二人のナナ──鏡に映る私を演じ続けて

nana

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第3話 「台詞がなくても、動きは覚えていた」

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人に見られてないはずのときほど、
ナナは、ふと現れる。

たとえば、冷蔵庫を開けた瞬間。
たとえば、靴を脱いで振り向いた拍子。
誰もいない部屋で、私が何かを落としたとき──

私は無意識に、
**「ナナらしい拾い方」**をしてしまう。



膝を折る角度。
首の傾け方。
つま先の揃え方。

まるでカメラがあるかのように、
“可愛げ”を一滴もこぼさない仕草をしている。

そして拾い終わったあと、
ぞっとする。



誰も見てないのに、
私はなぜ、
“見られる用”の動きをした?



命令されてないのに、
私はなぜ、
“従う側の身体”で反応した?



演技って、
演じる対象があってはじめて成立すると思ってた。

でも違った。

身体に覚え込まされた演技は、
観客がいなくても発動する。



あの頃、私は“命令に従っていた”つもりだった。
でもそれはもうとっくに、
「従うふり」じゃなくて「従う仕草の習得」になってた。

笑うときの角度、
振り返るタイミング、
何かを断るときの“ためらい演技”。

それらは今、
演出家のいないステージで勝手に再生されている。



演技には台詞がある。
でも“ナナの演技”は、
台詞がなくても成立する。

沈黙のなかでこそ、
ナナは一番自然に振る舞ってしまう。



そのとき私はようやく知った。

ナナという“キャラ”は、
記憶じゃなくて、
私の身体そのものに棲みついてる。
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