壊れて、笑って、生きていく②──主に委ねるカラダ

もっと恥ずかしいこと、もっと笑われるために

「ナナ、また来いよ！」

ホテルを出るとき、
主友の一人がそう言った。
主も隣で、ちょっとだけ笑ってた。

私は、「うん」って、素直に答えた。

もう身体中がヒモの跡でヒリヒリしてたのに、
また呼ばれたいって思ってた。

数日後、またLINEがきた。

『今度、もっとすごい芸な。期待してるで。』

短いけど、主からだった。

私は嬉しかった。
けど、同時に、
どこか胸の奥がきゅっと痛んだ。

そして、次の夜。

個室居酒屋に集まったメンバーは、
前よりも人数が増えてた。

「ナナ、今日の芸、楽しみにしてたからな！」
「主から聞いたで、裸傘芸の伝説！」

笑いながら肩を叩かれた。
私も笑った。
笑うしかなかった。

まず求められたのは、"着せ替えゲーム"。

持ってこられたのは、
明らかにふざけたセクシーコスプレの山。

🔹猫耳とヒョウ柄パンツだけのセット
🔹全身網タイツ
🔹下着の紐だけのセット

「ナナ、これ順番に着て、ファッションショーな！」

私はひとつずつ着替えた。
着替えるたび、拍手と笑い声が起こった。

次は「演技対決」。

「ナナ、今から“恥ずかしがるアイドル”な！」
「次は、“怒るキャバ嬢”な！」
「次は、“バレた浮気女”な！」

私はヒモみたいな衣装のまま、
必死で声を震わせ、
顔を赤くして、
演じた。

そのたびに爆笑が起こった。

私は、
笑われるたび、
どんどん自分が透明になっていく気がした。

最後に言われた。

「ナナ、今日のフィナーレな。
　裸で土下座して、"生まれてきてすみません"って叫んで！」

さすがに一瞬だけ、ためらった。
でも、
みんながじっと見てた。
主も、笑いながら見てた。

私は、
笑われたかった。
それよりも、
主に見てもらいたかった。

床に手をつき、
何も隠せない身体で、
小さな声で叫んだ。

「生まれてきて、すみません！」

拍手と爆笑の嵐。

私は頭を下げたまま、
ひとり、
心の中で泣いてた。

でも、
ふと頭を撫でる手があった。

主だった。

「ナナ、今日も一番やったな」

たったそれだけ。

でも私は、
あの夜、
裸よりも心を全部さらけ出して、
主に「見られること」を選んだんやと思う。