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第72話 「視線に、気づいてしまう私」
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メイクを覚えてから、
世界が、
ほんの少しだけ変わった。
鏡のなかの私は、
昨日までの私じゃなかった。
まつ毛を上げる。
アイラインを引く。
リップを丁寧に塗る。
それだけで、
顔が変わった。
それだけで、
私は、
昨日より少し強くなれた気がした。
最初に気づいたのは、
女子たちの反応だった。
「ナナ、なんか今日かわいいやん!」
「なあなあ、どこのリップ使ってるん?」
そんな言葉を、
さらりと投げかけられた。
照れ隠しに笑いながら、
私は、
嬉しさを隠しきれなかった。
でも、
それだけじゃなかった。
廊下を歩くとき。
コンビニに立ち寄ったとき。
ふと、誰かの視線を感じることが増えた。
すれ違う男子。
知らない先輩たち。
たまたま目が合った見知らぬ人。
ほんの一瞬。
でも、
確かに私を、
見る視線。
私は、
そのひとつひとつに、
心がざわめいた。
怖いわけじゃなかった。
むしろ、
甘かった。
誰かに見られることで、
私は、
確かに、
存在している気がした。
もっと見られたい。
もっと気づかれたい。
そんな欲望が、
心の奥で、
静かに、静かに育っていった。
制服の襟を直す仕草も。
歩くときの歩幅も。
ちょっとした視線の送り方も。
全部、
無意識に、
「見られる自分」を意識するようになった。
私は、
変わっていた。
でも、
それはきっと、
悪いことじゃないと思った。
誰かの目に映ることで、
私は、
初めて自分自身を感じられた。
秋の終わり。
乾いた風が、
通学路を駆け抜けていく。
私は、
スカートの裾を押さえながら、
そっと微笑んだ。
誰にも気づかれないように。
でも、
誰かに気づかれたくて。
そんな矛盾を、
私は、
今日も抱きしめて、
歩いていた。
──つづく。
世界が、
ほんの少しだけ変わった。
鏡のなかの私は、
昨日までの私じゃなかった。
まつ毛を上げる。
アイラインを引く。
リップを丁寧に塗る。
それだけで、
顔が変わった。
それだけで、
私は、
昨日より少し強くなれた気がした。
最初に気づいたのは、
女子たちの反応だった。
「ナナ、なんか今日かわいいやん!」
「なあなあ、どこのリップ使ってるん?」
そんな言葉を、
さらりと投げかけられた。
照れ隠しに笑いながら、
私は、
嬉しさを隠しきれなかった。
でも、
それだけじゃなかった。
廊下を歩くとき。
コンビニに立ち寄ったとき。
ふと、誰かの視線を感じることが増えた。
すれ違う男子。
知らない先輩たち。
たまたま目が合った見知らぬ人。
ほんの一瞬。
でも、
確かに私を、
見る視線。
私は、
そのひとつひとつに、
心がざわめいた。
怖いわけじゃなかった。
むしろ、
甘かった。
誰かに見られることで、
私は、
確かに、
存在している気がした。
もっと見られたい。
もっと気づかれたい。
そんな欲望が、
心の奥で、
静かに、静かに育っていった。
制服の襟を直す仕草も。
歩くときの歩幅も。
ちょっとした視線の送り方も。
全部、
無意識に、
「見られる自分」を意識するようになった。
私は、
変わっていた。
でも、
それはきっと、
悪いことじゃないと思った。
誰かの目に映ることで、
私は、
初めて自分自身を感じられた。
秋の終わり。
乾いた風が、
通学路を駆け抜けていく。
私は、
スカートの裾を押さえながら、
そっと微笑んだ。
誰にも気づかれないように。
でも、
誰かに気づかれたくて。
そんな矛盾を、
私は、
今日も抱きしめて、
歩いていた。
──つづく。
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