“新しい主”が、私を欲しがる夜

nana

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【第11話】 「ナナとして歩いてたのに、“シオリ”で返事してた」

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日曜の昼下がり、私は街を歩いていた。
ショッピングモール、人混み、まぶしい日差し。
Tシャツにジーンズ、サングラス──
いつもの“ナナ”の格好。
“ナナ”の顔。“ナナ”としての外出。

でも、その日私が返事をしたのは、“シオリ”としてだった。

彼女から来たLINEは、たった一言だった。

「シオリ、今どこ?」

ナナ宛ではなかった。
あきらかに“命令用の名前”だった。

でも私はすぐに返信した。

「駅前。ユニクロ入るとこ」

誰にも気づかれない場所で、
誰にも気づかれない“役”に、自然に入り込んでた。

それが、自分の意志かどうかなんて、もうどうでもよかった。

「じゃあ今から、“お願いしてる声”で10秒間だけ録音して。
 内容はなんでもいい。
 “撫でて”でも“叱って”でも、
 “ごめんなさい”でも、“してほしいこと”ならなんでも」

私は、立ち止まって、スマホを見つめた。

駅前。
通行人。
日常。

だけどその瞬間、
世界から“音”が消えた気がした。

ユニクロの隣のビルの影に入り込んで、
私はスマホを録音モードにした。

「……撫でて、ください……」
「ちゃんと、いい子にするから……」

誰かに聞かれたら終わりだと思いながら、
でもその“バレるかもしれない”リスクが、
逆に、興奮の芯になっていた。

録音を止めて、送る。
既読がすぐに返る。

「うん、今の声、めっちゃよかった」
「“ナナ”では絶対出せない声やった」

その返信を読んで、
私は自分の喉に、知らない熱が宿ってるのを感じた。

私は“ナナ”の顔で歩いてたのに、
“シオリ”の声で、彼女に褒められていた。

頭では混乱してた。
でも身体のどこかは、
“二人の自分”を生きることに、
少しずつ快感を覚え始めていた。

夜、ベッドに入ってから、私はふと想像した。

もしこの先、
「ナナ」も「シオリ」も
自分でコントロールできなくなったら──

彼女がその場で呼びたい名前を投げつけて、
私はそのたびに“人格”を切り替えるように返事していく。

命令される前に、“自分が誰なのか”を彼女に委ねる未来。

そんなの、ぞっとする。
でも、同じくらい──
美しいと思ってしまった。

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