リトルラバー

鏡紫郎

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第九話 想い出の写真

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 奈々花の策略? により竜也がオーバルくんを手に入れてから一時間が経過した。

 この間、奈々花はレーシングやガンシューティング、リズムゲーム等を手当たり次第楽しんだのだが、竜也はと言うと……娘に付き合うお父さんよろしく、完全に荷物持ちと化していた。

「よっしゃー! パーフェクトォ!」

 そして今、奈々花が昔得意だったという懐かしのビデオゲーム、剛拳3のラスボスを彼女がパーフェクトで封殺したところだった。

 因みに、この獅堂奈々花という少女、対戦になると性格が変わるらしく放送禁止レベルの暴言を無数に吐きだしながらプレイを続け、竜也をドン引きさせていた。

「どうよタッツー! 言ったとおり上手かったでしょ」

「お、おう。そうだな」

 テーブル筐体備え付けの椅子から立ち上がると、奈々花は普段の喋り方に戻り笑顔でピースサインを作りだす。そんな変貌っぷりを見せつけられ、普段おとなしい彼女が何故ワルどもに馴染めていたのか、竜也はわかったような気がした。

「それで、もう三時なんだが。そろそろ買うもん買って戻らないとまずいんじゃないか?」

 冬を越え、日の落ちる時間も遅くなり、まだ夕方とも言えない時間に竜也が何故こんな提案をしたのかというと、この後二人には行かなければならない場所があったからだ。実は、そこへの手土産を買いに来たというのが本来の目的であり、今まで奈々花はそれを後回しにし続けていたのである。

「え!? もうそんな時間! 楽しい時間ってほんと早いなぁ。まだタッツーと遊びたいのに」

「たまにでいいなら付き合ってやるから。今日は……」

 今日はこれ以上豹変した奈々花を見たくない。とは言いだせない竜也であった。

「本当! 約束、約束だかんね!」

 そんな彼の気持ちなど露も知らず、竜也の言葉に瞳を輝かせる奈々花はとことん素直な女の子だった。

「それじゃそれじゃ、最後にプリ撮ろう! プリ!」

「プリって……ずいぶん略すなお前」

 また付き合ってやると言われたことがよほど嬉しかったのか、奈々花ははしゃぎながら複数並ぶ箱状の機械へと近づいていく。

 プリントシール機。九十年代中期から存在する証明写真のシール版のようなものだ。操作は簡単で、数十種類存在するフレームの中から一つを選択して写真を撮る。これだけで撮ったものが複数のシールとして排出され、それを交換し合うという手軽さから女性を中心に一つのコミュニケーションツールとして画一された。

 その後様々な機能が追加され、スタンプや落書きのできる機種、今やネットワークで管理しシールの代わりに直接携帯へデータを送るという安価なものまで存在するなど、長く慕われ続けるゲームセンターの看板タイトルの一つなのだ。

「何々、最近の若いもんは何でもかんでも略しおって。とか、そんなこと思ってるわけ?」

「いや、別にそういうわけじゃないんだが」

 竜也の言い方が悪いのか、奈々花には呆れているように聞こえたのだろう。しかし、彼にそんなつもりは毛頭ない。若者の自由な発想に文句をつけるつもりなどさらさら無いのだ。

 だが、奈々花の口からプリという言葉が出ると、ラブプリズンの隠語の一つにプリという名称が使われていることを思い出してしまい、その印象が竜也の心をかき乱してしまう。

「っと、時間がないんだろ。せっせと撮っちまおうぜ」

「なんかはぐらかされてる気もするけど。まっいっか」

 ごまかされているような竜也の態度に不満を見せる奈々花であったが、二人で写真が撮れる喜びのほうが勝っているらしく、ウキウキ気分で竜也を引っ張りカラフルな箱へと入っていく。

「ほぉ、最近のはフレームを決めるだけじゃないんだな」

 待ちきれないという様相の奈々花はすぐ様お金を投入し、細かな設定を決めていく。そんな彼女の手際の良さに竜也は目を見張る。

「最近のって……クレーンゲームの時といいタッツーオヤジ臭い」

「悪かったな。俺はもう十分、いい歳したおっさんだよ」

「もう、そんなに拗ねないでってば」

 からかう奈々花に竜也は軽く反応したつもりなのだが、彼女にはそれが不機嫌そうに見えたようで、彼の腕をペチペチと叩きご機嫌を取ろうとする。叩かれている本人は決して怒っていないため、まーたスキンシップか程度にしか思っていないのだが。

「それにしても意外だな~。タッツーが誰かとプリ撮ったことあるなんて」

「ああ、まぁ、昔な」

「タッツーでも、人並みの青春してたんだね~」

「……殴るぞ」

「はい、暴力反対!」

 こうして二人がじゃれ合う間も、奈々花はフレームやら何やらを模索し続け頭を捻らせる。

「ま、いろんな設定あるけどさ、やっぱり今日はそのままで撮ろ。思い出写真みたいなもんだしさ」

 最終的に奈々花はちょっと可愛らしいフレームを選び、その他の設定をオフにしていった。

「なんだ。思い出なら余計に面白おかしくしたほうがいいんじゃないのか?」

「これは私とタッツーのプリなの。誰かわからないようなサギプリ撮ったってしょうがないじゃん」

 画面に表示される説明を読み、様々なデコレーションができることを知った竜也はそう彼女に提案するが、過剰に装飾されたシールがサギプリと呼ばれていることを知り、そんなに変わるものなのかと竜也は内心苦笑いを浮かべる。そして、何気なく女は化粧で化けるという言葉を思い出し複雑な気持ちになった。

「それで、ポーズはどうするんだ?」

「それはもちろん」

 そんな気持を誤魔化すように竜也は頭を掻きつつ奈々花へと言葉をかける。すると、彼女はいつもの場所、安定の竜也の左腕へと抱きつき、腕を絡めた。

「おいおい、そんな何時も通りでいいのかよ?」

「いいの。だって、ここが一番落ち着くんだもん。それに、私みたいな可愛い子に抱きついてもらえて、タッツーだってまんざらじゃないんでしょ?」

「……想像に任せる」

 彼女の言う通り竜也もまんざらではない。まんざらではないのだが、それを素直に嬉しいと言えるほど彼はもう若くないのだ。とは言え、奈々花は彼の言葉を肯定と受け取ったらしく、嬉しそうに笑顔でシール機の画面を見つめ直す。

「それじゃあ撮るよ」

 そう言って奈々花がボタンを押すと、機械の音声に従ってシャッター音とフラッシュが炊かれる。その後、別のポーズでもう一枚撮れるという旨を伝えるアナウンスが流れた。

「あ~、これ二枚撮れるタイプだっけ。う~ん、どうしようかな」

「それじゃあ、中腰になれ」

「え? う、うん」

 珍しくキツめの命令口調で喋る竜也に奈々花は萎縮するも、黙って言われたとおりの体勢を取る。すると、竜也は突然奈々花の後ろへと回り込み、肩へと両手を軽く乗せた。

 竜也自身は真剣に考えるあまりきつい口調になっただけであり、姿勢も高さの調整のためだったのだが。彼女はつい、少し前に仲間から見せてもらったエッチな本の内容を思い出し、いかがわしい行為のために立たれているかのような錯覚を覚え、思わず緊張に息を飲んでしまう。

「た、タッツー。こ、個室だからって、こんなところで始めたりしない、よね?」

「始める……って、アホなこと考えてるんじゃない。こうしないと俺の顔が微妙に入らんだろうが」

 奈々花の口から飛び出した意味不明な言葉。少し考えた後竜也は言葉の意図に気がついてしまい、頬を少々赤らめながら彼女の後頭部へと優しくチョップを入れる。

「いつっ、ごめんごめん」

 その痛みで緊張が溶けたのか、そんなことあるわけないよねと思いながら奈々花は再び画面を見つめる。

「よかったらボタン押すよ?」

「おう、頼む」

 そして、私がそれを求めるのはいけないことだよね。なんて内心で考えながら奈々花は笑顔を作りボタンを押した。

 シャッターとフラッシュ、それから数秒待つと写真が生成され、取り出し口へと落ちてくる。それを掴んだ奈々花は、四分割ずつ、計八分割されたシールをじっくりと眺めつつ機械を後にした。
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