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第69話 「もっと、近づきたくて」
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秋が、
深まっていく。
制服の上に、
カーディガンを羽織る季節。
放課後、
私たちは、
校門の前で待ち合わせて、
一緒に歩いて帰るのが、
自然になっていた。
今日は、
彼の部活が早く終わったから、
少しだけ遠回りして帰ろう、ということになった。
街灯がポツポツ灯り始める時間。
人通りの少ない公園を抜ける道。
誰もいないブランコが、
冷たい風にきい、と鳴っていた。
ふたり並んで歩く。
少し、緊張する。
彼も、
少しだけ、
緊張しているように見えた。
「ちょっと、座ろか。」
公園のベンチに、
ふたり並んで腰掛ける。
静かな夜だった。
遠くで車の音。
誰かの自転車のベル。
それだけ。
私たちは、
何も言わずに座っていた。
でも、
沈黙は、怖くなかった。
私は、
そっと、彼の方に寄った。
彼も、
ゆっくりと腕を伸ばして、
私の肩を引き寄せた。
──もっと、近づきたい。
心の奥で、
そう思った。
彼のシャツ越しに伝わる体温。
そのぬくもりに、
私は、
目を閉じた。
何も言わないまま、
彼の肩に頭を預ける。
世界が、
ふたりだけになったような気がした。
時間が止まればいいのに、って、
本気で思った。
彼の指先が、
おそるおそる、
私の髪に触れた。
撫でる、というより、
そっと確かめるような、
ぎこちない手つき。
それが、
たまらなく愛しかった。
私は、
小さく笑った。
そして、
自分から、
そっと彼の顔を仰ぎ見た。
彼の目も、
私を見ていた。
夜風が吹き抜けた。
私は、
ほんの少しだけ背伸びして、
彼の唇に、
そっと、触れた。
初めてのキス。
柔らかくて、
あたたかくて、
少しだけ震えていた。
私も、
彼も。
何も上手くできなくていい。
ぎこちなくて、
不器用でもいい。
ただ、
こうして、
誰かとひとつになりたいと、
心から思えたことが、
嬉しかった。
彼が、
そっと私を抱きしめた。
私は、
何も言わずに、
その腕の中に沈んだ。
誰かのものになりたくて。
彼に、なりたくて。
私は、
今ここで、
静かに、
自分の一部を差し出した。
秋の夜の、
小さなベンチの上で。
ふたりだけの、
世界の中で。
──つづく。
深まっていく。
制服の上に、
カーディガンを羽織る季節。
放課後、
私たちは、
校門の前で待ち合わせて、
一緒に歩いて帰るのが、
自然になっていた。
今日は、
彼の部活が早く終わったから、
少しだけ遠回りして帰ろう、ということになった。
街灯がポツポツ灯り始める時間。
人通りの少ない公園を抜ける道。
誰もいないブランコが、
冷たい風にきい、と鳴っていた。
ふたり並んで歩く。
少し、緊張する。
彼も、
少しだけ、
緊張しているように見えた。
「ちょっと、座ろか。」
公園のベンチに、
ふたり並んで腰掛ける。
静かな夜だった。
遠くで車の音。
誰かの自転車のベル。
それだけ。
私たちは、
何も言わずに座っていた。
でも、
沈黙は、怖くなかった。
私は、
そっと、彼の方に寄った。
彼も、
ゆっくりと腕を伸ばして、
私の肩を引き寄せた。
──もっと、近づきたい。
心の奥で、
そう思った。
彼のシャツ越しに伝わる体温。
そのぬくもりに、
私は、
目を閉じた。
何も言わないまま、
彼の肩に頭を預ける。
世界が、
ふたりだけになったような気がした。
時間が止まればいいのに、って、
本気で思った。
彼の指先が、
おそるおそる、
私の髪に触れた。
撫でる、というより、
そっと確かめるような、
ぎこちない手つき。
それが、
たまらなく愛しかった。
私は、
小さく笑った。
そして、
自分から、
そっと彼の顔を仰ぎ見た。
彼の目も、
私を見ていた。
夜風が吹き抜けた。
私は、
ほんの少しだけ背伸びして、
彼の唇に、
そっと、触れた。
初めてのキス。
柔らかくて、
あたたかくて、
少しだけ震えていた。
私も、
彼も。
何も上手くできなくていい。
ぎこちなくて、
不器用でもいい。
ただ、
こうして、
誰かとひとつになりたいと、
心から思えたことが、
嬉しかった。
彼が、
そっと私を抱きしめた。
私は、
何も言わずに、
その腕の中に沈んだ。
誰かのものになりたくて。
彼に、なりたくて。
私は、
今ここで、
静かに、
自分の一部を差し出した。
秋の夜の、
小さなベンチの上で。
ふたりだけの、
世界の中で。
──つづく。
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