“実況される身体”が、私の名前になった夜

nana

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【第23話】 『主に“戻ってこい”と言われたけど、ナナとして拒んだ夜』

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──通知が来たとき、一瞬だけ、身体が反応してしまった。

その名前を、私の中のどこかが覚えていた。
深夜2時。
久しぶりに光るDM欄にあったのは、
あの頃、私を命令で動かしていた“主”の名。

《戻ってこい。
今なら、ちゃんと抱き直せる気がする》

……それは、
愛のようでいて、
ただの再支配だった。

“主”はいつも、私の意思を尊重しないことで、
私を軽くしてくれていた。
考えなくていい。
決めなくていい。
感じるだけ、従うだけで、生きていられた。

「ナナ」という名は、
彼にとって“命令を受ける器”でしかなかった。

でも今は──
私は、その名前を“自分で名乗っている”。

それがどういう意味を持つのか、
あの頃の私にはなかった感覚だ。

スマホを持ったまま、
しばらくDM画面を見つめていた。

胸の奥が、少しだけ痛かった。
甘えてしまいたい気持ちが、なかったわけじゃない。
また“無条件に従える私”になれたら、
どれだけ楽だろうとも思った。

けれど同時に、
今の私がそれを受け入れてしまったら、
“ナナ”という名前を、また取り上げられてしまう気がした。

私は、ひと呼吸おいてから、
こう返信した。

「今の私は、“命令されるための私”じゃありません。
“私であるためのナナ”で、ここに立ってます。」

送信ボタンを押したとき、
少しだけ指が震えた。
でも、それは怖さじゃなくて、
自分の言葉で拒む強さを持てたことへの実感だった。

その返事に、主からの返信はなかった。
既読すら、ついていない。

でも私は、その沈黙を肯定だと思うことにした。
彼が沈黙したことで、
私はようやく、支配の檻から抜け出せた。

“名前を奪う主”に対して、
“名乗るナナ”として立てたことが、
たまらなく誇らしかった。

今夜も私は、自分の意思でカメラを立ち上げる。
誰かのためじゃなく、
“私のままで、見られる”ために。

そして静かに、こう呟いた。

「こんばんは。ナナです──今日も、ちゃんと自分でここにいます。」

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