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第十五話 心配
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「それで、先輩。これからどうするんすか?」
稲美の責め苦を回避するため強引に外へと飛び出した竜也であったが、当然これからの方針など何一つ決まっておらず内心途方に暮れていた。このまま適当にぶらついた所で成果は上がらないであろうし、何かしらの方針は必要であろう。
それならと、竜也は刑事のお約束、理由付けにも使った足で稼ぐという方法に出ることにした。闇雲に動くぐらいなら、総当たりでも何でも範囲を絞ってしまったほうが良いと彼は考えたのである。
「そうだな……とりあえず、被害者の通ってた店でも片っ端に当たるか」
「片っ端って、いったいいくつあると思ってんすか! それにですよ、勝手にそんなことしたらまた上から目付けられますって」
奈々花の件もそうだが、普段から竜也は自分勝手な行動を取る傾向にあり、その行動力は同僚や部下からは一目置かれているものの、上の人間からの心象は非常に悪いというか、最悪だった。しかし、毎度のように竜也がそれなりの成果を上げてしまっていることからお偉方もきつくは言えず、事ある毎に嫌がらせまがいの制裁を彼に加えてくるのである。
「上等。座ってるだけの置物に気使って刑事なんてやってられるか。店の名前と場所ぐらい頭に入ってるだろ?」
「あー、それが僕を連れてきた理由なんすね」
ただ、彼のやり方はロートルで物覚えも良い方ではない。悪く言えば脳筋であり、コンビのような存在である松木も度々苦労をかけられているのだ。今回も例に漏れず、頼りきりな先輩の態度にげんなりとした表情を松木は浮かべるのだった。
「それよりも、さっきからスマホの画面ばっか見つめてどうしたんすか? 市民の見本になるべき警察官が歩きスマホだなんて、良くないっすよ?」
「いや……その、なっ」
獅子上署を出てからというもの、右手に握ったスマホをひっきりなしに竜也は動かしていた。機械音痴の彼にしては珍しい行動なのだが、松木の指摘はもっともである。そんな彼の発言に竜也は言葉を詰まらせてしまった。
何故、竜也がこんな行動をとっているのかというと、プリズン絡みの人間に異変が起きていることに彼は気が気でいられなかったのだ。
プリズンの関係者と言えば奈々花にも被害が及ぶ可能性がある。そう考えると今すぐにでも彼女の安否を確認したい衝動に駆られる竜也。
しかし、今日は朝からバイトだと聞いているし、仕事中なら迷惑がかかるだろう。それに、電話に出られたら出られたで彼女を心配してるのがバレバレでこちらが良い気がしない。そんなジレンマに苛まれていたため、竜也はスマホをじーっと見つめていたのである。
だが、そんな彼の姿も、松木からすれば操作に戸惑うおっさんにしか見えなかったのだ。
「もしかして、まーだ使い方覚えてないんすか? 先輩ホント機械には弱いっすね、呆れるぐらいに。わからないなら僕が見まっすよ?」
「何でもねぇから気にすんな……って、ちけぇ、ちけぇから離れろ!」
親切半分、からかい半分でスマホを覗き込もうとしてくる松木の顔を竜也は右手で押し返し、黙ってスマホをポケットへと仕舞い込んだ。
気にしなくてもあいつは大丈夫だ。そう思い込もうとした竜也であったが、それでも奈々花のことが心配で心配で仕方がなく、気難しい表情を浮かべながら人混みの中を歩いていく。
それから、ビル街を歩くこと三分、何やら目の前に人だかりができていることに松木は気がついた。
「先輩、なんかあそこ騒がしくないっすか?」
「あん?」
松木の指差す方向へと竜也が顔を向けると、確かに何かを取り囲むように人だかりができていた。
こういう時は大抵何かのトラブルだ。そう思い、瞳を凝らしながら竜也は目の前の集団へと近づいていく。ゆっくりと近づく人混みの中、その中心に見覚えのある姿を彼は発見した。
「なな、か!」
「へっ、せ、先輩!」
少女の名を呼ぶと共に竜也は走り出していた。そう、道通りを塞ぐほどの見物人に囲まれていたのは、不審者に追われ道端で力尽きた獅堂奈々花だったのである。
険しい表情で駆けつける竜也は、一心不乱に人混みをかき分け野次馬をかき分け、奈々花の目の前へと辿り着くと同時に抱き起こし、肩に手を当て彼女の体を大きく揺さぶる。
「おい! 奈々花! 起きろ! 奈々花!」
「あ……タッツー。タッツーだぁ」
聞き覚えのある落ち着く声と、頼りがいのある大きな手の平の感触に、奈々花は閉じていた瞳を薄く開け、呆けた表情で大切な人の名前を呼ぶ。しかし、次の瞬間には彼女の顔はぐしゃっと歪み、瞳からは大きな涙が溢れ出していた。
その表情に胸を痛めながらも彼女の全身を軽く見回した竜也は、大きな怪我が無いことを確認し瞳を閉じて小さなため息を吐く。それと同時に上半身を襲う衝撃、竜也はそれに体勢を崩しそうになったものの、すんでのところで踏みとどまった。突然の出来事に何事かと瞳を開けると、彼の胸元には震える奈々花が抱きついていた。
「たっつー、たっつー。こわかった、こわかったよぉ!」
「お、なな、おま、こんなところで」
事件の中、あまりに衝撃的な出来事に見舞われパニックを起こし、被害者やその関係者が泣きじゃくったり怒り出すことは多々ある。そういった場面に数多く出くわしている竜也ではあったが、町中で未成年の女の子に抱きつかれるような事態はこれが初めてだった。
それもあって、奈々花の突然の行動に始めこそ戸惑う竜也であったが、泣き声を聞く内に父性のようなものが芽生え始め、震える体を優しく強く抱きしめていく。
こう言うと何か誤解を生みそうだが彼女を抱きしめること、それ自体はよくあることで何も問題は無い。そっちに問題は無いのだが、俺たちに好奇の目を向けてくる野次馬の視線が正直痛い。というのが今の竜也の心境だった。
稲美の責め苦を回避するため強引に外へと飛び出した竜也であったが、当然これからの方針など何一つ決まっておらず内心途方に暮れていた。このまま適当にぶらついた所で成果は上がらないであろうし、何かしらの方針は必要であろう。
それならと、竜也は刑事のお約束、理由付けにも使った足で稼ぐという方法に出ることにした。闇雲に動くぐらいなら、総当たりでも何でも範囲を絞ってしまったほうが良いと彼は考えたのである。
「そうだな……とりあえず、被害者の通ってた店でも片っ端に当たるか」
「片っ端って、いったいいくつあると思ってんすか! それにですよ、勝手にそんなことしたらまた上から目付けられますって」
奈々花の件もそうだが、普段から竜也は自分勝手な行動を取る傾向にあり、その行動力は同僚や部下からは一目置かれているものの、上の人間からの心象は非常に悪いというか、最悪だった。しかし、毎度のように竜也がそれなりの成果を上げてしまっていることからお偉方もきつくは言えず、事ある毎に嫌がらせまがいの制裁を彼に加えてくるのである。
「上等。座ってるだけの置物に気使って刑事なんてやってられるか。店の名前と場所ぐらい頭に入ってるだろ?」
「あー、それが僕を連れてきた理由なんすね」
ただ、彼のやり方はロートルで物覚えも良い方ではない。悪く言えば脳筋であり、コンビのような存在である松木も度々苦労をかけられているのだ。今回も例に漏れず、頼りきりな先輩の態度にげんなりとした表情を松木は浮かべるのだった。
「それよりも、さっきからスマホの画面ばっか見つめてどうしたんすか? 市民の見本になるべき警察官が歩きスマホだなんて、良くないっすよ?」
「いや……その、なっ」
獅子上署を出てからというもの、右手に握ったスマホをひっきりなしに竜也は動かしていた。機械音痴の彼にしては珍しい行動なのだが、松木の指摘はもっともである。そんな彼の発言に竜也は言葉を詰まらせてしまった。
何故、竜也がこんな行動をとっているのかというと、プリズン絡みの人間に異変が起きていることに彼は気が気でいられなかったのだ。
プリズンの関係者と言えば奈々花にも被害が及ぶ可能性がある。そう考えると今すぐにでも彼女の安否を確認したい衝動に駆られる竜也。
しかし、今日は朝からバイトだと聞いているし、仕事中なら迷惑がかかるだろう。それに、電話に出られたら出られたで彼女を心配してるのがバレバレでこちらが良い気がしない。そんなジレンマに苛まれていたため、竜也はスマホをじーっと見つめていたのである。
だが、そんな彼の姿も、松木からすれば操作に戸惑うおっさんにしか見えなかったのだ。
「もしかして、まーだ使い方覚えてないんすか? 先輩ホント機械には弱いっすね、呆れるぐらいに。わからないなら僕が見まっすよ?」
「何でもねぇから気にすんな……って、ちけぇ、ちけぇから離れろ!」
親切半分、からかい半分でスマホを覗き込もうとしてくる松木の顔を竜也は右手で押し返し、黙ってスマホをポケットへと仕舞い込んだ。
気にしなくてもあいつは大丈夫だ。そう思い込もうとした竜也であったが、それでも奈々花のことが心配で心配で仕方がなく、気難しい表情を浮かべながら人混みの中を歩いていく。
それから、ビル街を歩くこと三分、何やら目の前に人だかりができていることに松木は気がついた。
「先輩、なんかあそこ騒がしくないっすか?」
「あん?」
松木の指差す方向へと竜也が顔を向けると、確かに何かを取り囲むように人だかりができていた。
こういう時は大抵何かのトラブルだ。そう思い、瞳を凝らしながら竜也は目の前の集団へと近づいていく。ゆっくりと近づく人混みの中、その中心に見覚えのある姿を彼は発見した。
「なな、か!」
「へっ、せ、先輩!」
少女の名を呼ぶと共に竜也は走り出していた。そう、道通りを塞ぐほどの見物人に囲まれていたのは、不審者に追われ道端で力尽きた獅堂奈々花だったのである。
険しい表情で駆けつける竜也は、一心不乱に人混みをかき分け野次馬をかき分け、奈々花の目の前へと辿り着くと同時に抱き起こし、肩に手を当て彼女の体を大きく揺さぶる。
「おい! 奈々花! 起きろ! 奈々花!」
「あ……タッツー。タッツーだぁ」
聞き覚えのある落ち着く声と、頼りがいのある大きな手の平の感触に、奈々花は閉じていた瞳を薄く開け、呆けた表情で大切な人の名前を呼ぶ。しかし、次の瞬間には彼女の顔はぐしゃっと歪み、瞳からは大きな涙が溢れ出していた。
その表情に胸を痛めながらも彼女の全身を軽く見回した竜也は、大きな怪我が無いことを確認し瞳を閉じて小さなため息を吐く。それと同時に上半身を襲う衝撃、竜也はそれに体勢を崩しそうになったものの、すんでのところで踏みとどまった。突然の出来事に何事かと瞳を開けると、彼の胸元には震える奈々花が抱きついていた。
「たっつー、たっつー。こわかった、こわかったよぉ!」
「お、なな、おま、こんなところで」
事件の中、あまりに衝撃的な出来事に見舞われパニックを起こし、被害者やその関係者が泣きじゃくったり怒り出すことは多々ある。そういった場面に数多く出くわしている竜也ではあったが、町中で未成年の女の子に抱きつかれるような事態はこれが初めてだった。
それもあって、奈々花の突然の行動に始めこそ戸惑う竜也であったが、泣き声を聞く内に父性のようなものが芽生え始め、震える体を優しく強く抱きしめていく。
こう言うと何か誤解を生みそうだが彼女を抱きしめること、それ自体はよくあることで何も問題は無い。そっちに問題は無いのだが、俺たちに好奇の目を向けてくる野次馬の視線が正直痛い。というのが今の竜也の心境だった。
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