異端の聖女

わしお

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プロローグ

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窓のない小さな地下室に、薄明るい光がひっそりと灯っている。

無機質な石壁に覆われた小部屋の中央には、簡素なベッドが一つ。そこにはお腹の大きな若い女性が仰向けに横たわり、大粒の汗を流し、苦しそうな呻き声を上げていた。

女性の両脇では、清潔な白い服を着た女性が二人、ベッド上の女性に熱心に声をかけている。傍には大量のタオルやお湯が準備され、ベッド上の女性が出産目前であることが見て取れた。

そしてそれを聖職者のような男性が複数人、物々しい様子で取り囲んでいた。

やがて小部屋の中に、元気な二つの産声が響いた。

白服の女性たちは、ベッド上の女性を明るい声で労わった。ベッド上の女性も安心したように息をつく。

しかし聖職者たちの中に、喜びの声を上げる者はいなかった。
聖職者たちはざわめき、新しい命の誕生の場とは思えないような、驚きや困惑の表情を浮かべている。

「両方とも女だと!?」
「神の双子は必ず男女のはずでは」
「女が太陽の力を有しているなどあり得るのか?」
「やはり“月の聖女”ではないと駄目なのか!?」
「実は神の双子ではないという可能性も……」

「落ち着けお前たち!」

パンパンと両手を叩く音に、騒然としていた聖職者たちは静まり返った。
手を叩いたのは、聖職者の中で最も豪奢な服を着た男だった。

「まずはが神の子であるか確かめようではないか」

男は余裕そうな笑みでそう言うが、その額には幾粒もの汗が滲んでいた。

男はナイフを手に、生まれたばかりの双子にゆっくりと近づいていく。そして最初に生まれた赤子の腕を乱暴に掴んだ。

白服の女性たちが男を止めようとする。しかし男は構わずナイフを赤子の腕に押し当て、そのまま何の躊躇もなくナイフを引いた。

ナイフの軌道を描くように鮮血が飛び散る。しかしその血を気にするものは、聖職者の中に一人もいない。皆食い入るように、赤子の傷口を見つめていた。

そしてその傷は見る見るうちに細くなり、瞬く間に消え去った。

聖職者たちが再びどよめいた。

「治った……」
「太陽の力に間違いない!」
「まさか本当に女が太陽の力を……!?」

赤子の腕を切った男は、我が目を疑うように何度も瞬きをした。ナイフを持つ手が、恐怖に怯えるようにカタカタと震える。

「異端だ……」

男の手からナイフが滑り落ちる。ナイフは絶望する聖職者たちの心を刺すように、鋭い音を立てて床に突き刺さった。



「異端の聖女の誕生だ……!」
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