“新しい主”が欲しかった──ナナを真似る女、飼いたがる男

nana

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第13話 「まだ、触れていていいですか」

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毛布の下で、彼女の指先が私の手を探っていた。
さっきのキスのことは、ふたりとも何も言わなかった。
でも、なかったことにはしなかった。

呼吸が浅くなっているのが、自分でもわかる。
心拍の音が静かな部屋に、うっすらとにじみ出る。
触れている面積は少ないのに、
どこか全身が、彼女に触れられているような気がしていた。

「ナナさん」
彼女の声は小さくて、少し震えていた。
私は返事をせずに、手を軽く握った。

それが、“続けていい”のサインになったことは、
お互いに、何も確認しなくても分かっていた。

「なんか…不思議ですね」
彼女が呟く。
「今、誰の命令でもないのに、
 自分でこうしてるのが…ちょっと怖い」

「うん」
私は短く答えた。
怖さと、安堵が、ゆっくり混ざっていく感覚。
指先が、肘に。
肘が、肩に。
そして、顔の輪郭へ。

「もっと、似せたいと思ってたんです。ナナさんに」
「でも今、触れてたら…“別でもいいかな”って思えてきて」

その言葉に、私は心のどこかがほどける音を聞いた。
誰かになりたくて頑張っていた彼女が、
今、自分に戻っていこうとしている。

「今夜だけ、ナナをおろしてもいい?」
私は訊いた。
彼女は頷いた。
「はい。私も、自分に戻ります」

それから、しばらくふたりは、
何も言わず、何もしなかった。
ただ寄り添って、
腕の角度を変えて、
ぴたりと肌の温度を確かめ合っていた。

命令のない夜。
ご褒美も、罰も、期待もなく、
ただ“ふたりの重さ”だけがある時間。

その重さが、
なぜだか嬉しかった。

私はふと、彼女の髪をなでながら言った。
「また主が呼んだら、
 ちゃんと“ナナ”に戻れるかな」

「大丈夫です。今夜のことは…誰にも言いません」
彼女はそう言って笑った。
それが、はじめて見る“彼女自身の笑顔”だった。

そのとき私は思った。

ふたりはきっと、
“命令されない夜”にこそ、
 一番ナナになってしまうのかもしれない。

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