ナナはなぜ壊れたのか③——少女が、少女を脱ぎ捨てるまで

nana

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第69話 「もっと、近づきたくて」

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秋が、
深まっていく。

制服の上に、
カーディガンを羽織る季節。

放課後、
私たちは、
校門の前で待ち合わせて、
一緒に歩いて帰るのが、
自然になっていた。

今日は、
彼の部活が早く終わったから、
少しだけ遠回りして帰ろう、ということになった。

街灯がポツポツ灯り始める時間。
人通りの少ない公園を抜ける道。

誰もいないブランコが、
冷たい風にきい、と鳴っていた。

ふたり並んで歩く。
少し、緊張する。

彼も、
少しだけ、
緊張しているように見えた。

「ちょっと、座ろか。」

公園のベンチに、
ふたり並んで腰掛ける。

静かな夜だった。

遠くで車の音。
誰かの自転車のベル。

それだけ。

私たちは、
何も言わずに座っていた。

でも、
沈黙は、怖くなかった。

私は、
そっと、彼の方に寄った。

彼も、
ゆっくりと腕を伸ばして、
私の肩を引き寄せた。

──もっと、近づきたい。

心の奥で、
そう思った。

彼のシャツ越しに伝わる体温。

そのぬくもりに、
私は、
目を閉じた。

何も言わないまま、
彼の肩に頭を預ける。

世界が、
ふたりだけになったような気がした。

時間が止まればいいのに、って、
本気で思った。

彼の指先が、
おそるおそる、
私の髪に触れた。

撫でる、というより、
そっと確かめるような、
ぎこちない手つき。

それが、
たまらなく愛しかった。

私は、
小さく笑った。

そして、
自分から、
そっと彼の顔を仰ぎ見た。

彼の目も、
私を見ていた。

夜風が吹き抜けた。

私は、
ほんの少しだけ背伸びして、
彼の唇に、
そっと、触れた。

初めてのキス。

柔らかくて、
あたたかくて、
少しだけ震えていた。

私も、
彼も。

何も上手くできなくていい。

ぎこちなくて、
不器用でもいい。

ただ、
こうして、
誰かとひとつになりたいと、
心から思えたことが、
嬉しかった。

彼が、
そっと私を抱きしめた。

私は、
何も言わずに、
その腕の中に沈んだ。

誰かのものになりたくて。
彼に、なりたくて。

私は、
今ここで、
静かに、
自分の一部を差し出した。

秋の夜の、
小さなベンチの上で。

ふたりだけの、
世界の中で。

──つづく。
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