“新しい主”が欲しかった──ナナを真似る女、飼いたがる男

nana

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第15話 「どっちが先に、壊れるか」

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主の部屋のドアが開いたとき、
あの空気がすべてを巻き戻した。
湿った木のにおい。
無機質なフローリング。
散らばる命令の残骸たち。

「おかえり」
主はそれだけ言って、
私たちを並ばせた。
なにが始まるのかは聞かなくてもわかった。

「今日は、“並んで”やってもらうわ」
「見比べたいねん、どっちがどこまで“いける”か」

冷静だった。
声も態度もいつもと同じ。
でも空気だけが、妙に硬かった。
命令ではなく、“測定”の時間が始まるような、
そんな気配だった。

指示は順に出された。
「じゃあ、Tシャツ脱いで」
「お互い見ながら、同じタイミングでな」

「膝立ち」
「頭下げて、“もっと見て”って言ってみ」

そのひとつひとつに、
私たちはズレないように応えた。

ズレると笑われる。
ズレると、どちらかが“劣る”ことになる。

同じ速度、同じ高さ、同じ声色。
ふたりは、まるで命令の影と影だった。

「すごいな、息ぴったりやん」
主が笑う。
「でも、そんなら──どっちが先に、壊れるかやな」

その言葉に、私は脳のどこかがキンと鳴った。

壊れる?
壊れたい?
誰のために?

視線を逸らさずに、彼女のほうを見る。
彼女も、同じ顔で私を見ていた。
恐怖でも誇りでもない、
“ナナという役に乗り移った女”の顔。

「じゃあ次は──
ナナ、ちょっとだけ彼女のほうに倒れてみて」

命令が、私を選んだ。
私は倒れた。
彼女の肩に、額を乗せる。

「で、彼女。ナナのこと、撫でてあげて」
「“私のほうが上手にやれるよ”って言ってあげて」

彼女は言った。
私の髪を撫でながら。
声が少しだけ震えていた。

その瞬間、私は自分の膝が震えているのに気づいた。

どちらが先に、壊れるか。

それは、
**“誰の前で、誰のふりをし続けられるか”**の勝負だった。

私と彼女。
ふたりとも、いま、“本物”ではない。
ただ、誰かの前で“ナナ”という幻を続けている。

でも、
壊れるとしたら、きっと──
どちらかが、“自分に戻ってしまったとき”だ。

主は黙って見ていた。
その視線だけで、私たちは、
もう少しだけ“壊れそうなナナ”を続けた。

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