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第十二話 お姫様抱っこ
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「あ、あれ? 私、どうして……」
長い間意識を失っていた奈々花は、ハンモックに揺られるような優しい感覚によって深い闇より目を覚ます。すると、目の前には愛しき人、大好きな竜也の凛々しい横顔があった。
「お、やっと目覚ましたか。倒れたんだよ、墓参りの途中でいきなりな。全くよ、だーからはしゃぎすぎるなって言っただろ?」
いつもより近い竜也の声、普段より近い彼の顔。不思議な距離感に違和感を覚える奈々花であったが、あまりに気持ちいい感覚に全てがどうでも良くなっていく。しかし、体が揺れる度に差し込む街灯の光がそれを良しとしない。
暗闇に差し込む一筋の眩しさに、ゆっくりと覚醒させられていく意識。それと同時に自分の状況に気がつき始めた奈々花は、頬を真っ赤に染め、わなわなと口を震わせ始めた。
「そっか、私……ごめん。これからは気をつけ……って、なんでこの体勢なのかなタッツー!」
「あ? なんでって、おぶらせようとしたら全く力入れねぇんだもんおまえ。そしたらお姫様抱っこするしかねぇだろ」
そう、今の彼女は竜也の腕の中で横抱き、つまりお姫様抱っこをされているのだ。
一部の女性からは好きな男性にされたいシチュエーションと声の上がるこの状況に、内心奈々花も嬉しくはある。だからと言って恥ずかしさが無くなるわけではない。むしろ、薬に頼っていた彼女にとって、このような状況は責め苦以外の何物でもなかったのである。
「いや、そうかも、そうかもしんないけどさぁ! だったら待つよね、ふつう待つよね! こんなこと恥ずかしくてできないよねぇ! っていうかさ、お姫様抱っこなんて言葉よく簡単に言えるね!」
顔を真っ赤にさせたまま竜也の言動を否定する奈々花。だからといって、彼の倫理観を疑っているわけではない。当然のように語られる彼の言葉によって、自分の状況がはっきりと認識させられていくことを彼女は拒絶したかったのだ。
「そうは言ってもなぁ。これでも、三十分待ったんだぞ」
「三十分って……い、今何時!?」
「ん、たぶん七時ぐらいじゃないか?」
「えっと、確かお墓に着いたのが五時ぐらいで、それから三十分の三十分。それが六時ってことは……い、一時間もこの体勢なわけ!?」
「あー、考えてなかったけどそういうことになるか」
一切の動揺なく理路整然と話を進める竜也の姿に、何でそんなに冷静でいられるのと奈々花の心は切なさを増していく。だが、極度の負担は怒りとなり、竜也だけ恥ずかしくないのはずるいという感情を彼女に呼び起こさせた。
「タッツー……重く……ない、の?」
「ああ、特に問題はないぞ。そういうのってやっぱり気にするのな」
「……そりゃ……一応」
「そうだな。首に腕を回してもうちょっと密着してもらえると楽ではあるかな」
「み、密着!?」
答えにくいであろう質問を選び、回答次第ではけなしてやろうと考えていた奈々花であったが、予想外の彼の言葉に逆に追い詰められてしまう。そして、目の前の彼が下心で言ってるわけじゃないとわかっているのに、いやらしいことのように思ってしまう自分の矮小な感性が、奈々花の胸を更に強く締め付けた。
やっぱりもうダメ! このままじゃ心臓が止まっちゃう! と遂に限界を迎えた奈々花の感情は暴走を始め、駄々をこねる子供のように体を揺らして暴れだす。
「お、降りる! 今すぐ降りる! 降りるから降ろして! タッツー降ろして!!」
「ば、ばか。この体勢で暴れたら!」
リラックスしていた竜也は彼女の突然の動きに対応できず、その体を腕から離してしまう。当然、支えを無くした奈々花の体は自由落下の体勢へと入る。
まずったという認識はあった。でも、それは自分が望んだことと奈々花は諦め、数瞬後に来るであろう痛みに備えて強く瞳を閉じた。
しかし、そんな状況をむざむざと許すような竜也ではない。一瞬で脳内をクリアにし、舌打ちをスイッチとして後方へと両足を蹴り上げ、前方へと飛び出した。そして、奈々花の体を空中で掴むと、自分の体がクッションになるように体制を入れ替え背中から地面へと倒れ込む。背中に感じる衝撃に一瞬視界が明滅するものの、すぐさま彼女を守るように頭を強く抱きしめた。
「いてて、大丈夫か。痛いとこねぇか奈々花?」
「う、うん。たぶん」
自身の奇行のせいで竜也に抱きしめられることは度々あったが、重力に引かれ自分の体重ごと密着する今の状況はいつも以上に彼を近くに感じて、頭がどうにかなりそうになる。
自分とは違う大きな体や筋肉の硬さ、徐々に早まる鼓動の音に奈々花は興奮を隠しきれず、感情が高まっていく。この感触に包まれていたい。この感触を自分だけの物にしたい。この力強さに滅茶苦茶にされて生きた証を刻み込まれたい。そんな欲望の渦が次から次へと湧き上がってくる。次第に彼女の意識とカルマは混ざり合い、何を考え何を口走っているのかさえわからなくなっていった。
「たっつー、タッツー。食べたい、食べたい」
「……あー、奈々花さん。最近じゃそういうの、カニバリズムって言うんだっけか? 流石にそれは遠慮して貰いたいんだが。じゃないと、またお前さんを捕まえないといけなくなる」
胸元から聞こえる奈々花の声と舌なめずりをする音に、竜也は顔をひきつらせながら諭すように声をかける。柔らかな彼の言葉に正気を取り戻した奈々花は、頭を抑える竜也の腕を弾き飛ばしながら急ぎ上半身を立て起こした。そして、慌てふためきながら弁明を始める。
しかし、この体勢だと座っている場所に重心がかかり、下半身を擦り付けることになるのだが、酷く取り乱している彼女にそれを気にする余裕は無かった。
「わ、わわわわわ、ごごごごごごめんたっつー。そ、そういう意味じゃないの、これはえっと、えっと」
「……それともう一つ。その位置で擦り付けるような行為も止めてくれると助かる。今度は俺が逮捕されかねん」
「ほぇ?」
間抜けな声を上げた奈々花は竜也の指摘どおりに下を向く。そこはちょうど彼のお腹より下ぐらいの場所で、彼女のお尻には何やら硬い感触が……
「!? わーわーわーわーわー! へ、変態変態変態変態変態へんたあぁぁぁぁぁぁぁいっ!!」
それが何なのか気付いてしまった奈々花は、極度のパニック状態となり大声を上げながら立ち上がる。そんな彼女に顔面蒼白する竜也も、声を荒げながら急いよく立ち上がった。町中で変態なんて言葉を連呼されたら男としてはたまったものではない。
「ば、ばか! 叫ぶな! 捕まる。マジで捕まっちまうから! だいたい、今のは生理現象ってやつで不可抗力だろうが!」
「未成年の体に興奮するとか十分変態だよ!」
「ああっ!? それが毎回毎回おっさんにいらんモーションかけてくるやつの台詞かぁ?」
「良いの! 私は良いの! タッツーが反応しちゃダメなの!」
「それ、言ってることめちゃくちゃだぞお前!」
「良いの!」
こうして二人の買い物という名のデートは終わり、それを締めくくるように二人の罵声が辺り一帯へと響き渡る。その後、通報を受けた警官に竜也が警察手帳を見せるはめになったことは、言うまでもない。
長い間意識を失っていた奈々花は、ハンモックに揺られるような優しい感覚によって深い闇より目を覚ます。すると、目の前には愛しき人、大好きな竜也の凛々しい横顔があった。
「お、やっと目覚ましたか。倒れたんだよ、墓参りの途中でいきなりな。全くよ、だーからはしゃぎすぎるなって言っただろ?」
いつもより近い竜也の声、普段より近い彼の顔。不思議な距離感に違和感を覚える奈々花であったが、あまりに気持ちいい感覚に全てがどうでも良くなっていく。しかし、体が揺れる度に差し込む街灯の光がそれを良しとしない。
暗闇に差し込む一筋の眩しさに、ゆっくりと覚醒させられていく意識。それと同時に自分の状況に気がつき始めた奈々花は、頬を真っ赤に染め、わなわなと口を震わせ始めた。
「そっか、私……ごめん。これからは気をつけ……って、なんでこの体勢なのかなタッツー!」
「あ? なんでって、おぶらせようとしたら全く力入れねぇんだもんおまえ。そしたらお姫様抱っこするしかねぇだろ」
そう、今の彼女は竜也の腕の中で横抱き、つまりお姫様抱っこをされているのだ。
一部の女性からは好きな男性にされたいシチュエーションと声の上がるこの状況に、内心奈々花も嬉しくはある。だからと言って恥ずかしさが無くなるわけではない。むしろ、薬に頼っていた彼女にとって、このような状況は責め苦以外の何物でもなかったのである。
「いや、そうかも、そうかもしんないけどさぁ! だったら待つよね、ふつう待つよね! こんなこと恥ずかしくてできないよねぇ! っていうかさ、お姫様抱っこなんて言葉よく簡単に言えるね!」
顔を真っ赤にさせたまま竜也の言動を否定する奈々花。だからといって、彼の倫理観を疑っているわけではない。当然のように語られる彼の言葉によって、自分の状況がはっきりと認識させられていくことを彼女は拒絶したかったのだ。
「そうは言ってもなぁ。これでも、三十分待ったんだぞ」
「三十分って……い、今何時!?」
「ん、たぶん七時ぐらいじゃないか?」
「えっと、確かお墓に着いたのが五時ぐらいで、それから三十分の三十分。それが六時ってことは……い、一時間もこの体勢なわけ!?」
「あー、考えてなかったけどそういうことになるか」
一切の動揺なく理路整然と話を進める竜也の姿に、何でそんなに冷静でいられるのと奈々花の心は切なさを増していく。だが、極度の負担は怒りとなり、竜也だけ恥ずかしくないのはずるいという感情を彼女に呼び起こさせた。
「タッツー……重く……ない、の?」
「ああ、特に問題はないぞ。そういうのってやっぱり気にするのな」
「……そりゃ……一応」
「そうだな。首に腕を回してもうちょっと密着してもらえると楽ではあるかな」
「み、密着!?」
答えにくいであろう質問を選び、回答次第ではけなしてやろうと考えていた奈々花であったが、予想外の彼の言葉に逆に追い詰められてしまう。そして、目の前の彼が下心で言ってるわけじゃないとわかっているのに、いやらしいことのように思ってしまう自分の矮小な感性が、奈々花の胸を更に強く締め付けた。
やっぱりもうダメ! このままじゃ心臓が止まっちゃう! と遂に限界を迎えた奈々花の感情は暴走を始め、駄々をこねる子供のように体を揺らして暴れだす。
「お、降りる! 今すぐ降りる! 降りるから降ろして! タッツー降ろして!!」
「ば、ばか。この体勢で暴れたら!」
リラックスしていた竜也は彼女の突然の動きに対応できず、その体を腕から離してしまう。当然、支えを無くした奈々花の体は自由落下の体勢へと入る。
まずったという認識はあった。でも、それは自分が望んだことと奈々花は諦め、数瞬後に来るであろう痛みに備えて強く瞳を閉じた。
しかし、そんな状況をむざむざと許すような竜也ではない。一瞬で脳内をクリアにし、舌打ちをスイッチとして後方へと両足を蹴り上げ、前方へと飛び出した。そして、奈々花の体を空中で掴むと、自分の体がクッションになるように体制を入れ替え背中から地面へと倒れ込む。背中に感じる衝撃に一瞬視界が明滅するものの、すぐさま彼女を守るように頭を強く抱きしめた。
「いてて、大丈夫か。痛いとこねぇか奈々花?」
「う、うん。たぶん」
自身の奇行のせいで竜也に抱きしめられることは度々あったが、重力に引かれ自分の体重ごと密着する今の状況はいつも以上に彼を近くに感じて、頭がどうにかなりそうになる。
自分とは違う大きな体や筋肉の硬さ、徐々に早まる鼓動の音に奈々花は興奮を隠しきれず、感情が高まっていく。この感触に包まれていたい。この感触を自分だけの物にしたい。この力強さに滅茶苦茶にされて生きた証を刻み込まれたい。そんな欲望の渦が次から次へと湧き上がってくる。次第に彼女の意識とカルマは混ざり合い、何を考え何を口走っているのかさえわからなくなっていった。
「たっつー、タッツー。食べたい、食べたい」
「……あー、奈々花さん。最近じゃそういうの、カニバリズムって言うんだっけか? 流石にそれは遠慮して貰いたいんだが。じゃないと、またお前さんを捕まえないといけなくなる」
胸元から聞こえる奈々花の声と舌なめずりをする音に、竜也は顔をひきつらせながら諭すように声をかける。柔らかな彼の言葉に正気を取り戻した奈々花は、頭を抑える竜也の腕を弾き飛ばしながら急ぎ上半身を立て起こした。そして、慌てふためきながら弁明を始める。
しかし、この体勢だと座っている場所に重心がかかり、下半身を擦り付けることになるのだが、酷く取り乱している彼女にそれを気にする余裕は無かった。
「わ、わわわわわ、ごごごごごごめんたっつー。そ、そういう意味じゃないの、これはえっと、えっと」
「……それともう一つ。その位置で擦り付けるような行為も止めてくれると助かる。今度は俺が逮捕されかねん」
「ほぇ?」
間抜けな声を上げた奈々花は竜也の指摘どおりに下を向く。そこはちょうど彼のお腹より下ぐらいの場所で、彼女のお尻には何やら硬い感触が……
「!? わーわーわーわーわー! へ、変態変態変態変態変態へんたあぁぁぁぁぁぁぁいっ!!」
それが何なのか気付いてしまった奈々花は、極度のパニック状態となり大声を上げながら立ち上がる。そんな彼女に顔面蒼白する竜也も、声を荒げながら急いよく立ち上がった。町中で変態なんて言葉を連呼されたら男としてはたまったものではない。
「ば、ばか! 叫ぶな! 捕まる。マジで捕まっちまうから! だいたい、今のは生理現象ってやつで不可抗力だろうが!」
「未成年の体に興奮するとか十分変態だよ!」
「ああっ!? それが毎回毎回おっさんにいらんモーションかけてくるやつの台詞かぁ?」
「良いの! 私は良いの! タッツーが反応しちゃダメなの!」
「それ、言ってることめちゃくちゃだぞお前!」
「良いの!」
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