二人のナナ──鏡に映る私を演じ続けて

nana

文字の大きさ
1 / 6

第一話 「あの子、上手にナナをやってたよ」

しおりを挟む
久しぶりに、主友の一人と飲んだ。
駅前の安いチェーンの居酒屋。
禁煙席、焼き鳥、ハイボール。

互いに何もなかったふりで、
「元気してた?」「ええ感じやん」なんて言葉を投げ合って、
それでもあの頃の話が出るのは、二杯目あたり。

彼は笑いながら言った。

「あの子、上手にナナをやってたよ」



一瞬、意味がわからなかった。
でもすぐに気づいた。
「あの子」は、今、彼のそばにいる別の女の子のこと。
「ナナ」は──私のこと。

つまりあれは、役名やったんや。



「ナナ」って呼ばれるとき、
私はいつも、何かを“やらされてた”。

からしで顔をしかめる。
ラップの芯越しにキス芸をする。
炭酸を逆さに飲みながら実況する。
床に這いつくばって、ポテチを咥える。

“女としての価値を下げる演技”が、
「ナナ」というキャラの演技だった。



でも私は、それをただ耐えてたわけじゃない。
どこかで楽しんでいた。
見られている自分に“意味”を与えられている感じがして、
笑われることが、自分の存在証明みたいに思えてた。



だから彼の一言は、刺さった。

「ナナをやってた」

あの子の笑い方、断るときの顔、媚びる角度。
彼は懐かしむように語った。
まるで、“ナナ”という演目を再演した舞台の感想みたいに。



私も笑ったふりをした。
けれど、帰宅して洗面所の前に立ったとき、
鏡に映った自分を、まっすぐ見られなかった。



今もまだ、
「ナナ」は私の中にいる。
しかも、私よりも上手に“私”を動かしている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

真面目な女性教師が眼鏡を掛けて誘惑してきた

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
仲良くしていた女性達が俺にだけ見せてくれた最も可愛い瞬間のほっこり実話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アルファポリスであなたの良作を1000人に読んでもらうための25の技

MJ
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスは書いた小説を簡単に投稿でき、世間に公開できる素晴らしいサイトです。しかしながら、アルファポリスに小説を公開すれば必ずしも沢山の人に読んでいただけるとは限りません。 私はアルファポリスで公開されている小説を読んでいて気づいたのが、面白いのに埋もれている小説が沢山あるということです。 すごく丁寧に真面目にいい文章で、面白い作品を書かれているのに評価が低くて心折れてしまっている方が沢山いらっしゃいます。 そんな方に言いたいです。 アルファポリスで評価低いからと言って心折れちゃいけません。 あなたが良い作品をちゃんと書き続けていればきっとこの世界を潤す良いものが出来上がるでしょう。 アルファポリスは本とは違う媒体ですから、みんなに読んでもらうためには普通の本とは違った戦略があります。 書いたまま放ったらかしではいけません。 自分が良いものを書いている自信のある方はぜひここに書いてあることを試してみてください。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

熟女教師に何度も迫られて…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
二度と味わえない体験をした実話中心のショート・ショート集です

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...