“新しい主”が、私を欲しがる夜

nana

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【第5話】 「じゃあ、脱いだまま、録って」

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「今日は命令、ひとつだけ」
そう言って、彼女は缶ビールを指先で揺らした。
私の部屋、二度目の来訪。
コンビニで買った惣菜を並べたテーブルの上で、
彼女の声はいつもより静かだった。

「脱いで、録って。……自分で、スマホで」

私は一瞬、聞き返してしまった。
「……録るって、なにを?」

彼女は缶を一口飲んで、目も合わせずに言った。
「ナナ先輩が、ひとりで脱いでるとこ。
 触らんでええ。見せんでもええ。
 ただ、自分で録って、自分で送って」

彼女はそう言いながら、笑った。

「先輩って、“見られてるつもり”じゃないと、ほんまに脱がへんよな」

その言葉が、
まるで私の本能の裏側を撫でるように、ぬるく刺さった。

録画なんて、したことがなかった。
ひとりで脱ぐ姿なんて、ただの動作やと思ってた。

でもその夜、私はスマホを棚の上に置いて、
カメラを向けて、そっと録画ボタンを押した。

静かな部屋。
シャツのすれる音だけが、やけに大きい。

肩を抜き、キャミをめくり、
下着を指先でほどいていく。

誰も見てないはずなのに──
スマホの赤いライトが、まるで彼女の目みたいやった。

画面の向こうに、彼女の無言がずっとある気がして、
私は下着を脱ぎながら、顔をそらした。

録画終了。
たったそれだけのことで、
汗をかいていた。

送信ボタンを押すまでに、3時間かかった。
でも結局──押した。

理由なんて、あとづけでしかない。
もうそのときの私は、“従ってしまった自分”を
どうにか正当化したかっただけやった。

翌日。
待ち合わせて、カフェで向かい合ったとき、
彼女はなにも言わなかった。
動画のことに一切、触れなかった。

それが、いちばん、こわかった。

でも会話の途中で、ふいに彼女が言った。

「ナナってさ──」
一拍置いて、彼女は呼び方を変えた。

「…いや、ナナ先輩、って呼ぶの、そろそろやめてもいい?」

私はスプーンを持ったまま、動けなかった。

「なんで?」

「だって、“先輩”って、頼りにしてる人につけるもんやん。
 でも今のナナ、ちょっと違う気がして」

そう言って、彼女は笑った。

「今のナナって、頼られる側っていうより…
 甘えてくる顔してる」

ふざけた口調だったけど、
その言葉が、胸の内側を爪で引っかかれたみたいに、痛かった。

あの子が“ナナ先輩”をやめた日。
それは、私が“守られる立場”から、“飼われる立場”へ
落ちた日やった。

録画の命令よりも、
たったひとつの呼び方の変化の方が、
よっぽど支配的で、こたえた。
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