“新しい主”が欲しかった──ナナを真似る女、飼いたがる男

nana

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第12話 「触れる、ナナとナナ」

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誰のものでもない夜だった。
主からも、命令からも、逸れた場所で、
私と彼女はただ、“ナナという記憶”に互いを重ねていた。

言葉の端々に、主の真似があった。
指示のトーン、言葉の選び方、
「上手にできたね」と、笑うタイミングまで。

でも、それが彼女自身の“やり方”にもなっていた。
模倣と、オリジナルの境界が、
いつのまにか曖昧になっていた。

「ナナさん」
彼女が囁いた。
「さっきのポーズ、ほんとにキレイでした」
「私より、“ナナ”でした」

その言葉に、少しだけ泣きそうになった。
褒められたわけじゃない。
“ナナでいられること”を、認めてもらえた気がしたから。

ふと、手が触れた。
お互いの手の甲が、ソファのすき間で、そっとぶつかった。

彼女が、離さなかった。
私も、離さなかった。

そのまま、言葉が消えた。
空気だけが、ゆっくり流れていた。

「触れてもいいですか」
彼女が言った。
私は何も言わず、頷いた。

手のひらが、私の頬に沿う。
優しくて、くすぐったくて、
でもどこか、罪深い温度だった。

「…冷たい」
彼女が言った。

「あなたの手のほうが、あったかいよ」
私は返した。

唇が、近づいた。
命令ではなかった。
誰のためでもなかった。

ただ、“ナナ”という傷を持つふたりが、
お互いの皮膚の記憶を、確かめ合うように。

一瞬、何かが重なり、
何かが流れ込んだ。
優しさでも愛でもない、
“理解”だけが、そこにあった。

終わったあと、ふたりとも黙っていた。
でも、変に気まずくはならなかった。

私は思った。
これはたぶん、プレイでも恋でもない。
“傷の手入れ”に近かったのかもしれない。

ふたりでひとつの毛布をかぶりながら、
彼女がぽつりと言った。

「これ、主さんに言ったら怒られますかね」

私は少し考えて、こう答えた。

「…見てない夜くらい、
 自分を抱いても、ええんちゃう?」

そして私はそっと、彼女の髪を撫でた。
その動作が、
かつて主にされて、
いちばん心が揺れた仕草だったと、思い出しながら。

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