“新しい主”が、私を欲しがる夜

nana

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【第6話】 「そんな顔して、“命令されたかったん?”」

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あの子に“ナナ先輩”と呼ばれなくなって、数日が経った。

別に何も変わってないふりをした。
呼び方なんて、ただの言葉やし。
年齢も、立場も、これまで積み重ねてきた“上下関係”も、
ちょっとやそっとじゃ崩れへん。

──はずやった。

その日、私は先回りして彼女を待った。
約束の時間より10分早く、カフェに着いて、
いつもと違う髪型にして、
ちょっとだけ透けるトップスを着て、
座ったままスマホをいじるふりをした。

どうせ、また命令される。
なら先に、従ったふりして仕掛けてやろう。

私の中で、何かが逆流していた。

彼女は現れて、いつもの調子で「やっほ」と言ったあと、
私の顔と服装を見て、一瞬、目を細めた。

それから何も言わず、注文して戻ってきた彼女は、
コーヒーに口をつけながら、
私の目をまっすぐ見て、こう言った。

「…今日、命令されに来たん?」

私は咄嗟に笑ってみせた。
「え、なにそれ、違うし」

「うそ。
 その服、わざとやろ。
 “言われる前にやってきた私、賢いでしょ?”って顔してる」

彼女はそう言って、ふっと笑った。

「でもそれ、従ってるふりして、
 “主導権は私にある”ってアピールしてるだけやで」

図星だった。
一字一句、そのまま心に刺さった。

「ナナってさ」
彼女は、ゆっくりとストローをかき混ぜながら言った。

「従うことで安心して、
 逆らわないことで“支配されてない”って思い込むクセ、あるよな」

「……」

「わたし、それ見るの、けっこう好きやで」

彼女のその微笑みは、
包み込むようで、
でも、逃げ場を完全に塞ぐものだった。

そのあと、私は一言も命令されなかった。
代わりに、帰り際、彼女がこう言った。

「ナナ、今日、なにも言われんで残念やった?」

言い方はあくまで軽くて、
でも、その“軽さ”がいちばんエグかった。

私はうまく笑えず、
ただうつむいたまま首をふった。

「……別に」

でもほんとは、
言われなかったことが、いちばん効いた。

命令されることに慣れていた。
支配されることに怯えながら、
どこかで“求めて”いた。

その快感を“剥奪”されたとき、
私の中に残ったのは──
空っぽと、敗北感だった。

あの子は、命令なんかしなくても、
もう私の中に、“命令を待つ身体”を、
ちゃんと、育ててたんやと思う。
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