのが一番ということで」
あまりにもハイネが冷静に言うのでジーナは怪しさを逆に感じ首を傾けた。本当にそれだけなのと。
「……そもそもなんで私の話が仕事の内容に入っているんだ?」
尋ねるとあっ! という風にハイネは目を大きくしたが、どこかわざと臭い。演技が上手すぎて逆に下手な傾向があるなとジーナはハイネを見る。
「そこでしたか。ああそうでしたね。ごめんなさい言いそびれていました。まぁどうでもいいことですから……簡単な話ですよ。西はまだ未開拓な地ですから、少しずつ開いて行こうというのがマイラ卿はじめ上層部の御意見です。しかし西方面の文献や調査など今まで全然ないためにあなたからお話を聞いているということですよ」
「……その方針はお勧めしないな。なんたって西に進むと砂漠が出現する。ここを越えるのは、不可能だ」
「ただし俺はできる、と言いたいのですね。すごいすごーいえらいぞーりっぱ」
「そんな嫌味な言い方を私はしない」
「いえいえ自慢していいと思いますよ。この私が褒めるのですから大したことですよ。その点もまたあなたの評価を高めているのです。歴代中央政権は西には恐ろしく無関心でした。政権というか龍が興味が無いのでしょう。始祖の時代からまるで意を払わずにそのまま放置していました。砂漠地への調査は国としては行わずにそれどころか立ち入り禁止にするという措置までした時代があったようです」
「……まぁあんな異常な砂漠地帯に足を踏み入れる人なんてそうそういないだろうし。西からすれば逆に東から来た人間なんて一人もいなかった……惜しい人はいたけどな」
「そうです。ですからあなたと例のアリバさん、このお二人のみかもしれませんね。こちら側も記録や文献では西から来たものは誰一人としていません。あなたは例の砂馬に乗ってアリバさんと何度も砂漠越えを果たし、その経験を活かして東の地における戦乱を鎮めようとやってきた……」
ハイネの語る自分についての公式的説明。ジーナは自分自身でもあまりにも作りものじみた無味無臭さを感じつつも疑問があった。
それはこれを支持し信じているのがハイネだということ。
「何度聞いてもまさに奇跡や伝説に近い話ですね。とても良いと思います」
自画自賛するように頷くもジーナは不審感を拭えない。いつものハイネなら小馬鹿にしてツッコミそれから深いところへ入って来ようとするのに……
こんな表面的な話を納得し全面的に受け入れるとは……なにか、あるのではないのか?
「あの奇妙な砂漠にもしも道がかかり、西と東の道が繋がるのなら……」
ハイネは両手左右の人差し指を伸ばしの眼の前でその先端を合わせながら言った。
「それは歴史に残る偉業となる可能性がありますよね」
「私は反対だ」
ジーナはすぐに返したがハイネは指先をくっつけたまま離さず、話さない。
「そのようなことをするべきではない」
ハイネの指先はなおも離れない。
「ハイネ、この話はやめよう」
ジーナはハイネの両人差し指を離れさせるとハイネの両眼は虚空を見つめていた。
「西と東は本来なら結ばれるべきではない。ああなったのには何か必然性があったからで」
「ただし俺を除いて、ですか? あなたっていつもそう。自分が特別だと思い込んで何をやっても良いと信じている」
ハイネはなおも虚空を見ながらジーナを非難する。
「世界で一番自分が偉いとでも思い込んでいそう。俺だけが砂漠を自由に越えられる権利を持っている、と思っていません?」
「そんなことは思っていないし、私が砂漠を行き来できたのは理由と必然性があってな」
「自分の理由を必然的またら絶対的なものとし、他のものに同じことを許さないということは、私の言葉が正しいということになりますよ」
ハイネの眼は変わらず、こちらを見ない。何故見ない、背ける? そう感じながらジーナは自分に憤りを覚える。なんでこんな感情を起こすのかと。
「……なんと言われようと私は東のこの地のものが西に行くことには賛成しない。よって協力はできない。これはハイネが西に行ってほしくないという理由だけではなく、そのほかの全ての人に対してもだ」
敢えて名前を出し反応を伺うもののハイネは動じないが少し間を置いてから首を振り視線を落した。その時も眼を合わせなかった。
「繰り返しますが西側には砂漠を越える手だても方法もありません。無です。あなたがやる気にならないとどうしようもないわけでして……」
ハイネは言いながら立ち上がり荷物をまとめだした。
「今日のところはここまでにしましょう」
「こんな半端なところで終わるのか?」
ジーナは少し慌てたがハイネはその言葉を退けた。
「もう時間ですしあなたも譲歩しませんよね? だったらこれ以上は今日は無駄ということです。お疲れ様でした」
促されジーナは立ち上がりハイネを、見る。視線を合わせては来ない。頑なに、何かを伝えてくるように。
しばらくそのままでいるとハイネは心の声が漏れたような独り言をした。
「思うに、そのことがジーナが成すべき次の仕事であると私は……」
「それは違うよハイネ」
呟いて返すとジーナはその場から去った。
と聞くとハイネは欠伸をしながら答えた。
「退屈な田舎話ですからそれほど。でもですねジーナ」
茶を飲みながらハイネは目を合わせてきた。
「語るあなたはとても楽しそうですよ。だから私は付き合ってあげているのです」
そう言う割にはずっと聞いているな、とジーナは納得できないものの問題なく語れる程度のことをハイネに話していた。
話せないことは沢山あり、話してはいけないことも沢山あり、話したくないことも沢山ある。
何か隠し事がありませんか? と聞かれる可能性にジーナは話す毎に身構え警戒するも、ハイネはどうしてかそのようなことは一度も口にしなかった。
むしろ無口にしっかりとした聞き手としてジーナの話に集中し続けているように見えた。
そうであってもジーナは思う。何故この話を聞きたがるのかと。
龍の儀式の準備についての大々的な打ち合わせが始まったせいなのかジーナは一時暇を出された。
これは排除の始まりでは? とジーナはすぐに気づく。それはそうだろう、あの呪龍とのやり取りはそのまま排斥と戦いへと繋がる。
いつ拘束の時が来てもおかしくなく、そうであるからいついかなる時であっても逃げ出す準備をしなくてはならない。
それがたとえこのような場所であったとしても。
「あのですねジーナ。あなたは男ですからこのような場所に興味がおありなのは重々承知しております。私はそこまで頭が暗い女ではありませんからね。ですけれども、そう堂々とあちこちを見られるとあなたをここに呼んでいる私の評判も悪くなってしまいます。どうか、大人しくしてくださいませんか?」
ここは中央の伝統ある女性軍事関係者及び女官のための施設でいわば女性寮であり、二人はその庭園の片隅で話をしていた。
あちらこちらから視線を感じる、この監視社会。
ハイネの注意でジーナは固まると、眼が三階の誰かに合い、それから手を振られたので手を振り返すと声が飛んできた。
「ジーナ! 何を振っているのですか」
「いや振られたので……」
「あなたってそういうことをする人なのですか? 誰にでも媚を売るのですか?」
不満声にジーナの頭に血が昇った。
「なんだその言い方は。こういうのが嫌ならじゃあなんでここにいれたんだ」
返すとハイネは顔をしかめながら小声で答えた。
「中央の寮の規則では庭の片隅の一角でなら男女二人で会うことを許可されており、またその二人への接近は厳重に禁じられています。するとご覧のようにここにいると頼んでもいないのに想像以上に多くの人が私達を監視するというわけです。ルール違反は無いかという正義の意識のもと堂々と多くの人が様々な角度から見ており、その周囲にもし第三者がいましたらすぐにバレてしまうということです。すると逆説的にですが誰からも見られているというこの周辺には人はいないということは確実なこととなります。どの小部屋やどのお店を使うよりもずっと機密性が高い話をできるというわけです」
「なにそれ怖い……」
道理で周囲が不気味なぐらい静かで物音がしないのかと思っていたらそんな理由が……
「待った。声が聞こえないのに楽しむっておかしくないか? 面白い動作とかとっていないが」
「これで十分なのですよ。声は聞こえなくても一緒に見ているルームメイトと想像を交えてやり取りするのが楽しいですよ」
「それって結局自分の想像を自分で楽しんでいるだけでは?」
「ですからそれが楽しいのですよ。あなたは分かっていませんね」
「分かるはずないだろ……」
意味不明な楽しみ方に困惑しながらジーナはここでやっとあることに気付いた。
「待ってくれ……するとここでこの話をする理由は他に漏らさないため?あっちょっと待ってくれ」
「はい、待っていますよ」
「そこまで落ち着かれるとかえって困るが、あのハイネ、これ尋問だったのか?」
ハイネは顔色を変えず瞼を瞬かせながら答えた。
「はい、そうですけどなにか? まさかジーナは私が個人的な興味からあなたと西の故郷の話を聞きたがっていたと思っていました?」
「思っているわけがないが……」
だが釈然としない。機密性を気にしての場所でする話でもないし、ここが女性寮だと気づいたのは入ってからしばらく経った後であるし……
「安心してくださいジーナ。ただの仕事ですよ。ですから根掘り葉掘りに聞いているわけで」
「その割にはメモを取ったりしないのだな」
「覚えればいいですもの。帰ったら書類に書きますからご安心を。最上層部を交えての龍の儀式の打ち合わせが始まりましてジーナもお役目が一時休暇となっていますし、この際に前々からいつまでも溜めておいた仕事をこの際にやっつけてしまおうと思いましてね」
そんなに淡々と打ち明ける尋問とは?
「こんなどうでもよさそうなことのために他の仕事の一切を停止させる必要はあるのか? いま上層部は龍の儀式の打ち合わせの最中でハイネもその中に加わるべきじゃないのか?」
「そこは別にあなたがそこを気にする必要はありませんよ。今日の分が終わったら向うに行きます。合間合間でこの仕事をするのです。ここでやるのならすぐに着替えられるし女性寮と中央への塔は繋がっていますからね。利便性と効率の良さを考えたらこうするのが一番ということで」
あまりにもハイネが冷静に言うのでジーナは怪しさを逆に感じ首を傾けた。本当にそれだけなのと。
「……そもそもなんで私の話が仕事の内容に入っているんだ?」
尋ねるとあっ! という風にハイネは目を大きくしたが、どこかわざと臭い。演技が上手すぎて逆に下手な傾向があるなとジーナはハイネを見る。
「そこでしたか。ああそうでしたね。ごめんなさい言いそびれていました。まぁどうでもいいことですから……簡単な話ですよ。西はまだ未開拓な地ですから、少しずつ開いて行こうというのがマイラ卿はじめ上層部の御意見です。しかし西方面の文献や調査など今まで全然ないためにあなたからお話を聞いているということですよ」
「……その方針はお勧めしないな。なんたって西に進むと砂漠が出現する。ここを越えるのは、不可能だ」
「ただし俺はできる、と言いたいのですね。すごいすごーいえらいぞーりっぱ」
「そんな嫌味な言い方を私はしない」
「いえいえ自慢していいと思いますよ。この私が褒めるのですから大したことですよ。その点もまたあなたの評価を高めているのです。歴代中央政権は西には恐ろしく無関心でした。政権というか龍が興味が無いのでしょう。始祖の時代からまるで意を払わずにそのまま放置していました。砂漠地への調査は国としては行わずにそれどころか立ち入り禁止にするという措置までした時代があったようです」
「……まぁあんな異常な砂漠地帯に足を踏み入れる人なんてそうそういないだろうし。西からすれば逆に東から来た人間なんて一人もいなかった……惜しい人はいたけどな」
「そうです。ですからあなたと例のアリバさん、このお二人のみかもしれませんね。こちら側も記録や文献では西から来たものは誰一人としていません。あなたは例の砂馬に乗ってアリバさんと何度も砂漠越えを果たし、その経験を活かして東の地における戦乱を鎮めようとやってきた……」
ハイネの語る自分についての公式的説明。ジーナは自分自身でもあまりにも作りものじみた無味無臭さを感じつつも疑問があった。
それはこれを支持し信じているのがハイネだということ。
「何度聞いてもまさに奇跡や伝説に近い話ですね。とても良いと思います」
自画自賛するように頷くもジーナは不審感を拭えない。いつものハイネなら小馬鹿にしてツッコミそれから深いところへ入って来ようとするのに……
こんな表面的な話を納得し全面的に受け入れるとは……なにか、あるのではないのか?
「あの奇妙な砂漠にもしも道がかかり、西と東の道が繋がるのなら……」
ハイネは両手左右の人差し指を伸ばしの眼の前でその先端を合わせながら言った。
「それは歴史に残る偉業となる可能性がありますよね」
「私は反対だ」
ジーナはすぐに返したがハイネは指先をくっつけたまま離さず、話さない。
「そのようなことをするべきではない」
ハイネの指先はなおも離れない。
「ハイネ、この話はやめよう」
ジーナはハイネの両人差し指を離れさせるとハイネの両眼は虚空を見つめていた。
「西と東は本来なら結ばれるべきではない。ああなったのには何か必然性があったからで」
「ただし俺を除いて、ですか? あなたっていつもそう。自分が特別だと思い込んで何をやっても良いと信じている」
ハイネはなおも虚空を見ながらジーナを非難する。
「世界で一番自分が偉いとでも思い込んでいそう。俺だけが砂漠を自由に越えられる権利を持っている、と思っていません?」
「そんなことは思っていないし、私が砂漠を行き来できたのは理由と必然性があってな」
「自分の理由を必然的またら絶対的なものとし、他のものに同じことを許さないということは、私の言葉が正しいということになりますよ」
ハイネの眼は変わらず、こちらを見ない。何故見ない、背ける? そう感じながらジーナは自分に憤りを覚える。なんでこんな感情を起こすのかと。
「……なんと言われようと私は東のこの地のものが西に行くことには賛成しない。よって協力はできない。これはハイネが西に行ってほしくないという理由だけではなく、そのほかの全ての人に対してもだ」
敢えて名前を出し反応を伺うもののハイネは動じないが少し間を置いてから首を振り視線を落した。その時も眼を合わせなかった。
「繰り返しますが西側には砂漠を越える手だても方法もありません。無です。あなたがやる気にならないとどうしようもないわけでして……」
ハイネは言いながら立ち上がり荷物をまとめだした。
「今日のところはここまでにしましょう」
「こんな半端なところで終わるのか?」
ジーナは少し慌てたがハイネはその言葉を退けた。
「もう時間ですしあなたも譲歩しませんよね? だったらこれ以上は今日は無駄ということです。お疲れ様でした」
促されジーナは立ち上がりハイネを、見る。視線を合わせては来ない。頑なに、何かを伝えてくるように。
しばらくそのままでいるとハイネは心の声が漏れたような独り言をした。
「思うに、そのことがジーナが成すべき次の仕事であると私は……」
「それは違うよハイネ」
呟いて返すとジーナはその場から去った。
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