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第一話 「あの子、上手にナナをやってたよ」
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久しぶりに、主友の一人と飲んだ。
駅前の安いチェーンの居酒屋。
禁煙席、焼き鳥、ハイボール。
互いに何もなかったふりで、
「元気してた?」「ええ感じやん」なんて言葉を投げ合って、
それでもあの頃の話が出るのは、二杯目あたり。
彼は笑いながら言った。
「あの子、上手にナナをやってたよ」
⸻
一瞬、意味がわからなかった。
でもすぐに気づいた。
「あの子」は、今、彼のそばにいる別の女の子のこと。
「ナナ」は──私のこと。
つまりあれは、役名やったんや。
⸻
「ナナ」って呼ばれるとき、
私はいつも、何かを“やらされてた”。
からしで顔をしかめる。
ラップの芯越しにキス芸をする。
炭酸を逆さに飲みながら実況する。
床に這いつくばって、ポテチを咥える。
“女としての価値を下げる演技”が、
「ナナ」というキャラの演技だった。
⸻
でも私は、それをただ耐えてたわけじゃない。
どこかで楽しんでいた。
見られている自分に“意味”を与えられている感じがして、
笑われることが、自分の存在証明みたいに思えてた。
⸻
だから彼の一言は、刺さった。
「ナナをやってた」
あの子の笑い方、断るときの顔、媚びる角度。
彼は懐かしむように語った。
まるで、“ナナ”という演目を再演した舞台の感想みたいに。
⸻
私も笑ったふりをした。
けれど、帰宅して洗面所の前に立ったとき、
鏡に映った自分を、まっすぐ見られなかった。
⸻
今もまだ、
「ナナ」は私の中にいる。
しかも、私よりも上手に“私”を動かしている。
駅前の安いチェーンの居酒屋。
禁煙席、焼き鳥、ハイボール。
互いに何もなかったふりで、
「元気してた?」「ええ感じやん」なんて言葉を投げ合って、
それでもあの頃の話が出るのは、二杯目あたり。
彼は笑いながら言った。
「あの子、上手にナナをやってたよ」
⸻
一瞬、意味がわからなかった。
でもすぐに気づいた。
「あの子」は、今、彼のそばにいる別の女の子のこと。
「ナナ」は──私のこと。
つまりあれは、役名やったんや。
⸻
「ナナ」って呼ばれるとき、
私はいつも、何かを“やらされてた”。
からしで顔をしかめる。
ラップの芯越しにキス芸をする。
炭酸を逆さに飲みながら実況する。
床に這いつくばって、ポテチを咥える。
“女としての価値を下げる演技”が、
「ナナ」というキャラの演技だった。
⸻
でも私は、それをただ耐えてたわけじゃない。
どこかで楽しんでいた。
見られている自分に“意味”を与えられている感じがして、
笑われることが、自分の存在証明みたいに思えてた。
⸻
だから彼の一言は、刺さった。
「ナナをやってた」
あの子の笑い方、断るときの顔、媚びる角度。
彼は懐かしむように語った。
まるで、“ナナ”という演目を再演した舞台の感想みたいに。
⸻
私も笑ったふりをした。
けれど、帰宅して洗面所の前に立ったとき、
鏡に映った自分を、まっすぐ見られなかった。
⸻
今もまだ、
「ナナ」は私の中にいる。
しかも、私よりも上手に“私”を動かしている。
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