二人のナナ──鏡に映る私を演じ続けて

nana

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第2話 「動画の中のナナに嫉妬してる自分がいた」

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きっかけは、クラウドの整理だった。
何年も放置していた古いスマホのバックアップ。
フォルダの中に、名前すらつけられていない短い動画がいくつも並んでいた。

タップすると、すぐに再生が始まる。

画面に映ったのは、笑ってる私だった。



白Tにデニム、スッピン。
部屋の片隅で、わさびを舐めてる。

「うわ、やば…」
思わず声が出た。
でも“やばい”のは辛さのせいじゃなくて、
笑い方が、あまりにも“ナナすぎた”から。



媚びたわけじゃない。
媚び“慣れた”顔。
演じてるんやない。
演じてることに、すでに慣れきってる顔。

涙目になりながら、
「うん…意外とイケます」って言ってるその声が、
あまりにも自然すぎて──
今の私よりも、“演技が上手い私”が、そこにいた。



嫉妬した。
過去の自分に、心のどこかで負けた気がした。

今の私は、
あんなにうまく笑えない。
“ナナとしての私”に、もはや追いつけない。



それから、何本か立て続けに動画を再生した。

炭酸を逆さに飲む私。
氷を服の中に落とされて歯を食いしばる私。
からしを額に搾られ、「これは涙ちゃう、感動や」と言う私。

どれも“記録”のはずなのに、
まるで他人の演技を観ているようだった。



あのときの私は、
どんな気持ちで演じてたんやろ。
ほんまに自分で選んでたんやろか。
それとも、
“ナナとして笑うこと”に身体が勝手に馴染んでしまってたんやろか。



今、あの動きを真似しようとしても、できない。
あの角度の笑顔も、
あの声のトーンも、
“もう自分のものじゃない”気がした。



でもだからこそ、
私は、動画の中のナナに嫉妬してる。

自分なのに、自分じゃない。
演じてたのに、演じきれてた。
だから悔しくて、愛しくて、怖い。
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