“新しい主”が、私を欲しがる夜

nana

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【第17話】 「“あの人、いい趣味してますね”って言ったときの、あの目」

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昼下がり。
彼女とふたり、アイスコーヒーを飲みながら、
なんでもない日常の会話をしていた。

スマホをいじる手がふと止まったとき、
思い出したように私は口にした。

「昨日のDMの人、なんか…言い方やわらかくてさ」
「ちょっと落ち着いて、従えたっていうか」
「…いい趣味してるなって思った」

彼女は、ストローの氷を転がしながら、
にっこり笑った。

でもその目だけが、笑ってなかった。

「へえ、そっか」

そのひと言の温度が、
いつもより3℃くらい低かった。

私は、すぐに言葉を継いだ。

「いや、別にその人がいいとかじゃなくて、
 なんか、“扱いに慣れてる感”あって…」

「うん、だからええ趣味やなって思ったんやろ?」

「……」

会話が止まった。
なのに、視線だけは降りてこなかった。
ずっと、見上げるように、私を見ていた。

「“落ち着いて従えた”って、
 なにそれ。
 私には“落ち着けへん従わせ方”してほしいってこと?」

「…違う。そういう意味じゃ──」

「じゃあどういう意味?」

その言葉に、私は完全に詰まった。

彼女はカップを置いた。
そして、声をひそめるように、でも確かに言った。

「ミオは、私が壊したから“ミオ”になったんやろ?」

「その身体も、反応も、命令の受け方も──
 私の言葉でできてるって、自分でわかってるよな?」

「なのに他の誰かに、
 “いい趣味”とか、
 “わかってくれてる”とか言って」

「…誰に評価されてんの?」

私は、返せなかった。
返したら、何かが終わる気がした。
でも返さないことが、
何かを始めてしまうことも、わかっていた。

彼女はゆっくりとバッグを持ち、立ち上がった。
そのとき、ぽつりとこう言った。

「他の誰かに従っていいのは、
 “従ってる自分が一番惨めに見えるときだけ”やで」

「それ以外のとき、ミオが“誰かの褒め言葉”で整ってたら、
 それ、ただの裏切りやと思ってる」

そのまま、彼女は出ていった。
アイスが半分残ったままのコップを置いて。

私はそれを見つめながら、
冷たさの残るストローを口にくわえた。

そして──
身体のどこかが、ぎゅっと締めつけられるような快感を感じた。

彼女が怒った。
それだけで、私は安心していた。

“自分はまだ壊され続けている”という証明を、
こんなにも求めていたなんて。

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