平凡な薬師が勇者に負けた魔王様を拾ってしまった。

わしお

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第15話

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エマが祖母の薬の正体に辿り着けたのは、エマが似たような材料で薬を作ろうと考えたからだった。

エマが考えていたのは、ルカの腕を再生させる薬だ。
死した肉体の再生と失った体の一部の再生では方向性が異なるが、肉体の大幅な再生という意味では似通った部分もあった。

しかしエマが思うに、薬だけに頼るのはかなり難しい。

(素直に義手作った方がいいのかな……)

元冒険者である村人によると、魔法を組み込んだ義手であれば、元の腕と同じように使えるものもあるらしい。

魔法というのは、エマの想像以上に万能なものなのかもしれない。今まさに魔法で料理をしているルカを眺めながら、エマはそう思った。

エマが家事が苦手だと聞いたルカは、簡単な魔法でできる範囲であれば手伝うと言ってくれた。ルカの魔法はエマからするとかなり万能で、エマがいつも作る料理程度であれば、魔法で簡単に作れてしまった。
腕がなくても魔法で十分まかなえるのではとも思ったが、魔法は結構体力を消費するものらしい。腕があるなら、腕を使うに越したことはない。

(魔法を勉強して、魔族も回復できる治癒魔法を開発する?薬と魔法を組み合わせたりはできるのかな。でも魔法使えないのにどうやって研究する?)

頭の中で色々な案がぐるぐると回り、なかなか考えがまとまらない。

そのとき、玄関からカラカラと木の枝が擦れるような音が聞こえた。
これは来客に気付けるよう、木の枝を扉に複数取り付けてベルのように鳴らす仕組みだ。誰かが薬を買いに訪れたのだろう。

エマが駆け足で玄関に向かうと、そこにはアンナが立っていた。そういえば、前回渡した腰痛の薬がなくなるころかもしれない。

「いらっしゃい。また腰痛の薬?」
「ええ……。いつもありがとう」

アンナは柔らかな笑顔で微笑んだが、その目は少し疲れているようにも見える。
アンナは客人用の丸椅子に腰を下ろした。その動作もただ腰が痛むだけでなく、どこか疲れているように見える。

「どうしたの?また心配事?」

エマがそう言うと、アンナは「わかる?」と力のない笑顔をエマに向けた。

「ご近所さんと話していて、ちょっとね……」

そこまで口にして、アンナは言い淀んだ。お喋りな彼女にしては珍しい。

「もしかして、あたしのこと?」

エマがそう尋ねると、アンナは手をもじもじさせながら目を逸らした。どうやら図星のようだ。

「あのね、エマが怪我人さんを拾ってきたでしょう?でもエマがその人を誰にも会わせたがらないから、その……」
「憶測が立っていると」

アンナは小さくうなずいた。

「私はエマを信用したいのよ?でも疑ってる人もいてね。悪い人を匿っているとか、実は怪我人がいるっていうのは嘘で、村を巻き込む危ない研究のために引きこもっているとか」
「あー……」

ルカを匿って村人との交流を疎かにしているのだから、根も葉もない噂が立つのは仕方がないと思っていたが、信用のなさが如実に出ていて、エマは笑うしかなかった。

村の中でのエマの評価は、「祖母に似た“変わり者”」。つまり信用は薄い。
よく薬を買っていく人ならある程度関係を築けているが、そうでない人からすると、エマは「怪しげな研究をしている協調性のない独身娘」だ。噂話の格好の獲物だろう。

そろそろルカを隠すのに限界があるとはエマも思っていた。とはいえ、魔族であるルカを村人に会わせるわけにはいかない。

どうしたものか。アンナも口では「信用したい」と言っているが、疑っているのは明らかだ。
何かいい言い訳はないか。そう考えていたとき。

「エマ、お客様の茶を淹れたが」

聞こえたルカの声に、エマは持っていた軟膏を落としそうになった。

なぜ。ばれてはいけないと、ルカもわかっているはずなのに。

エマは声が聞こえた、家の奥に続く入口に顔を向けた。

(あれ……?)

そこにいたのは間違いなくルカだ。しかし、いつもとどこか雰囲気が違う。
黒い髪も白い肌も、高い背丈もいつも通りだ。しかし、決定的に違う箇所が一つある。

(目が茶色い……)

闇夜に輝く月のような瞳は、柔らかな薄茶色に変わっていた。
全体の雰囲気自体も、威圧感が和らいでいるように感じる。それに、鋭い犬歯も人間と変わらない大きさになっている。

その姿は、人間にしか見えなかった。

「あら、まあ」

アンナはルカに驚いている……というよりは、見惚れているようだった。それはそうだろう。この村には、ルカほど整った顔立ちの男性はいない。

ルカはアンナに茶を差し出し、アンナは驚きながらもそれを受け取る。

「すみません、お騒がせしてしまって……」

ルカがそう言うと、アンナは何度も首を横に振った。

「いえいえ、そんな。こちらこそ疑いをかけてしまって、申し訳なかったわ。お体は大丈夫なんですか?」
「はい。エマのおかげですっかり良くなりました」
「それはよかったわぁ。まだしばらくこちらにいらっしゃるの?」
「はい。恥ずかしながら無一文で治療費が払えないので、労働で返していこうかと」
「そう~。片腕では大変でしょう?困ったことがあったら呼んでくださいね」

ルカと一通り話したアンナは、エマの方を見て満面の笑みを浮かべた。

「もうエマったら~。そういうことなら言ってくれたらいいのに」
「え?どういうこと?」
「でもそうよねぇ。こんな素敵な人が来たら、村中大騒ぎだものねぇ」

アンナはルカから受け取ったお茶を一口含んだ。

「あら、これいつものお茶?エマが淹れるより美味しいわ」
「悪かったわね不器用で」

ルカにお茶の淹れ方を教えた覚えはないが、エマの手元を見ていたか、あるいは元から知っていたのだろう。エマは毎日淹れているというのに、負けた気がして少々悔しく思った。

その後も小一時間アンナのおしゃべりに付き合った。帰り際のアンナは、来たときとは別人のように明るい表情をしていた。

「じゃあねエマ、ルカさん。ご近所のみんなには心配ないって伝えておくから」
「あー、うん。またね」

アンナとは反対に、エマは疲れ切った顔でアンナを見送った。
アンナが去った後、リビングに戻ったエマとルカは疲労困憊でテーブルに突っ伏した。

「よく喋るご婦人だな……」
「悪い人じゃないんだけどね……。今度は違う噂が立ちそう……」

エマは大きくため息をついた。
テーブルから顔を上げたルカは、なぜか少し楽しそうに笑った。

「いいのではないか?悪事を疑われるよりは」
「いやいや。絶対みんなルカの顔見に来るから」

そう言いながら顔を上げたエマは、ルカの薄茶色の瞳と目が合った。

「あ、そうだ。その目どうしたの?人間みたい」

アンナの対応に必死で忘れかけていたが、ルカの瞳はあの光り輝く金色ではなくなっていた。

エマの問いに、ルカは思い出したように瞬きをした。どうやらルカも忘れていたらしい。
ルカは左目を覆うように手を顔に当て、少しだけ考えるような間を取った。

「……エマには話しても良いか」

ルカは姿勢を正して、少し悲し気な表情でエマを見た。

「私は、半分人間なんだ」
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