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第3部 私達でなければならない
第二隊隊長ノイス
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第二隊はノイスが継ぐこととなった。ジーナには特に感慨深いところは無かったがノイスは慇懃深げであった。
「結局俺は残りますねジーナ隊長」
「隊長はもうお前だろ。新しい隊員がいるのだからそういう呼び方は」
「いいえいいえ俺の前ではあなたが未だに隊長です。終身名誉隊長と呼んでもいいのですが、どうです?」
「是非ともやめてくれ。そんな呼び方をされたら二度とここには来ないかもしれない」
「ならその場合は隊長のことが嫌になりましたらその名で呼ぶことにしますね」
「その場合が訪れないことを望むところだな」
行進の訓練中の隊員たちの動きが止まり一斉にこちらを向いた。そのほとんどがジーナの知らない顔たちであった。
第二隊、かつてはナンバー外の隊であり隊員のほとんどは罪人で占められ恩赦と引き換えに戦ったものたち。
いまでは二番隊という実質最高の隊であるために隊員希望者が最も多く、かつての兵隊として無理矢理同然に引っ張られて誕生した経緯が嘘みたいな盛況である。
「もう私には関係のない隊だな」
ポツリとジーナが言うとノイスが大仰に頷く。
「もう最前線で戦うための隊ではありませんからね。第一隊は部族関係で一般入隊が不可能ですし近衛隊は貴族とごく一部の功績者のための隊。すると平民が最も志願するのはこの隊であり、この先に軍が整理されても残る可能性がとても高いのもこの隊です」
説明を聞きながらもジーナは耳奥であの掛け声が木霊のように甦り、口から漏れた。
「罪を滅ぼしに……龍の元へ」
「……あの龍の間においての戦いが隊長の第二隊最後の戦いだったわけです」
いや、最後の戦いではないとジーナは思うも首を振ることもできなかった。これから、始まろうとしているのだ。
「タイミングは良かったのです」
ノイスが指揮の手を振ると隊列は背を向けて行進を開始しだした。
「第二隊はもはや罪人による隊ではなくなり全員の罪は消滅したのです。言うなればあの龍の血がその罪を濯ぎ清め洗い流してしまった、といっても良いはずです。初期からいた隊員で残ろうとしているのは極少数です。禊が済んだと思ったものは脱隊の手続きをとっております」
聞きながらジーナは毎日のように代わる代わる挨拶に来る古参隊員の顔を思い出した。
「みんな晴れた顔で私の前に来る」
「さぞかし眩しいでしょうね」
事実、眩しかった。隊員はジーナに向かって型通りの別れの口上を述べるがほぼ全員が途中で泣きだし、その手を取り感謝の言葉を涙声で言い出す。
「やめてくれ、私は龍ではないのだ。お前が生き残ったのは私のおかげではなくお前の力によるものだけだ」
とジーナはいつも返す口上をその場でも呟いた。
「隊長がそう返すと相手は違うと向きになって余計感謝の言葉を言うだけですって、まだ分かりませんか?」
「分からない。私は嘘でもそんなことは言いたくはない。本当にそうだからそう言っている。私にはそんな力もなく、お前の力でここまで生き残ったんだ、とな」
呆れた、という意味のみの溜息をノイスはつく。
「謙遜でなく隊長は本気でそう思い言っているからめんどくさいですよね」
「事実なんだから仕方がない。むしろ私は多くの隊員をひとつの目的のために殺したようなものだ」
自分の目的のために。
「死者はそう思うかもしれませんが、生者は決してそんなことは思いませんよ。全員が全員生きていることに歓喜しそしてあなたに感謝する。どうか彼らの声にも耳を貸してあげてくださいよ」
「……私は死者の声から耳を離さないようにしている」
「それはあなたの声ではありませんか?」
瞬間、音が消え頭の中に白に覆われたジーナは瞼を閉じ声を探す。いつものあの声を。
だが聞こえてくるのはノイスは声だけだった。
「死者の声といいましてもねぇ。あのもしもですね隊長。俺がもしも戦闘中にあなたの指揮で倒れ死んだとしても、ああここが俺の運の尽きどころか……としか思いません。あなたのことなんて恨まないしあとはどうでも良くなる。というかあなたのことを思い考えるよりも、寸刻も惜しまずに過去の女の事を考えるのに一生懸命でそんな暇なんてありませんよ」
自分自身の言葉に軽く笑うノイスの声が聞こえてきた。
「そうだな。お前は思い出すことが多そうだから忙しく私どころではないよな」
はい、とまた笑うノイスであったが、笑いが落ち着くと声が戻り、より低くなった。
「けど隊長は俺が死んだとしたらノイスは恨み言を残して死んだと思うわけですよね。困りますってそれ。絶対に思わないし俺をそんな男だと見ているのならかなりの侮辱だ」
ノイスの怒りが聞こえてくるがジーナはまだ闇の中で声を探している。その聞かなくてはならない声を。
「あなたは別に侮辱する意図が無いのでしょう。ただそれが聞こえてしまう。無意識に自然に聞こえてしまうというのなら、そう思うのはひとえに、あなたの罪の意識によるものではないのですかね?」
そう言うとノイスも口を閉ざし、辺りは沈黙で覆われた。何をしているのかと思うもジーナには見えない。
横にいる気配があるも、何を考えているのかは分からない。なにかを言い出そうとしているのだろうか?
何を思い、何をこれから口にするのか? ジーナは考えを回していると不意に似たタイミングでノイスは言った。
「隊長は自分の罪は償えましたか?」
「まだだ」
「結局俺は残りますねジーナ隊長」
「隊長はもうお前だろ。新しい隊員がいるのだからそういう呼び方は」
「いいえいいえ俺の前ではあなたが未だに隊長です。終身名誉隊長と呼んでもいいのですが、どうです?」
「是非ともやめてくれ。そんな呼び方をされたら二度とここには来ないかもしれない」
「ならその場合は隊長のことが嫌になりましたらその名で呼ぶことにしますね」
「その場合が訪れないことを望むところだな」
行進の訓練中の隊員たちの動きが止まり一斉にこちらを向いた。そのほとんどがジーナの知らない顔たちであった。
第二隊、かつてはナンバー外の隊であり隊員のほとんどは罪人で占められ恩赦と引き換えに戦ったものたち。
いまでは二番隊という実質最高の隊であるために隊員希望者が最も多く、かつての兵隊として無理矢理同然に引っ張られて誕生した経緯が嘘みたいな盛況である。
「もう私には関係のない隊だな」
ポツリとジーナが言うとノイスが大仰に頷く。
「もう最前線で戦うための隊ではありませんからね。第一隊は部族関係で一般入隊が不可能ですし近衛隊は貴族とごく一部の功績者のための隊。すると平民が最も志願するのはこの隊であり、この先に軍が整理されても残る可能性がとても高いのもこの隊です」
説明を聞きながらもジーナは耳奥であの掛け声が木霊のように甦り、口から漏れた。
「罪を滅ぼしに……龍の元へ」
「……あの龍の間においての戦いが隊長の第二隊最後の戦いだったわけです」
いや、最後の戦いではないとジーナは思うも首を振ることもできなかった。これから、始まろうとしているのだ。
「タイミングは良かったのです」
ノイスが指揮の手を振ると隊列は背を向けて行進を開始しだした。
「第二隊はもはや罪人による隊ではなくなり全員の罪は消滅したのです。言うなればあの龍の血がその罪を濯ぎ清め洗い流してしまった、といっても良いはずです。初期からいた隊員で残ろうとしているのは極少数です。禊が済んだと思ったものは脱隊の手続きをとっております」
聞きながらジーナは毎日のように代わる代わる挨拶に来る古参隊員の顔を思い出した。
「みんな晴れた顔で私の前に来る」
「さぞかし眩しいでしょうね」
事実、眩しかった。隊員はジーナに向かって型通りの別れの口上を述べるがほぼ全員が途中で泣きだし、その手を取り感謝の言葉を涙声で言い出す。
「やめてくれ、私は龍ではないのだ。お前が生き残ったのは私のおかげではなくお前の力によるものだけだ」
とジーナはいつも返す口上をその場でも呟いた。
「隊長がそう返すと相手は違うと向きになって余計感謝の言葉を言うだけですって、まだ分かりませんか?」
「分からない。私は嘘でもそんなことは言いたくはない。本当にそうだからそう言っている。私にはそんな力もなく、お前の力でここまで生き残ったんだ、とな」
呆れた、という意味のみの溜息をノイスはつく。
「謙遜でなく隊長は本気でそう思い言っているからめんどくさいですよね」
「事実なんだから仕方がない。むしろ私は多くの隊員をひとつの目的のために殺したようなものだ」
自分の目的のために。
「死者はそう思うかもしれませんが、生者は決してそんなことは思いませんよ。全員が全員生きていることに歓喜しそしてあなたに感謝する。どうか彼らの声にも耳を貸してあげてくださいよ」
「……私は死者の声から耳を離さないようにしている」
「それはあなたの声ではありませんか?」
瞬間、音が消え頭の中に白に覆われたジーナは瞼を閉じ声を探す。いつものあの声を。
だが聞こえてくるのはノイスは声だけだった。
「死者の声といいましてもねぇ。あのもしもですね隊長。俺がもしも戦闘中にあなたの指揮で倒れ死んだとしても、ああここが俺の運の尽きどころか……としか思いません。あなたのことなんて恨まないしあとはどうでも良くなる。というかあなたのことを思い考えるよりも、寸刻も惜しまずに過去の女の事を考えるのに一生懸命でそんな暇なんてありませんよ」
自分自身の言葉に軽く笑うノイスの声が聞こえてきた。
「そうだな。お前は思い出すことが多そうだから忙しく私どころではないよな」
はい、とまた笑うノイスであったが、笑いが落ち着くと声が戻り、より低くなった。
「けど隊長は俺が死んだとしたらノイスは恨み言を残して死んだと思うわけですよね。困りますってそれ。絶対に思わないし俺をそんな男だと見ているのならかなりの侮辱だ」
ノイスの怒りが聞こえてくるがジーナはまだ闇の中で声を探している。その聞かなくてはならない声を。
「あなたは別に侮辱する意図が無いのでしょう。ただそれが聞こえてしまう。無意識に自然に聞こえてしまうというのなら、そう思うのはひとえに、あなたの罪の意識によるものではないのですかね?」
そう言うとノイスも口を閉ざし、辺りは沈黙で覆われた。何をしているのかと思うもジーナには見えない。
横にいる気配があるも、何を考えているのかは分からない。なにかを言い出そうとしているのだろうか?
何を思い、何をこれから口にするのか? ジーナは考えを回していると不意に似たタイミングでノイスは言った。
「隊長は自分の罪は償えましたか?」
「まだだ」
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